「人的資本経営」を経営戦略に組み込むには? 明日から始める実践的3ステップ

その「人的資本経営」、経営戦略と連動していますか?

「我が社も人的資本経営に取り組んでいる」

そう語る企業は増えましたが、その実態が、単発の研修実施やエンゲージメントサーベイの導入に留まっているケースは少なくありません。もちろん、それらの施策も重要ですが、本来の「人的資本経営」が目指すのは、もっとダイナミックで、経営の根幹に関わるものです。

貴社の人的資本に関する取り組みは、中期経営計画や事業戦略と、明確な一本の線で結ばれているでしょうか。もし、この問いに即答できないのであれば、それは「施策のための施策」に陥っている危険信号かもしれません。本コラムでは、人的資本経営を経営戦略と完全に一体化させ、企業成長のエンジンとするための実践的なステップを解説します。

戦略なき人的資本経営の限界と、目指すべき姿

なぜ、多くの取り組みが形骸化するのか

人的資本経営が経営戦略と切り離されてしまう最大の理由は、経営層と人事部門の間に存在する「認識の壁」と「言語の壁」にあると考えられます。

  • 経営層の視点:事業目標の達成、売上・利益の最大化といった財務指標を主眼に置いている。
  • 人事部門の視点:採用、育成、評価、労務管理といった人事オペレーションの最適化を主眼に置いている。

この両者の視点が交わらない限り、人事施策は事業貢献という観点から評価されにくく、結果として経営の中心的なアジェンダにはなり得ません。人的資本経営とは、この壁を取り払い、人材戦略を経営戦略そのものとして位置づける活動なのです。

目指すべき姿:動的な人材ポートフォリオの構築

コトラが考える、経営戦略と連動した人的資本経営の理想的な姿。それは「動的な人材ポートフォリオ」を構築・運用することです。

金融の世界で、市場環境の変化に応じて株式や債券の組み合わせを最適化するように、人材ポートフォリオもまた、事業環境の変化や戦略の転換に合わせて、常に最適な状態に組み替えていく必要があります。

「3年後の事業目標を達成するためには、どのようなスキル、経験、リーダーシップを持つ人材が、どの部門に、何人必要なのか」という問いに、データに基づいて即答できる状態。これこそが、私たちが目指すべきゴールです。この状態を実現して初めて、人的資本経営は真の経営戦略となり得ます。

経営戦略と連動させるための実践的3ステップ

では、どのようにすれば「動的な人材ポートフォリオ」を構築し、人的資本経営を実践できるのでしょうか。ここでは、そのための具体的な3つのステップをご紹介します。

ステップ1:KGI/KPIの接続——経営目標と人材目標の翻訳

最初のステップは、経営戦略の言語を、人材戦略の言語に「翻訳」することです。

  • KGI(重要目標達成指標)の接続:まず、中期経営計画などに掲げられた全社的なKGI(例:売上高〇〇億円、新規事業比率〇%)を確認します。
  • 人材戦略KPIへの分解:次に、そのKGIを達成するために、人材面でどのような状態を実現すべきかを考え、具体的なKPI(重要業績評価指標)に落とし込みます。
    • :新規事業比率向上というKGIに対し、「デジタルマーケティングスキル保有者数」「アジャイル開発経験リーダー数」「新規事業提案件数」などをKPIとして設定する。

このプロセスを通じることで、人事施策が経営目標の達成にどう貢献するのかが誰の目にも明らかになります。これにより、人事部門は経営のパートナーとして、戦略的な議論に参加することが可能になります。

ステップ2:As-Is / To-Be分析——現状と理想のギャップの可視化

次に、設定したKPIを基に、現状(As-Is)と理想(To-Be)のギャップを定量的に把握します。

  • As-Is(現状)の把握:スキルサーベイや組織サーベイ、人事データを活用し、現在の組織が持つ人材の質と量を正確に把握します。
  • To-Be(理想)の定義:ステップ1で設定したKPIが達成された状態を、具体的な人材要件として定義します。
  • ギャップの分析:As-IsとTo-Beを比較し、「どのスキルが何人分不足しているのか」「どの階層のリーダーが足りないのか」といったギャップを具体的に特定します。

このギャップこそが、貴社が取り組むべき人的資本経営の最優先課題です。

ステップ3:アクションプランの策定と実行

最後に、特定されたギャップを埋めるための具体的なアクションプランを策定し、実行に移します。

  • 採用戦略:外部から即戦力人材を獲得する。
  • 育成戦略:社内人材のリスキリングやスキルアップ研修を実施する。
  • 配置戦略:戦略的重要性の高い部門へ、キーパーソンを意図的に異動させる。
  • 制度改革:挑戦を促す評価制度や、スキルに応じた報酬制度を導入する。

重要なのは、これらの施策を単発で終わらせず、定期的にKPIの進捗を確認し、PDCAサイクルを回し続けることです。

人的資本経営を、企業の競争優位性の源泉へ

本コラムでは、人的資本経営を経営戦略と一体化させ、実効性のあるものにするための具体的なステップを解説しました。

KGI/KPIの接続、As-Is/To-Be分析、そして具体的なアクションプランの策定・実行というプロセスを経ることで、人的資本経営は単なるお題目から、事業成長を牽引する強力なエンジンへと進化します。それは、競合他社が容易に模倣できない、持続的な競争優位性の源泉となるでしょう。

株式会社コトラでは、人的資本経営に関する深い知見と豊富な実績で、貴社の課題解決をサポートします。経営戦略と連動した人材ポートフォリオの構築や、具体的なアクションプランの策定について、より具体的なご相談は、お気軽にお問い合わせください。

この記事を書いた人

kotora

コトラ(人的資本チーム)

経営戦略に連動した「動的な人材ポートフォリオ」の構築から、「採用」「育成」といった人材マネジメントの実践まで、人的資本経営を一気通貫で支援しています。

コンサルタント紹介

杉江 幸一郎
ディレクター ISO30414リードコンサルタント

東京大学経済学部経営学科卒。大手メーカー、通信事業者、IT企業など上場事業会社にて経営企画、事業戦略、新規事業立ち上げ等の責任者を歴任。上場企業取締役、CISO および ISO事務局等も担当。

コトラでは、ISO30414を始めとした人的資本経営のコンサルティングに従事。ISO30414リードコンサルタント。ESG情報開示研究会、人的資本経営コンソーシアム、地方創生SDGs官民連携プラットフォーム会員。
X(旧Twitter):@Kotora_cnsl

蘇木 亮太
コンサルタント ISO30414リードコンサルタント

同志社大学法学部卒。大手教育系企業でのコンサルタント経験を経て、金融系スタートアップに入社。 組織・人事企画チームに所属し、エンゲージメント向上施策やDE&I推進、研修開発、人事制度運用等を担当。

コトラでは、有価証券報告書・統合報告書における人的資本開示、ISO30414、人事組織コンサル等に従事。ISO30414リードコンサルタント資格/日本ディープラーニング協会G検定保有者。


大西裕也
リサーチャー兼コンサルタント

神戸大学大学院経済学研究科卒。教育経済学を専攻。

コトラでは、ISO30414認証取得支援及び人的資本開示動向のリサーチ、人事データ分析・レポート作成等に従事。
DX推進パスポート(G検定、データサイエンティスト検定、ITパスポート)、一種外務員資格取得者。


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