その面接、「選考してやっている」という姿勢になっていませんか?
売り手市場が続く現代の採用活動において、企業は候補者を「選ぶ」立場であると同時に、候補者から「選ばれる」立場でもあります。特に優秀な人材ほど、複数の選択肢の中から次なるキャリアの舞台を選びます。その最終的な意思決定に、面接での体験、すなわち「候補者体験(Candidate Experience)」が極めて大きな影響を与えます。
「面接官の態度が高圧的だった」「会社の魅力が全く伝わってこなかった」。このようなネガティブな体験は、内定辞退の直接的な原因となり得ます。本コラムでは、「候補者を惹きつける」という観点から、そのために不可欠な面接官研修の重要性と、その具体的な中身について紐解いていきます。
【事例】「良かれと思って」が裏目に:老舗食品メーカーC社の内定辞退問題
当社のご支援実績をもとに、ある歴史ある老舗食品メーカーC社のケースを例に考えてみましょう。C社は、安定した経営基盤と高い商品力を持ちながらも、若手・中堅の企画職やマーケティング職の採用に苦戦していました。最終面接まで進んでも、競合の企業や外資系企業に流れてしまう、という内定辞退が続いていたのです。
人事部が内定辞退者に匿名でアンケートを取ったところ、以下のような声が寄せられました。
- 一方的な質問攻め
面接官(主にベテランの役員層)からの質問に答えるばかりで、逆質問の時間がほとんどなく、企業理解を深められなかった。 - 魅力の伝達不足
企業の歴史や製品の優位性の説明に終始し、入社後にどのようなキャリアを築けるのか、どのような成長機会があるのかといった、候補者が本当に知りたい情報が得られなかった。 - カルチャーへの懸念
面接官の言動から、年功序列で保守的な企業文化という印象を受け、自身のキャリアビジョンと合わないと感じた。
C社の面接官の振る舞いは、候補者体験を損ない、結果として企業の成長機会を奪っていました。この状況を打破するために必要なのは、個人の意識変革に期待するのではなく、体系的な面接官研修によって、候補者を惹きつけるスキルとマインドを組織的にインストールすることでした。
面接官研修で何を教えるべきか
私たちコトラは、候補者から選ばれる企業になるためには、面接官一人ひとりが企業の「広告塔」であるという自覚を持ち、適切なスキルを発揮する必要があると考えています。ここでは、候補者体験を高める面接官研修で重点的に扱うべき2つの要素を解説します。
マインドセットの転換:評価者から「対話のパートナー」へ
多くの面接官は、「候補者を評価し、見極める」という意識が強すぎる傾向があります。しかし、優れた候補者体験は、まず面接官が候補者と対等な立場で対話するパートナーである、というマインドセットを持つことから始まります。面接官研修では、この意識変革を最重要テーマとして設定します。 具体的には、以下のような内容を研修プログラムに組み込むことが有効です。
- 傾聴のトレーニング
相手の話を遮らず、相槌やうなずき、適切な質問によって、候補者が安心して話せる雰囲気を作る技術を学びます。 - 共感の重要性
候補者のキャリアや価値観を尊重し、寄り添う姿勢が信頼関係を構築することを理解します。 - 自己開示の促し方
面接官が自身の経験(成功も失敗も含め)を適度に開示することで、候補者の自己開示を促し、より本質的な対話を生む方法を学びます。
スキルの習得:「惹きつけ」のためのコミュニケーション技術
適切なマインドセットを土台に、次により具体的なコミュニケーションスキルを習得させます。これは、自社の魅力を一方的に伝えるのではなく、候補者一人ひとりの心に響く形で魅力を伝えるための技術です。研修では、以下のようなスキルをロールプレイングなどを通じて実践的に学びます。
- 動機を探る質問力
候補者が「なぜ転職を考えるのか」「仕事において何を大切にしているのか」といった本質的な動機を引き出す質問の仕方を学びます。 - 魅力の個別最適化
引き出した動機に対し、自社の魅力(事業内容、キャリアパス、働きがい、文化など)をどのように結びつけて語るかをトレーニングします。例えば、「成長したい」という候補者には挑戦的なプロジェクト事例を、「社会貢献」を重視する候補者には自社の事業が持つ社会的意義を、具体的に伝えます。
研修効果を最大化し、組織に根付かせる仕組み
一度の研修だけでは、行動変容は長続きしません。学んだスキルとマインドを組織文化として定着させるための仕組みづくりが不可欠です。
「EVPの共有」で、伝えるべき魅力の共通認識を持つ
EVP(従業員価値提案)とは、企業が従業員に提供できる独自の価値を指します。面接官研修の前に、まず「自社が候補者に提供できる魅力は何か」を言語化し、全社的な共通認識としてEVPを策定します。
これを研修の教材として活用することで、面接官は「何を伝えるべきか」という指針を持つことができ、一貫性のある魅力付けが可能になります。
「逆質問の活性化」を、トレーニングの実践の場と位置づける
候補者からの逆質問の時間は、学んだ「対話」のスキルを実践する絶好の機会です。面接官研修では、逆質問に対して誠実に、そして候補者の関心に合わせて回答するロールプレイングを重点的に行います
「何か質問はありますか?」と待つのではなく、「〇〇様のご経験なら、当社のこの部分に興味をお持ちになるかもしれませんが、いかがでしょうか?」と能動的に対話を促す姿勢をトレーニングします。
全ての面接官が、企業の最高の広告塔である
今回は、内定辞退を防ぐという観点から、候補者体験を高めるための面接官研修のあり方について、より具体的に踏み込んで考察しました。候補者に「この会社で働きたい」と心から思ってもらうためのマインドセットとスキルは、個人の資質に依存するものではなく、体系的な研修によって習得・向上させることが可能です。
優れた面接官研修への投資は、採用競争力を高めるだけでなく、企業のブランドイメージを向上させ、長期的な成長を支える人材獲得に繋がる本質的な一手と言えるでしょう。
株式会社コトラでは、人的資本経営に関する深い知見と豊富な実績で、貴社の課題解決をサポートします。候補者体験を向上させるための面接官研修の設計・実行や、採用ブランディング戦略に関するご相談は、お気軽にお問い合わせください。