なぜ今、経営戦略として「採用ブランディング」が不可欠なのか?

「選ばれる企業」になるために、今問われる経営課題

「優秀な人材からの応募が集まらない」
「採用コストは増える一方なのに、効果が見えない」

このような課題は、多くの企業経営者や人事責任者にとって、喫緊の経営課題となっているのではないでしょうか。労働人口の減少と働き方の多様化が進む現代において、企業と個人の関係性は大きく変化しています。

もはや、企業が一方的に候補者を選ぶ時代は終わりを告げました。これからの時代に企業が持続的に成長するためには、候補者から「選ばれる」存在になる必要があります。その鍵を握るのが、「採用ブランディング」です。本コラムでは、採用ブランディングがなぜ単なる採用戦術ではなく、経営戦略そのものであるのか、その本質に迫ります。

採用ブランディングの本質:共感を軸とした、持続的な魅力の構築

採用ブランディングとは、一体何でしょうか。単に企業の知名度を上げたり、求人広告を魅力的に見せたりすることだと捉えていると、その本質を見誤る可能性があります。

採用ブランディングの核心は、「自社がどのような価値を社会や従業員に提供するのか」という企業独自の魅力を定義し、それを一貫性のあるメッセージとして社内外に発信し続けることで、ターゲットとなる人材から深い共感と信頼を獲得する活動です。それは、企業のビジョンやミッション、文化、働く環境、社員の姿といった、目に見えるものから見えないものまで、あらゆる要素を包含した総合的な取り組みといえます。

ここで重要なのは、採用を「短期的な欠員補充」と捉えるのではなく、「企業の未来を共に創る仲間集め」と捉え直す視点です。場当たり的な採用活動では、入社後のミスマッチによる早期離職やエンゲージメントの低下を招きかねません。結果として、採用と教育にかけたコストが無駄になるだけでなく、組織全体の生産性低下にも繋がるという負のスパイラルに陥る危険性があります。

こうした事態を避けるためには、自社の「あるべき人材ポートフォリオ」を明確に描き、そこから逆算して、どのような価値観やスキルを持つ人材が必要なのかを定義することが不可欠です。この視点に立つことで、採用ブランディングは初めて経営戦略と結びつきます。つまり、採用ブランディングとは、自社の持続的な成長を実現するための、極めて戦略的な人材投資活動なのです。

*人材ポートフォリオについては、以下のコラムをご参照ください。

実践への第一歩:自社の「魅力の源泉」を言語化する

では、具体的に採用ブランディングを推進するためには、何から始めるべきでしょうか。多くの企業が、いきなりWebサイトの刷新やSNSでの発信といった「手法」に飛びつきがちですが、その前に必ず行うべきことがあります。それは、「自社の魅力の源泉」、すなわちEVP(Employee Value Proposition:従業員価値提案)を明確に言語化することです。

EVPとは、企業が従業員に提供できる独自の価値のことであり、採用ブランディングにおけるメッセージの核となるものです。以下のステップで、自社のEVPを掘り下げていくことが有効と考えられます。

現状分析:自社の姿を客観的に把握する

まずは、自社の現状を正しく理解することがスタート地点です。経営陣や人事だけでなく、様々な部署や役職の社員にヒアリングや組織サーベイを実施し、「自社の強みは何か」「どのような社風か」「社員は何にやりがいを感じているのか」といった点を多角的に収集します。外部の視点を取り入れることで、社内では当たり前になっている魅力に気づくこともあります。

魅力の定義:提供価値を言語化する

収集した情報を基に、自社が従業員に提供できる価値を整理し、言語化します。これは、「給与が高い」「福利厚生が充実している」といった条件面だけでなく、「挑戦できる文化がある」「社会貢献性の高い事業に携われる」「多様なプロフェッショナルから学べる環境がある」といった、働きがいや成長機会に関する価値も含まれます。

ターゲット設定:誰にメッセージを届けたいか

定義したEVPを、誰に届けたいのかを明確にします。自社の事業戦略や将来の組織像を踏まえ、どのような経験、スキル、価値観を持つ人材に仲間になってほしいのか、具体的な人物像(ペルソナ)を描くことが重要です。ターゲットが明確になることで、発信するメッセージやチャネルも最適化されていきます。

採用ブランディングは、一度構築して終わりではありません。事業環境の変化や企業の成長フェーズに合わせて、EVPは常に磨き続けていく必要があります。この継続的な活動こそが、真に強いブランドを築き上げるのです。

採用を「経営アジェンダ」と位置づけ、未来への投資へ

本コラムでは、採用ブランディングが現代の企業経営において不可欠な戦略であることを論じてきました。人材獲得競争が激化する中、もはや採用は人事部門だけの一機能ではなく、経営トップが主導すべき最重要アジェンダの一つです。

採用ブランディングへの投資は、単に採用コストの効率化に留まらず、入社後のミスマッチ防止、従業員エンゲージメントの向上、そして企業文化の醸成といった、組織全体の活性化に繋がります。自社の揺るぎない魅力を定義し、それに共感する人材を集めること。これこそが、不確実な時代を乗り越え、企業が持続的に成長していくための基盤となるのではないでしょうか。

株式会社コトラでは、人的資本経営に関する深い知見と豊富な実績で、貴社の課題解決をサポートします。貴社の魅力を言語化し、戦略的な採用ブランディングを推進するためのより具体的なご相談は、お気軽にお問い合わせください。

この記事を書いた人

kotora

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コトラ(人的資本チーム)

経営戦略に連動した「動的な人材ポートフォリオ」の構築から、「採用」「育成」といった人材マネジメントの実践まで、人的資本経営を一気通貫で支援しています。

コンサルタント紹介

杉江 幸一郎
ディレクター ISO30414リードコンサルタント

東京大学経済学部経営学科卒。大手メーカー、通信事業者、IT企業など上場事業会社にて経営企画、事業戦略、新規事業立ち上げ等の責任者を歴任。上場企業取締役、CISO および ISO事務局等も担当。

コトラでは、ISO30414を始めとした人的資本経営のコンサルティングに従事。ISO30414リードコンサルタント。ESG情報開示研究会、人的資本経営コンソーシアム、地方創生SDGs官民連携プラットフォーム会員。
X(旧Twitter):@Kotora_cnsl


蘇木 亮太
コンサルタント ISO30414リードコンサルタント

同志社大学法学部卒。大手教育系企業でのコンサルタント経験を経て、金融系スタートアップに入社。 組織・人事企画チームに所属し、エンゲージメント向上施策やDE&I推進、研修開発、人事制度運用等を担当。

コトラでは、有価証券報告書・統合報告書における人的資本開示、ISO30414、人事組織コンサル等に従事。ISO30414リードコンサルタント資格/日本ディープラーニング協会G検定保有者。


大西裕也
リサーチャー兼コンサルタント

神戸大学大学院経済学研究科卒。教育経済学を専攻。

コトラでは、ISO30414認証取得支援及び人的資本開示動向のリサーチ、人事データ分析・レポート作成等に従事。
DX推進パスポート(G検定、データサイエンティスト検定、ITパスポート)、一種外務員資格取得者。


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