なぜエンゲージメント施策が成功しないのか? 陥りがちな3つの罠と対処法

「良かれと思って」が、なぜ裏目に出てしまうのか

従業員エンゲージメント向上の重要性が叫ばれる中、多くの企業が多大な時間と労力を費やして、様々な施策を導入しています。しかしながら、「施策を導入すること」自体が目的となり、現場の負担感や疲弊感を増すだけで、本来目指していたはずの組織活性化に繋がっていない、という皮肉な結果を招いているケースも少なくありません。

「良かれと思って」始めたはずの取り組みが、なぜ期待通りに進まないのか。その背景には、いくつかの典型的な失敗のパターンが存在します。本コラムでは、多くの企業が陥りがちな3つの「罠」を明らかにし、そこから抜け出すための具体的な対処法を解説します。

エンゲージメント向上を阻む「3つの罠」

従業員エンゲージメント向上への道のりには、注意すべき落とし穴があります。ここでは、特に頻繁に見られる3つの罠について、その構造を解き明かします。

罠1:目的の形骸化 ー「何のために?」が共有されていない

最も陥りやすいのが、「サーベイのスコアを上げること」自体が目的になってしまう罠です。経営層から「エンゲージメントスコアを向上させよ」という指示だけが現場に下り、従業員一人ひとりは「なぜ自分がこれに取り組む必要があるのか」を理解できないまま、やらされ感だけが募っていきます。

従業員エンゲージメントとは、本来、企業の成長と個人の成長が連動している状態を指すにもかかわらず、その本質的な目的が共有されていないのです。

罠2:現場への丸投げ ー マネージャーの善意と努力に依存する

エンゲージメント向上の鍵を握るのは、日々のコミュニケーションを担う現場のマネージャーであることは間違いありません。しかし、その重要性を強調するあまり、本社の人事部が具体的な支援をすることなく、「あとはよろしく」と丸投げしてしまうケースが後を絶ちません。

プレイングマネージャーとして自身の業務に追われる中で、部下のエンゲージメント向上という新たな重責を負わされたマネージャーは、孤立し、疲弊してしまいます。結果として、施策はマネージャー個人の力量に依存し、組織的な取り組みとして定着しません。

罠3:施策の単発化 ー「線」ではなく「点」で終わる

新しい制度の導入や研修の実施、社内イベントの開催など、華々しい施策は一時的な注目を集めます。しかし、それらの施策が互いにどう連携し、長期的にどのような組織を目指すのかという「ストーリー」が描かれていない場合、効果は長続きしません。

サーベイで課題が見つかれば研修を実施し、また次のサーベイで別の課題が見つかれば新たなイベントを企画する、といった「モグラ叩き」のようなアプローチでは、組織文化として従業員エンゲージメントを育むことは困難です。

罠から抜け出し、施策を成功に導く「3つの対処法」

これらの罠を回避し、従業員エンゲージメント向上施策を実りあるものにするためには、どのような視点が必要でしょうか。具体的な処方箋を3つ提示します。

対処法1:「Why」の共有と対話の徹底

施策(What)や方法(How)から入るのではなく、まずは「なぜ(Why)私たちはエンゲージメント向上に取り組むのか」という目的を、経営層が自らの言葉で、繰り返し発信することが不可欠です。そして、その目的と従業員一人ひとりのキャリアや成長がどう繋がるのかを、対話を通じてすり合わせる機会を設けるべきです。

コトラが支援するエンゲージメント向上策の企画立案では、この「目的の言語化と共有」のプロセスを最も重視しています。

対処法2:マネージャーを「支援する仕組み」の構築

マネージャーを「施策の実行者」としてだけでなく、「支援の対象者」として捉え直す必要があります。

  • 具体的なツールの提供
    1on1で活用できる対話シートや、部下の強みを発見するためのアセスメントツールなどを提供する。
  • マネージャー同士の学びの場の設定
    成功事例や悩みを共有するワークショップを開催し、孤立を防ぎ、組織としてのナレッジを蓄積する。
  • 評価制度の見直し
    短期的な業績だけでなく、部下の育成やエンゲージメント向上への貢献を、マネージャーの評価項目に組み込む。

対処法3:施策の「ストーリー化」と継続的な改善

個別の施策を、人材戦略全体の文脈の中に位置づけ、一貫したストーリーとして設計します。「採用」から「オンボーディング」「育成」「評価」「配置」といった一連の人材マネジメントサイクルの中で、従業員エンゲージメントをいかに高めていくか、という長期的視点が求められます。

そして、一度始めた施策は、定期的に効果を測定し、従業員からのフィードバックを元に改善を繰り返す。このPDCAサイクルを回し続ける覚悟が不可欠です。

失敗から学び、着実な一歩を踏み出す

従業員エンゲージメント向上への道は、決して平坦ではありません。多くの企業が試行錯誤を繰り返し、時には失敗も経験します。重要なのは、これらの典型的な失敗パターンをあらかじめ理解し、自社の取り組みを客観的に振り返ってみることです。

目的は明確か。現場に寄り添っているか。取り組みは持続可能か。これらの問いに向き合うことが、形骸化した施策を蘇らせ、組織を動かす着実な一歩に繋がると考えられます。

株式会社コトラでは、人的資本経営に関する深い知見と豊富な実績で、貴社の課題解決をサポートします。多くの企業が陥りがちな失敗パターンを踏まえ、貴社の状況に最適化されたエンゲージメント向上策の企画立案をご支援します。より具体的なご相談は、お気軽にお問い合わせください。

この記事を書いた人

kotora

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コトラ(人的資本チーム)

経営戦略に連動した「動的な人材ポートフォリオ」の構築から、「採用」「育成」といった人材マネジメントの実践まで、人的資本経営を一気通貫で支援しています。

コンサルタント紹介

杉江 幸一郎
ディレクター ISO30414リードコンサルタント

東京大学経済学部経営学科卒。大手メーカー、通信事業者、IT企業など上場事業会社にて経営企画、事業戦略、新規事業立ち上げ等の責任者を歴任。上場企業取締役、CISO および ISO事務局等も担当。

コトラでは、ISO30414を始めとした人的資本経営のコンサルティングに従事。ISO30414リードコンサルタント。ESG情報開示研究会、人的資本経営コンソーシアム、地方創生SDGs官民連携プラットフォーム会員。
X(旧Twitter):@Kotora_cnsl


蘇木 亮太
コンサルタント ISO30414リードコンサルタント

同志社大学法学部卒。大手教育系企業でのコンサルタント経験を経て、金融系スタートアップに入社。 組織・人事企画チームに所属し、エンゲージメント向上施策やDE&I推進、研修開発、人事制度運用等を担当。

コトラでは、有価証券報告書・統合報告書における人的資本開示、ISO30414、人事組織コンサル等に従事。ISO30414リードコンサルタント資格/日本ディープラーニング協会G検定保有者。


大西裕也
リサーチャー兼コンサルタント

神戸大学大学院経済学研究科卒。教育経済学を専攻。

コトラでは、ISO30414認証取得支援及び人的資本開示動向のリサーチ、人事データ分析・レポート作成等に従事。
DX推進パスポート(G検定、データサイエンティスト検定、ITパスポート)、一種外務員資格取得者。


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