「仲は良いが、成果が出ない」組織のジレンマ
「うちの会社は風通しが良く、社員同士の仲も良い。エンゲージメントは低くないはずだ。しかし、なぜか生産性が上がらず、業績も伸び悩んでいる」このようなお悩みをお持ちの経営者の方もいらっしゃるのではないでしょうか。
一般的に、エンゲージメントが高い組織は生産性も高い傾向にあるとされています。しかし、必ずしも「エンゲージメントの高さ=業績の高さ」という単純な式が成り立つわけではありません。
居心地は良いが、仕事に対する健全な規律や成長への意欲が欠けている「ぬるま湯」のような状態。これもまた、企業が陥りがちな一つの罠です。社員の「働きがい」を、いかにして組織の成果、すなわち「働きぶり」へと転換していくか。これこそが、人的資本経営におけるエンゲージメント戦略の核心的なテーマといえるでしょう。
本コラムでは、エンゲージメントと生産性の間に好循環を生み出し、企業の持続的な成長を実現するための人材戦略について深掘りします。
【事例】エンゲージメントの高さが裏目に出た専門商社E社の課題
当社のご支援実績をもとに、ある専門商社E社のケースを例に考えてみましょう。E社は社員の定着率が非常に高く、家族的な社風を誇りにしていました。エンゲージメントサーベイを実施しても、「人間関係」や「職場環境への満足度」といった項目は常に高スコアを記録していました。
しかし、その一方で、市場環境が大きく変化する中、新規事業の立ち上げや既存業務のDX化といった変革がなかなか進まないという課題を抱えていました。現状維持を望む声が強く、新しい挑戦に対して消極的な雰囲気が蔓延していたのです。高いエンゲージメントが、逆に変化への抵抗感を生み出すという皮肉な状況に陥っていました。
E社の問題の本質は、エンゲージメントの捉え方にありました。彼らが重視していたのは、主に「満足度(Satisfaction)」に近い概念でした。しかし、企業成長に本当に必要なのは、現状に満足するだけでなく、会社の目指す方向に自らのエネルギーを注ぎ、貢献したいという、より能動的な「貢献意欲(Commitment)」としてのエンゲージメントです。この二つを混同していたことが、成長の停滞を招いていたと考えられます。
「スキルの可視化」が、エンゲージメントを生産性に転換する
では、「満足度」のエンゲージメントから「貢献意欲」のエンゲージメントへと質的転換を図り、生産性に繋げるためには何が必要なのでしょうか。 その鍵を握るのが、「スキルの可視化」と、それに基づいた「動的な人材配置」です。
社員が「この会社に貢献したい」という意欲を持っていたとしても、そのエネルギーをどこに向ければ良いのか分からなければ、行動には繋がりません。また、本人の持つスキルや潜在能力と、与えられた業務内容がミスマッチを起こしていれば、高いパフォーマンスは期待できないでしょう。
コトラがご提案するアプローチの一つに、「スキルベース型人事制度の導入」があります。これは、従来の職務や役職に基づいた人事管理から脱却し、社員一人ひとりが持つスキルを客観的に可視化し、データとして蓄積・活用する考え方です。
- 現状の把握
まず、自社の経営戦略を実現するために必要なスキル(スキルマップ)を定義し、それに対して現在、社員がどのようなスキルをどのレベルで保有しているのかを評価・可視化します。 - 戦略的な人材配置
可視化されたスキルデータに基づき、新規プロジェクトの立ち上げや既存事業の強化など、戦略上の重要課題に対して最適なスキルを持つ人材を迅速にアサインします。 - 成長機会の提供
社員は、自らが伸ばすべきスキルや、新たなキャリアパスの可能性を具体的に認識できるようになります。会社側も、データに基づいて効果的な研修プログラムを提供し、戦略的に人材を育成することが可能になります。
このように、個人の「やりたい(Will)」と会社の「やってほしい(Must)」を、「できる(Can)」、すなわちスキルという共通言語で接続すること。これこそが、社員のエンゲージメントを具体的な行動と成果、すなわち生産性の向上へと導くための最も効果的なメカニズムであると考えられます。
まずは「成功体験」をデザインすることから
スキルベースの考え方は、エンゲージメントと生産性を繋ぐ強力なエンジンとなり得ますが、制度として本格導入するには時間がかかります。そこで、まず着手できる実践的なアクションとして、「小さな成功体験のデザイン」を提案します。
これは、社員のスキルや強みが活かされ、かつ会社の成果にも繋がるような、少し挑戦的な「アサインメント」を意図的に創り出すことです。
- 個人の強みの把握
1on1などの対話を通じて、部下がまだ業務で活かしきれていないスキル、興味を持っている分野、得意なことなどを深く理解する。 - 戦略的な業務の切り出し
チームや部署の目標達成に繋がり、かつ本人の強みを活かせるような、具体的なタスクや役割を切り出す。 - 裁量と支援の付与
目的とゴールを明確に伝えた上で、進め方は本人に任せる(権限委譲)。ただし、孤立させず、上司は伴走者として定期的に進捗を確認し、必要なサポートを提供する。 - 成果の承認と振り返り
結果が出たら、その貢献をチーム全体で称賛する。成功要因や今後の課題を本人と共に振り返り、次の成長へと繋げる。
このような経験を通じて、社員は「自分の力で会社に貢献できた」という強い成功体験(貢献実感)と「やればできる」という自己効力感(成長実感)を得ることができます。このポジティブな循環が、さらなる挑戦への意欲を引き出し、エンゲージメントと生産性の好循環を生み出す起点となるのです。
エンゲージメントと生産性は、戦略的に両立できる
エンゲージメントと生産性は、対立する概念ではありません。むしろ、優れた人材戦略の下では、互いを高め合う好循環の関係を築くことができます。
社員の働きがい(エンゲージメント)を、単なる満足度で終わらせず、企業の成長エンジンへと転換する。そのためには、個人の想いや意欲を、スキルという客観的な指標で捉え、戦略的な人材配置や育成を通じて、具体的な成果へと結びつけていく視点が不可欠です。社員一人ひとりの成長が、企業の成長とダイレクトに繋がる仕組みを構築すること。これこそが、これからの時代に求められる人的資本経営の姿といえるでしょう。
株式会社コトラでは、人的資本経営に関する深い知見と豊富な実績で、貴社のエンゲージメントと生産性の好循環創出をサポートします。より具体的なご相談は、お気軽にお問い合わせください。




