未来を託す要員計画 サクセッションプランとの戦略的連携法

5年後、10年後。その重要ポストに座っているのは誰ですか?

「現在の経営陣が退任した後、安心して会社を任せられる人材がいるだろうか」
「エース級の事業部長が突然離職したら、事業の成長が止まってしまうかもしれない」

企業の経営者や人事責任者の皆様にとって、将来の経営や事業を担うリーダーの育成は、極めて重要な経営課題です。にもかかわらず、日々の業務に追われ、後継者の育成が場当たり的になってはいないでしょうか。

特定の個人の能力に依存した組織は、その人物が不在となった瞬間に、大きな経営リスクに直面します。本コラムでは、企業の未来を持続可能なものにするための、「サクセッションプラン」と連携した戦略的な要員計画の立て方について解説します。

サクセッションプランは全社要員計画の最重要パーツ

「誰かが育つのを待つ」経営からの脱却

サクセッションプラン(後継者育成計画)と聞くと、社長や役員など、一部のトップ層の後継者選びをイメージされるかもしれません。しかし、人的資本経営におけるサクセッションプランは、より広範かつ戦略的な意味を持ちます。

それは、企業の持続的成長に不可欠な「重要ポスト」を定義し、そのポストを担う人材を計画的に特定・育成・準備しておくための一連のプロセスです。これは、全社的な人員の過不足を管理するマクロな要員計画とは別のものとして扱われがちですが、本質的には、要員計画の中でも最もクリティカルな部分を担う「最重要パーツ」と位置づけるべきだと考えられます。なぜなら、たとえ従業員数が充足していても、事業戦略の実行を牽引するリーダーがいなければ、事業活動そのものが停滞しかねないからです。

候補者リストから「タレントパイプライン」への進化

多くの企業では、サクセッションプランが「後継者候補リスト」の作成で終わってしまっているケースが見受けられます。しかし、事業環境が激しく変化する現代において、固定的なリストはすぐに陳腐化してしまいます。

私たちコトラが重視するのは、特定の候補者を選んで終わりにするのではなく、将来のリーダー候補となりうる人材群を継続的に確保・育成し続ける仕組み、いわゆる「タレントパイプライン」を構築する考え方です。事業戦略の変更や候補者の成長・離職といった変化に対応しながら、常に質の高い人材が候補者として準備されている状態を維持します。

この動的な人材管理こそが、企業のレジリエンス(変化への対応力)を高める鍵となると考えられます。

未来のリーダーを育てる、要員計画・サクセッションプラン4つのステップ

では、具体的にどのように計画を立て、実行していけばよいのでしょうか。ここでは、基本的な4つのステップをご紹介します。

ステップ1:事業戦略に基づく「重要ポスト」の特定

最初のステップは、サクセッションの対象となるポストを明確にすることです。

  • 現在の重要ポスト
    社長、役員、本部長、工場長など、現在の組織運営に不可欠なポスト。
  • 未来の重要ポスト
    3〜5年後を見据え、新規事業のリーダーや、海外拠点の責任者、DX推進の責任者など、将来の事業戦略上、新たに生まれる、あるいは重要性が増すポストを定義。

過去の延長線上ではなく、未来の戦略から逆算して考えることが重要です。

ステップ2:ポストごとに求められる「人材要件」の定義

次に、特定した重要ポストを担う人材に、どのような能力や経験、価値観が求められるのかを具体的に定義します。

  • 共通要件
    リーダーシップ、戦略的思考、企業理念への共感など、全てのリーダーに共通して求められる要件。
  • 個別要件
    各ポストに固有の専門知識、業務経験、実績など。

この人材要件が、後の候補者特定や育成計画の明確な基準となります。

ステップ3:全社的な候補者の「可視化と評価」

定義した人材要件を基に、全社から候補者となりうる人材をリストアップし、評価します。

各部門の管理者が集まり、自部門の優秀人材について情報を共有し、多角的な視点で評価する会議などの実施が効果的です。その際の評価軸は、現在の業績(パフォーマンス)だけでなく、将来の成長可能性(ポテンシャル)の2軸で評価することが一般的です。

これにより、一部の経営層しか知らなかった優秀人材を全社的に可視化し、埋もれていた才能を発掘することに繋がります。

ステップ4:候補者ごとの「個別育成計画」の策定と実行

最後に、候補者一人ひとりに対して、現状の能力と重要ポストの要件とのギャップを埋めるための育成計画を策定し、要員計画に組み込みます。育成計画には、以下のような要素を組み込むと良いでしょう。

  • 経験のデザイン
    修羅場経験やタフアサインメントと呼ばれる、あえて困難な業務や未経験の領域を経験させ、リーダーとしての器を広げる。
  • 戦略的な配置・異動
    将来のポストに必要な経験を積ませるための、計画的な部門間異動や海外赴任など。
  • 研修・メンタリング
    外部の研修プログラムへの派遣や、経営幹部による直接の指導・助言の機会を提供。

次世代リーダーの育成は、企業の未来を左右する重要課題である

要員計画の中でも、特にサクセッションプランと連動した取り組みは、成果が表れるまでに時間を要する、長期的な視点が必要な活動です。しかし、この将来に向けた人材投資を怠れば、数年後に事業の成長が停滞する、あるいは事業継続自体が困難になるといった重大な問題に直面する可能性があります。

次世代リーダーを計画的に育成する仕組みを構築し、着実に実行していくことは、現経営陣に課せられた最も重要な責務の一つです。この取り組みは、企業の持続的な成長を確実にするだけでなく、従業員に明確なキャリア目標を示すことで、組織全体の活性化にも繋がると考えられます。

株式会社コトラでは、人的資本経営に関する深い知見と豊富な実績で、貴社の課題解決をサポートします。次世代リーダーの育成計画やサクセッションプランの策定・実行支援など、より具体的なご相談は、お気軽にお問い合わせください。

この記事を書いた人

kotora

kotora

コトラ(人的資本チーム)

経営戦略に連動した「動的な人材ポートフォリオ」の構築から、「採用」「育成」といった人材マネジメントの実践まで、人的資本経営を一気通貫で支援しています。

コンサルタント紹介

杉江 幸一郎
ディレクター ISO30414リードコンサルタント

東京大学経済学部経営学科卒。大手メーカー、通信事業者、IT企業など上場事業会社にて経営企画、事業戦略、新規事業立ち上げ等の責任者を歴任。上場企業取締役、CISO および ISO事務局等も担当。

コトラでは、ISO30414を始めとした人的資本経営のコンサルティングに従事。ISO30414リードコンサルタント。ESG情報開示研究会、人的資本経営コンソーシアム、地方創生SDGs官民連携プラットフォーム会員。
X(旧Twitter):@Kotora_cnsl


蘇木 亮太
コンサルタント ISO30414リードコンサルタント

同志社大学法学部卒。大手教育系企業でのコンサルタント経験を経て、金融系スタートアップに入社。 組織・人事企画チームに所属し、エンゲージメント向上施策やDE&I推進、研修開発、人事制度運用等を担当。

コトラでは、有価証券報告書・統合報告書における人的資本開示、ISO30414、人事組織コンサル等に従事。ISO30414リードコンサルタント資格/日本ディープラーニング協会G検定保有者。


大西裕也
リサーチャー兼コンサルタント

神戸大学大学院経済学研究科卒。教育経済学を専攻。

コトラでは、ISO30414認証取得支援及び人的資本開示動向のリサーチ、人事データ分析・レポート作成等に従事。
DX推進パスポート(G検定、データサイエンティスト検定、ITパスポート)、一種外務員資格取得者。


サービスについての疑問や質問、
その他お気軽にお問い合わせください!