その「人手不足」、感覚だけで判断していませんか?
「現場の『人が足りない』という声に押され、人員補充を繰り返している」
「来期の事業計画に対し、必要な人員数を合理的に説明する根拠が乏しい」
多くの企業で、要員計画が客観的なデータよりも、関係者の「感覚」や過去の「経験則」に大きく依存しているという実態が見受けられます。しかし、変化の激しい現代の経営環境において、そのような曖昧な根拠に基づく意思決定は、人件費の非効率な投下や、事業機会の損失に繋がりかねません。
本コラムでは、データに基づいた精緻な要員計画の立て方に焦点を当て、その重要性と具体的なアプローチを解説します。
なぜ今、データドリブンな要員計画が不可欠なのか
「感覚」がもたらす計画の歪み
感覚に頼った要員計画には、いくつかの典型的な問題が伴うと考えられます。
- 声の大きい部署への偏り:問題提起を積極的に行う部署に人員が過剰に配分され、サイレントマジョリティである他の部署では潜在的な人員不足が放置される傾向があります。
- 過去の延長線上での判断:過去の成功体験や人員構成に囚われ、将来の事業構造の変化に対応できない人員計画になりがちです。
- 経営層への説明責任の欠如:「なぜその人員数が必要なのか」という問いに対し、客観的で定量的な説明が困難になります。
これらの問題を解消し、要員計画をより戦略的なものへと昇華させる鍵が「データ活用」です。
数値だけでは見えない組織の実態を捉える
データ活用というと、人員数や人件費といった定量的なデータに目が行きがちです。もちろんそれは重要ですが、私たちコトラはそれだけでは捉えきれない、いわば「数値化しにくい情報」の活用も同様に重要であると考えています。
例えば、組織サーベイで得られる従業員からの自由記述コメントや、キャリア面談での発言といった情報です。こうした従業員の生の声にこそ、組織が抱える課題の本質や、将来のリスクの兆候が表れることが少なくありません。
「どの部門でエンゲージメントが低下傾向にあるか」というスコア(数値)の背景にある「なぜ」を、こうした情報から深く読み解くこと。この両面からのアプローチが、より精度の高い要員計画の策定を可能にすると考えられます。
データに基づいた要員計画を実践する3つのフェーズ
データドリブンな要員計画は、どのように進めればよいのでしょうか。ここでは、数値データと「数値化しにくい情報」を組み合わせた、実践的な3つのフェーズを紹介します。
フェーズ1:データと情報の収集・可視化
まずは、要員計画の土台となる、あらゆる情報を集約し、分析できる状態にすることが第一歩です。
- 数値データ
- 人事データ:従業員情報、勤怠、給与、評価、スキル情報、経歴など
- 経営データ:事業部門別の売上、利益、生産性指標など
- 数値化しにくい情報
- 従業員の意識に関する情報:組織サーベイの自由記述コメント、1on1やキャリア面談の記録、退職者面談の議事録など
これらの散在しがちなデータや情報を一元的に管理し、多角的に可視化することで、組織の現状を客観的に把握します。
フェーズ2:両面からの分析と未来予測
次に、収集したデータと情報を両面から分析し、未来を予測します。
- 数値によるシミュレーション:人員数や人件費の推移、将来のスキルギャップなどを数値データに基づいてシミュレーションします。
- 質的な要因分析:上記のシミュレーションと並行し、収集した「従業員の生の声」を分析します。例えば、特定の部署で離職率の上昇が予測された(数値)場合、その原因が「キャリアパスへの不安」なのか「業務負荷の高さ」なのかを、自由記述コメントなどから特定します。
このように、数値分析で「WHAT(何が起きるか)」を予測し、質的分析で「WHY(なぜ起きるか)」を深く洞察することで、未来予測の解像度を格段に高めることができます。
フェーズ3:的を射た打ち手の策定とKPIモニタリング
最後に、分析から明らかになった課題の本質に対して、的を射た打ち手を立案します。
例えば、離職率上昇の原因が「キャリアパスへの不安」であれば、画一的な待遇改善ではなく、個別のキャリア面談の強化や社内公募制度の活性化といった施策を計画します。原因が「業務負荷」であれば、業務プロセスの見直しや人員の再配置を検討します。
また、施策を実行して終わりではなく、実行した施策の効果を関連するKPI(ハイパフォーマー離職率、従業員エンゲージメントスコアなど)で継続的にモニタリングし、要員計画そのものを改善していくサイクルを回すことも重要です。
データに基づく意思決定が、要員計画の精度を高める
要員計画を、一部の担当者の経験や勘といった不確かなものから、客観的な根拠に基づく経営判断へと転換することは、現代の企業経営において不可欠な取り組みです。
本コラムで解説したように、定量的な数値データと、従業員の自由記述といった数値化しにくい情報の両方を分析に用いることで、組織の現状をより正確に把握し、将来のリスクや機会を的確に予測し、効果的な施策を立案することが可能となります。データに基づいたアプローチを実践することが、人的資本の価値を最大化し、ひいては企業の持続的な競争力を構築する上で極めて重要な要素となると考えられます。
株式会社コトラでは、人的資本経営に関する深い知見と豊富な実績で、貴社の課題解決をサポートします。データに基づいた精緻な要員計画の策定など、より具体的なご相談は、お気軽にお問い合わせください。