エンゲージメントサーベイ疲れを防ぐ 現場を疲弊させず、組織変革をドライブする3つの実践ステップ

「エンゲージメントサーベイ疲れ」になっていませんか?

「今年もエンゲージメントサーベイの季節がやってきた…」
「サーベイの結果は出たが、膨大なデータを見て、どこから手をつければいいのか分からない…」
「現場からは『アンケートに答えても、何も変わらない』という冷ややかな声が聞こえる…」

こうした状況は、多くの企業で聞かれる「サーベイ疲れ」の典型的な症状です。従業員エンゲージメントの重要性が認識され、サーベイを導入する企業は増えました。しかし、その結果を真に組織変革へと繋げられているケースは、決して多くないのが実情ではないでしょうか。

エンゲージメントサーベイは、あくまで組織の状態を可視化する「健康診断」に過ぎません。本当に重要なのは、その診断結果を受けて、いかに健康的な体質へと改善していくか、という「治療と体質改善」のプロセスです。本コラムでは、サーベイを形骸化させず、現場のポジティブなエネルギーを引き出しながら組織変革を推進するための、実践的な3つのステップをご紹介します。

ステップ1:結果を「通知」するのではなく、「対話の素材」として共有する

エンゲージメントサーベイで最も陥りやすい過ちが、分析結果を一方的に現場へ「通知」してしまうことです。人事部が詳細な分析レポートを作成し、「あなたの部署のスコアはここが低いので、改善してください」とトップダウンで伝えても、現場のマネージャーやメンバーは「やらされ感」を抱くだけで、主体的なアクションには繋がりません。

大切なのは、サーベイ結果を「犯人探しの証拠」ではなく、「未来を良くするための対話のきっかけ」と位置づけることです。

コトラでは、人事や上司が答えを提示するのではなく、現場のメンバーから本音やアイデアを引き出すファシリテーションが極めて重要だと考えています。以下のようなプロセスを通じて、メンバーは「自分たちの職場は、自分たちで良くしていける」という感覚、すなわち「組織へのオーナーシップ」を育み、エンゲージメントの向上に繋がっていきます。

「Why」から語りかける

なぜ会社としてエンゲージメントを重視しているのか。サーベイを通じて、どのような組織を目指したいのか。その目的や想いを、経営層や人事から丁寧に伝えることが全ての出発点です。

結果の解釈を現場に委ねる

詳細な分析レポートを渡す前に、まずはチーム単位で集まり、自分たちの部署の結果を見て、何を感じるかを話し合う「対話の場(ワークショップなど)」を設けることを推奨します。 

「このスコアが高い(低い)のは、日々のどんな出来事が背景にあるだろう?」 「私たちがもっと働きやすくなるために、どんなことができそうか?」 といった問いを投げかけ、メンバー一人ひとりが当事者として考える機会を創出するのです。

ステップ2:「大きな計画」よりも、「小さな実験(Baby Step)」を奨励する

対話を通じて課題が見えてくると、次に完璧な「アクションプラン」を立てようとしがちです。しかし、壮大な計画は実行のハードルを上げ、結果的に何も進まないという事態を招きかねません。

ここでのポイントは、改善活動を「小さな実験(Baby Step)」の積み重ねと捉えることです。

影響が大きく、すぐに着手できることから始める

 例えば、「チーム内の情報共有不足」が課題として挙がった場合、「新たな情報共有ツールを導入する」といった大きな計画の前に、「毎朝5分間のチェックインミーティングを試してみる」「週に一度、雑談タイムを設けてみる」といった、明日からでも始められる小さなアクションを試してみましょう。

失敗を許容し、学びを次に活かす文化を醸成する

「小さな実験」なので、うまくいかないことも当然あります。重要なのは、その結果を責めるのではなく、「やってみてどうだった?」「何が分かった?」「次はどう試してみようか?」と、前向きな振り返りをチームで行うことです。この試行錯誤のサイクルそのものが、チームの学習能力と心理的安全性を高め、エンゲージメントの強い土壌を育みます。

エンゲージメントサーベイは年に1回かもしれませんが、組織を良くしていく活動は、日々の連続的なプロセスであるべきです。完璧な計画よりも、不完全でもまず一歩を踏み出し、そこから学び、改善し続ける姿勢を、組織全体で奨励することが肝要です。

ステップ3:マネージャーを「実行責任者」から「伴走支援者」へとシフトする

これらの活動を推進する上で、鍵となるのがミドルマネジメントの存在です。しかし、多くのマネージャーはプレイング業務に追われ、新たな役割を負担に感じています。

ここで求められるのは、マネージャーが一人で全てを背負い、メンバーを引っ張っていく「実行責任者」となることではありません。むしろ、メンバーの主体性を引き出し、対話を促し、小さな実験を後押しする「伴走支援者(ファシリテーター)」としての役割です。

  • 傾聴と承認:メンバーの声に真摯に耳を傾け、出てきた意見やアイデアを尊重し、承認する。
  • 権限移譲:小さな改善活動のオーナーシップをメンバーに委ねてみる。
  • 障壁の除去:メンバーがアクションを起こす上で障害となることがあれば、それを取り除くために動く。

経営層や人事は、マネージャーに結果責任を問うだけでなく、彼らが伴走支援者としての役割を果たせるよう、時間的な余裕を確保したり、1on1やファシリテーションのスキル研修を提供したりといったサポートを行うことが不可欠です。

サーベイは、組織と人が共に成長するための「鏡」

エンゲージメントサーベイは、正しく使えば、組織変革を加速させる強力なツールとなり得ます。「やらされるサーベイ」から、「自分たちの未来を創るための対話」への転換こそが、エンゲージメントサーベイの価値を最大化し、真に強くしなやかな組織を創り上げるための鍵となるのです。

株式会社コトラでは、人的資本経営に関する深い知見と豊富な実績で、エンゲージメントサーベイ実施後のアクションプラン策定や、現場を巻き込んだ組織開発の実行をサポートします。より具体的なご相談は、お気軽にお問い合わせください。

コンサルタント紹介

杉江 幸一郎
ディレクター ISO30414リードコンサルタント

東京大学経済学部経営学科卒。大手メーカー、通信事業者、IT企業など上場事業会社にて経営企画、事業戦略、新規事業立ち上げ等の責任者を歴任。上場企業取締役、CISO および ISO事務局等も担当。

コトラでは、ISO30414を始めとした人的資本経営のコンサルティングに従事。ISO30414リードコンサルタント。ESG情報開示研究会、人的資本経営コンソーシアム、地方創生SDGs官民連携プラットフォーム会員。
X(旧Twitter):@Kotora_cnsl


蘇木 亮太
コンサルタント ISO30414リードコンサルタント

同志社大学法学部卒。大手教育系企業でのコンサルタント経験を経て、金融系スタートアップに入社。 組織・人事企画チームに所属し、エンゲージメント向上施策やDE&I推進、研修開発、人事制度運用等を担当。

コトラでは、有価証券報告書・統合報告書における人的資本開示、ISO30414、人事組織コンサル等に従事。ISO30414リードコンサルタント資格/日本ディープラーニング協会G検定保有者。


大西裕也
リサーチャー兼コンサルタント

神戸大学大学院経済学研究科卒。教育経済学を専攻。

コトラでは、ISO30414認証取得支援及び人的資本開示動向のリサーチ、人事データ分析・レポート作成等に従事。
DX推進パスポート(G検定、データサイエンティスト検定、ITパスポート)、一種外務員資格取得者。


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