人材の過不足を解消する、実践的な「要員計画」の立て方

なぜ、部門間で人材の「過不足」が発生してしまうのか?

「成長事業を担う部門は慢性的な人手不足に悩み、一方で、成熟事業の部門では人材の活躍機会が減っている」
「全社で見れば人員は足りているはずなのに、現場では常に『人が足りない』という声が絶えない」

このような「人材の偏在」は、多くの経営者や人事責任者の皆様にとって、頭の痛い問題ではないでしょうか。部門ごとに採用や異動を繰り返す、いわば「もぐら叩き」のような対応では、根本的な解決には至りません。本コラムでは、人材の過不足という喫緊の課題に対し、要員計画を通じていかに戦略的にアプローチしていくか、その具体的な立て方と実践策を解説します。

人材の過不足は「量の問題」ではなく「質のミスマッチ」

部門最適がもたらすアンバランス

人材の過不足はなぜ発生するのでしょうか。その根底には、各部門が自部門の都合を優先する「部門最適」の考え方が存在することが少なくありません。

  • 人材の抱え込み
    優秀な人材や専門性の高い人材を、他部門へ異動させることに抵抗を感じる。
  • 場当たり的な補充
    退職者が出たポストに、前任者と類似のスキルセットを持つ人材を単純に補充してしまう。
  • 全社視点の欠如
    他部門の状況や、会社全体の戦略的な優先順位を考慮せずに、自部門の要員計画を立ててしまう。

これらの積み重ねが、全社レベルでのアンバランス、すなわち人材のミスマッチや流動性の低下を招く大きな要因となっていると考えられます。

「動的な人材ポートフォリオ」による流動性の確保

この根深い問題を解決するためには、人材を特定の部門の「資産」として捉えるのではなく、全社共通の「資本」として捉え、その価値を最大化する視点への転換が必要です。私たちは、これを実現する方法として「動的な人材ポートフォリオの構築」が重要だと考えています。

これは、一度計画を立てて終わりではなく、事業戦略や環境の変化に応じて、社内の人材を柔軟かつ機動的に再配置できる仕組みと文化の構築を目指すものです。戦略的な要員計画に基づき、計画的な異動や公募制度などを活用して人材の流動性を高めることが、組織全体の活力を生み、人材の過不足を解消する鍵となると考えています。

*動的な人材ポートフォリオの詳細は、以下のコラムをご参照ください。

過不足を解消する、戦略的要員計画と実行アクション

全社最適の視点から人材の過不足を解消するための要員計画は、どのように立て、実行すればよいのでしょうか。

ステップ1:全社横断での現状把握と課題特定

まずは、部門の壁を取り払い、会社全体の人材配置の状況を客観的に把握します。

  • 人員構成の分析
    部門別・職種別の過不足感を、定量データ(残業時間、生産性指標など)と定性データ(従業員サーベイ、上司ヒアリングなど)の両面から分析します。
  • スキル・経験の棚卸し
    「〇〇のスキルを持つ人材は、どの部門に何名いるか」といったスキルベースでの可視化を行い、人材の偏在や、潜在的な活用可能性を探ります。

この分析を通じて、「A事業部で不足しているマーケティングスキルは、B事業部の〇〇さんが保有している」といった、部門を越えた人材活用の糸口を見つけ出します。

ステップ2:全社最適の観点からの要員計画策定

次に、各部門の要求をただ積み上げるのではなく、経営戦略上の優先順位に基づき、全社レベルでリソース配分を最適化する要員計画を策定します。

  • 優先順位付け
    成長事業や新規事業、全社的なDX推進など、戦略的に重要な領域への人員重点化を明確にします。
  • 過剰人員の再配置計画
    人員に余剰感のある部門から、不足している部門へ、どのようなスキルを持つ人材を、どのような育成プログラムを経て異動させるか、具体的な計画を立てます。
  • 採用計画の見直し
    安易な増員に頼るのではなく、まずは社内での再配置や育成で充足できないかを最優先で検討します。

ステップ3:人材流動化を促進する施策の実行

計画を絵に描いた餅で終わらせないためには、人材の流動化を後押しする具体的な施策の実行が不可欠です。

  • 戦略的異動・配置
    要員計画に基づき、トップダウンでの戦略的な人材異動を実施します。
  • 社内公募制度の活性化
    従業員が自律的にキャリアを選択できる機会を提供し、挑戦を促します。
  • リスキリング・学び直しの機会提供
    異動先で必要となるスキルを習得するための研修やサポート体制を整備します。
  • サクセッションプラン
    主要なポストについて、後継者候補を平時から計画的に育成・準備しておきます。

これらの施策は、従業員にとっても新たなキャリアの可能性を拓く機会となり、エンゲージメントの向上にも繋がるでしょう。

人材の最適配置こそ、組織のパフォーマンスを最大化する

人材の過不足という問題は、放置すれば組織の活力を蝕み、成長を鈍化させる深刻な経営課題です。この問題の根本原因は、「量」ではなく「質」のミスマッチ、そして「部門最適」の壁にあります。

要員計画を全社最適の視点で見直し、戦略的な人材配置と流動化を促進すること。それこそが、限られた人的資本を最大限に活かし、組織全体のパフォーマンスを高めるための最も効果的な方法といえるでしょう。

株式会社コトラでは、人的資本経営に関する深い知見と豊富な実績で、貴社の課題解決をサポートします。動的な人材ポートフォリオの構築など、より具体的なご相談は、お気軽にお問い合わせください。

この記事を書いた人

kotora

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コトラ(人的資本チーム)

経営戦略に連動した「動的な人材ポートフォリオ」の構築から、「採用」「育成」といった人材マネジメントの実践まで、人的資本経営を一気通貫で支援しています。

コンサルタント紹介

杉江 幸一郎
ディレクター ISO30414リードコンサルタント

東京大学経済学部経営学科卒。大手メーカー、通信事業者、IT企業など上場事業会社にて経営企画、事業戦略、新規事業立ち上げ等の責任者を歴任。上場企業取締役、CISO および ISO事務局等も担当。

コトラでは、ISO30414を始めとした人的資本経営のコンサルティングに従事。ISO30414リードコンサルタント。ESG情報開示研究会、人的資本経営コンソーシアム、地方創生SDGs官民連携プラットフォーム会員。
X(旧Twitter):@Kotora_cnsl


蘇木 亮太
コンサルタント ISO30414リードコンサルタント

同志社大学法学部卒。大手教育系企業でのコンサルタント経験を経て、金融系スタートアップに入社。 組織・人事企画チームに所属し、エンゲージメント向上施策やDE&I推進、研修開発、人事制度運用等を担当。

コトラでは、有価証券報告書・統合報告書における人的資本開示、ISO30414、人事組織コンサル等に従事。ISO30414リードコンサルタント資格/日本ディープラーニング協会G検定保有者。


大西裕也
リサーチャー兼コンサルタント

神戸大学大学院経済学研究科卒。教育経済学を専攻。

コトラでは、ISO30414認証取得支援及び人的資本開示動向のリサーチ、人事データ分析・レポート作成等に従事。
DX推進パスポート(G検定、データサイエンティスト検定、ITパスポート)、一種外務員資格取得者。


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