eNPS向上の鍵は「信頼」の文化 エンゲージメントを推奨行動に変えるには

「仕事は楽しい。でも、人には勧められない」この乖離を生む、組織文化の壁

「1on1の導入で、上司と部下の対話は増えた。エンゲージメントは確実に高まっている手応えがある。しかし、従業員推奨度(eNPS)は、なぜか横ばいのままだ」

このような状況は、多くの企業が陥る「エンゲージメントの罠」とも言えるかもしれません。従業員は日々の業務にやりがいを感じ、主体的に貢献しようとしている。これはエンゲージメントが高い状態であり、素晴らしい成果です。

しかし、その熱意が、自社を大切な知人に推薦するという最終的な「推奨行動」=高いeNPSに結びついていない。この乖離の背景には、施策レベルでは解決できない、組織の根幹をなす「文化」の問題が横たわっていると考えられます。本コラムでは、エンゲージメントをeNPSに昇華させる「信頼」を基盤とした組織文化の重要性と、その具体的な醸成方法を解説します。

*エンゲージメントとeNPSの違いについては、こちらのコラムをご参照ください。

エンゲージメントを育む文化、eNPSを育む文化

エンゲージメントとeNPSは、どちらも健全な組織文化から育まれますが、その成長に必要な土壌の質は微妙に異なります。

「心理的安全性」はエンゲージメントの土台

エンゲージメント、すなわち仕事への熱意や没頭は、「心理的安全性」の高い環境で育ちます。自分の意見を安心して言える、失敗を恐れずに挑戦できる、困ったときには助けを求められる。こうした風土は、従業員が仕事にポジティブに取り組むための基礎体力となります。多くのエンゲージメント向上施策は、この心理的安全性を高めることを目的としています。

「信頼」はエンゲージメントをeNPSに転換する触媒

しかし、従業員が「この会社を人に勧めたい」と心から思うには、心理的安全性のもう一歩先にある、経営や会社そのものへの「信頼」が不可欠です。この信頼は、主に以下の二つの要素から醸成されると考えられます。

  1. 公平性への信頼
    自分の努力や成果が、えこひいきなく正当に評価され、報酬や昇進に反映されるという確信。挑戦した結果としての失敗が許容されるだけでなく、成功がきちんと認められる文化。
  2. 透明性への信頼
    経営陣が会社のビジョンや現状を誠実に共有し、意思決定のプロセスが明確であること。従業員を単なる労働力ではなく、共に未来を創るパートナーとして扱っているという感覚。

つまり、「心理的安全性の高い文化」が従業員のエンゲージメント(仕事への活力)を高め、さらに「公平性と透明性の高い文化」がそのエンゲージメントをeNPSへと昇華させる、という関係性が見えてきます。eNPSが伸び悩んでいる組織は、この「信頼」という触媒が不足しているのかもしれません。

コトラでは、人事制度の設計・運用支援において、単なる仕組みの導入に留まらず、その背景にある「公平性」「透明性」という文化的な価値観を組織に根付かせることが、持続的なeNPS向上に不可欠であると考えています。

「信頼」の文化を醸成する、具体的な3つのアクション

信頼という目に見えない文化を育むには、経営層の強い意志と、それを具現化する行動が求められます。

1. 評価・報酬プロセスの透明性を高める

評価基準や昇進・昇格の要件を明確にし、全従業員に公開します。評価者によるブレをなくすためのキャリブレーション(目線合わせ)研修を徹底することも有効です。なぜその評価になったのかを、本人が納得できるまで対話する姿勢が、公平性への信頼を育みます。

2. 経営の「良い情報」も「悪い情報」も共有する

業績が良い時はもちろん、厳しい状況にある時も、その事実と今後の対策を経営トップが自らの言葉で誠実に伝えることが重要です。従業員を信頼して情報を開示する姿勢が、従業員の経営への信頼を生み出します。タウンホールミーティングなどを定期的に開催し、直接対話の機会を設けることも効果的です。

3. ビジョンや理念の「実践」を称賛する

会社のビジョンや行動指針を、ただ掲げるだけでなく、それを日々の業務で実践した従業員を具体的に発見し、称賛する仕組みを作ります。これは、会社が大切にしている価値観を明確に示し、文化を強化するパワフルなメッセージとなります。

エンゲージメントの先にある「信頼」こそが、eNPS向上の本質

従業員のエンゲージメントを高める取り組みは、間違いなく重要です。しかし、それがeNPSという究極の目標に結びつかない時、私たちは視座を上げ、より本質的な「組織文化」、特に経営への「信頼」に目を向ける必要があります。

仕事が楽しいだけでなく、この会社は信頼できる。従業員がそう感じた時、エンゲージメントは本物のロイヤルティへと進化し、彼らは自社の最も力強い「推奨者」となってくれるでしょう。

株式会社コトラでは、人的資本経営に関する深い知見と豊富な実績で、貴社の課題解決をサポートします。組織サーベイを通じた文化の可視化から、信頼を醸成する人事制度の構築まで、より具体的なご相談は、お気軽にお問い合わせください。

この記事を書いた人

kotora

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コトラ(人的資本チーム)

経営戦略に連動した「動的な人材ポートフォリオ」の構築から、「採用」「育成」といった人材マネジメントの実践まで、人的資本経営を一気通貫で支援しています。

コンサルタント紹介

杉江 幸一郎
ディレクター ISO30414リードコンサルタント

東京大学経済学部経営学科卒。大手メーカー、通信事業者、IT企業など上場事業会社にて経営企画、事業戦略、新規事業立ち上げ等の責任者を歴任。上場企業取締役、CISO および ISO事務局等も担当。

コトラでは、ISO30414を始めとした人的資本経営のコンサルティングに従事。ISO30414リードコンサルタント。ESG情報開示研究会、人的資本経営コンソーシアム、地方創生SDGs官民連携プラットフォーム会員。
X(旧Twitter):@Kotora_cnsl


蘇木 亮太
コンサルタント ISO30414リードコンサルタント

同志社大学法学部卒。大手教育系企業でのコンサルタント経験を経て、金融系スタートアップに入社。 組織・人事企画チームに所属し、エンゲージメント向上施策やDE&I推進、研修開発、人事制度運用等を担当。

コトラでは、有価証券報告書・統合報告書における人的資本開示、ISO30414、人事組織コンサル等に従事。ISO30414リードコンサルタント資格/日本ディープラーニング協会G検定保有者。


大西裕也
リサーチャー兼コンサルタント

神戸大学大学院経済学研究科卒。教育経済学を専攻。

コトラでは、ISO30414認証取得支援及び人的資本開示動向のリサーチ、人事データ分析・レポート作成等に従事。
DX推進パスポート(G検定、データサイエンティスト検定、ITパスポート)、一種外務員資格取得者。


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