なぜエンゲージメント施策は「人事任せ」で空回りするのか
「エンゲージメントサーベイの結果に基づき、各部署で改善活動をお願いします」
人事部から全社へこのような通達を出したものの、数ヶ月後にはすっかり忘れ去られ、結局何も変わらなかった。多くの企業の人事ご担当者様が、こうした苦い経験をお持ちではないでしょうか。
エンゲージメント向上の取り組みがうまくいかない最大の理由の一つは、それが「人事部の仕事」と捉えられ、現場、特に日々従業員と向き合う管理職を真に巻き込めていない点にあります。
本コラムでは、「人事任せ」の状態から脱却し、エンゲージメントサーベイを現場変革のエンジンへと転換するための、管理職の「巻き込み術」に焦点を当てて解説していきます。
なぜ現場は動かないのか? 管理職の「三重苦」
現場の管理職がエンゲージメントサーベイ後のアクションに非協力的、あるいは無関心に見えるとき、その背景には多くの場合、彼らが抱える「三重苦」が存在すると考えられます。
- 当事者意識の欠如
- 「サーベイは人事がやるもの」「結果の責任は人事にある」という意識。
- サーベイ結果が自分のチームの課題であるという認識が薄く、「他人事」になっている状態。
- 方法論の不足
- 「課題は分かったが、具体的に何をすれば良いのか分からない」
- エンゲージメントを高めるための対話の方法や、チームビルディングの手法を知らず、行動に移せない状態。
- 負担増への懸念
- ただでさえ自身の業務やチームのマネジメントで多忙な中、さらに新たな業務が増えることへの抵抗感や、「余計なことをして失敗したくない」という恐れ。
これらの課題を無視して、トップダウンで「やれ」と指示するだけでは、現場は動きません。エンゲージメントサーベイの活用を成功させる鍵は、管理職を単なる「実行者」として扱うのではなく、共に組織を良くしていく「パートナー」として尊重し、彼らの負担を軽減しながら主体性を引き出す支援を行うことにあります。
視点の転換:管理職を「変革のパートナー」として迎える
私たちコトラは、エンゲージメント向上の主役はあくまで「現場」であり、人事部の役割は「主役を輝かせるプロデューサー」であるべきだと考えています。
この考えに基づくと、エンゲージメントサーベイの目的は、「管理職を評価するため」ではなく、「管理職がチームをより良くするための武器を提供する」ことへと変わります。サーベイ結果は、管理職が部下の状態を理解し、効果的なコミュニケーションをとるための貴重な情報源です。
人事部は、この情報を管理職が使いこなせるように「翻訳」し、「支援」する役割を担います。例えば、サーベイ結果から読み取れるチームの強みや課題を分かりやすく伝え、具体的なアクションの選択肢を提示し、必要な研修やツールを提供する。こうした伴走支援を通じて、管理職との間に信頼関係を構築することが、現場を動かすための第一歩となります。
エンゲージメントサーベイは、人事と現場の連携を強化するためのコミュニケーションツールでもあるのです。
現場の「自分ごと」化を促す、人事の4つの支援策
管理職を「パートナー」として巻き込み、現場主導の改善活動を促すために、人事部が実行できる具体的な支援策を4つのフェーズでご紹介します。
1. 「押し付けない」フィードバック研修
サーベイ結果を管理職にフィードバックする際は、単なる報告会で終わらせてはいけません。「あなたのチームのスコアはこれでした」と一方的に伝えるだけでは、評価されていると感じ、防御的な姿勢を取らせてしまいます。
重要なのは、結果を共に読み解く「対話の場」として設計することです。
- 目的の共有
このフィードバックが評価のためではなく、チームを良くするためのものであることを明確に伝えます。 - 読み解きの支援
データの見方や、特に注目すべきポイント(強み・弱み)を人事が解説します。 - 問いかけ
管理職自身に、「この結果を見てどう感じますか?」「思い当たる節はありますか?」と問いかけ、内省を促します。
このプロセスを通じて、管理職は結果を「自分ごと」として受け止め始めます。
2. 「すぐ使える」対話ツールの提供
次に、管理職がチームメンバーと結果について対話するための、具体的な「武器」を提供します。多忙な管理職がゼロから準備する負担を軽減するためです。
- チームミーティング用資料の雛形
サーベイ結果を共有し、ディスカッションを促すための簡単なスライドやアジェンダを用意します。 - ファシリテーションガイド
「この問いから始めてみましょう」「意見が出ない時はこう切り返しましょう」といった、具体的な進行のヒントをまとめたものを提供します。 - アクションプランシート
対話で出たアイデアを、具体的な行動計画に落とし込むためのシンプルなフォーマットを提供します。
エンゲージメントサーベイの成功には、こうした細やかな支援が不可欠です。
3. 「小さな成功体験」の創出と共有
最初から大きな変革を目指す必要はありません。まずは、「月曜の朝礼で5分間、ポジティブな出来事を共有する時間を作る」といった、どんなチームでもすぐに試せる小さなアクションを推奨します。
そして、その小さな成功体験や、それによってチームに起きた前向きな変化を、人事が見つけ出し、社内報やイントラネットなどで積極的に共有します。「〇〇部のチームでは、こんな工夫で会議の雰囲気が良くなったそうです」といった好事例が共有されることで、他の管理職も「それなら自分のチームでもできそうだ」と、次の一歩を踏み出す勇気を得ることができます。
4. 人事による「継続的な伴走」
一度施策を始めたら、決して放置しないこと。人事は、定期的に管理職に声をかけ、進捗状況や困っていることをヒアリングします。
「あの後のチームの様子はいかがですか?」
「何かお手伝いできることはありますか?」
この継続的な関与が、「人事は本気だ」「自分たちは見捨てられていない」という安心感と信頼感を育みます。エンゲージメントサーベイは、一度きりのイベントではなく、こうした地道なコミュニケーションの積み重ねの中で、初めて文化として根付いていくのです。
現場の自律的な活動が、組織の持続的成長を促す
エンゲージメントサーベイを真に意味のあるものにするためには、「人事任せ」の構造から脱却し、いかに現場、特に管理職を巻き込むかにかかっています。
管理職を「評価される側」ではなく「変革のパートナー」とみなし、彼らが主体的に行動できるよう、人事部が徹底した支援役に徹すること。その結果として生まれる現場の自律的な改善活動こそが、一過性ではない、持続的なエンゲージメント向上、そして強い組織文化の醸成へと繋がるのです。
株式会社コトラでは、人的資本経営に関する深い知見と豊富な実績で、貴社の管理職向け研修の企画・実行や、エンゲージメントサーベイの結果を現場のアクションに繋げるための仕組みづくりをサポートします。より具体的なご相談は、お気軽にお問い合わせください。