なぜ、採用ブランディングはうまくいかないのか
「魅力的な採用サイトを公開したのに、応募が増えない」
「SNSでの発信を強化したが、ターゲット層に響いていないようだ」
時間とコストをかけて採用ブランディングに取り組んだものの、このような壁にぶつかり、頭を抱える企業は決して少なくありません。なぜ、意図した成果に繋がらないのでしょうか。それは、採用ブランディング推進の過程に潜む「落とし穴」に気づいていないからかもしれません。本コラムでは、採用ブランディングでよく見られる失敗事例を紐解き、その轍を踏まないための具体的な対策について考察します。
採用ブランディングにおける3つの典型的な失敗
採用ブランディングが機能不全に陥る背景には、いくつかの共通したパターンが見られます。ここでは、特に陥りがちな3つの失敗を取り上げます。
失敗1:現実と乖離した「理想」の発信
採用ブランディングにおいて、自社の魅力を最大限に伝えたいと考えるのは自然なことです。しかし、その思いが先行するあまり、実態とかけ離れた、いわば「理想の姿」だけを発信してしまうケースがあります。例えば、「風通しの良い、フラットな組織です」と謳いながら、実際にはトップダウンの意思決定が根強い、といった状況です。
このようなメッセージは、一時的に候補者の興味を引くことはできるかもしれません。しかし、選考過程や入社後の実体験を通じて、候補者や新入社員はすぐにその乖離に気づきます。期待を裏切られたと感じた彼らのエンゲージメントは著しく低下し、早期離職の引き金となり得ます。結果として、採用ブランディングへの信頼は失われ、ネガティブな評判が広まるという最悪の事態を招く危険性すらあります。
失敗2:メッセージと「選考体験」の不一致
採用ブランディングで発信するメッセージと、候補者が実際に経験する「選考体験(Candidate Experience)」に一貫性がない場合も、失敗に繋がりやすい典型例です。「候補者一人ひとりに寄り添います」というメッセージを発信しながら、事務的な連絡しかしない、面接官が横柄な態度をとる、選考結果の連絡が大幅に遅れる、といった対応は、候補者に強い不信感を抱かせます。
候補者は、選考プロセス全体を通じてその企業を評価しています。どんなに魅力的な採用ブランディングのメッセージを掲げていても、たった一度のネガティブな選考体験が、それまでの努力を水泡に帰してしまうことがあるのです。選考プロセスは、企業文化を体現する重要なコミュニケーションの場であるという認識が不可欠です。
失敗3:「誰にでも」向けた、焦点のぼやけたメッセージ
「より多くの人に応募してほしい」という考えから、万人受けを狙った当たり障りのないメッセージを発信してしまうのも、よくある失敗の一つです。例えば、「成長できる環境です」「アットホームな職場です」といった抽象的な言葉は、どの企業でも使えるため、候補者の心に残りません。
採用ブランディングの目的は、単に母集団の数を増やすことではありません。自社の価値観や文化に本当にマッチし、入社後に活躍・定着してくれる可能性の高い人材に、「この会社こそが自分の働く場所だ」と強く感じてもらうことです。そのためには、ターゲットを明確に定め、その人物に深く響く、具体的で尖ったメッセージを打ち出す勇気が必要となります。
失敗を回避するための3つの処方箋
では、これらの落とし穴を避け、採用ブランディングを成功させるためには、どのような視点が求められるのでしょうか。
処方箋1:等身大の魅力を、誠実に語る
理想を語るのではなく、自社の「等身大の魅力」を誠実に伝えることが重要です。
そのためには、まず自社の強みだけでなく、弱みや今後の課題も客観的に把握する必要があります。完璧な企業など存在しません。課題があることを率直に認め、それを社員一丸となってどう乗り越えようとしているのか、そのプロセス自体をストーリーとして語ることで、かえって候補者の共感や信頼を得られる場合があります。
採用ブランデングとは、自社のありのままの姿を、自信と誠実さをもって伝える活動であるべきです。
処方箋2:選考プロセス全体を「ブランド体験」として設計する
採用ブランディングのメッセージと選考体験の一貫性を担保するために、選考プロセスに関わる全ての接点を「ブランド体験の場」として再設計することが求められます。具体的には、以下のような取り組みが考えられます。
- 面接官トレーニングの実施
自社の魅力やEVP(従業員価値提案)を正しく理解し、候補者に伝えられるようにする。評価基準を揃え、公平で納得感のある面接を実現する「構造化面接」の導入も有効です。 - コミュニケーションの最適化
応募から内定まで、候補者とのコミュニケーションを迅速かつ丁寧に行う。 - 現場社員との対話機会の創出
候補者がリアルな社風を感じられる場を設ける。
*EVPについて知りたい方は、以下のコラムをご参照ください。
処方箋3:ペルソナを研ぎ澄まし、メッセージを先鋭化する
採用ブランディングを始める前に、「自社は、本当にどのような人材を求めているのか」というペルソナ(理想の人物像)を徹底的に議論し、解像度を高く設定することが不可欠です。
事業戦略に基づき、将来の組織に必要なスキルや価値観を定義します。ペルソナが明確になれば、その人物がどのような情報を求め、何に心を動かされるのかが見えてきます。そのインサイトに基づき、メッセージをより具体的に、より先鋭化していくことで、初めてターゲットの心に深く刺さる採用ブランディングが実現します。
成功の礎となる、誠実さと一貫性のある取り組み
採用ブランディングは、華やかなアピール合戦ではありません。自社の姿を真摯に見つめ、その魅力を誠実に、そして一貫性のある体験を通じて候補者に届ける、地道で継続的な活動です。今回挙げた失敗事例は、いずれも「候補者視点」の欠如と、社内の「一貫性のなさ」に起因すると考えられます。
これらの落とし穴を避け、地に足のついた採用ブランディングを実践することが、候補者との揺るぎない信頼関係を築き、企業の持続的な成長を支える優秀な人材の獲得へと繋がるのです。
株式会社コトラでは、人的資本経営に関する深い知見と豊富な実績で、貴社の課題解決をサポートします。候補者の体験価値を高めるための選考プロセス最適化(構造化面接の導入など)を含め、より具体的なご相談は、お気軽にお問い合わせください。