社員の成長を願うものの、育成が場当たり的になっていませんか?
企業の成長は、従業員一人ひとりの成長の総和です。その重要性を認識しつつも、「目の前の業務に追われ、計画的な育成ができていない」「新入社員研修以外は、特に決まった育成プログラムがない」。そんな悩みを抱える経営者や人事担当者の方は少なくないのではないでしょうか。
こうした課題を解決し、計画的かつ効果的な人材育成を実現するための第一歩が、企業の羅針盤とも言える「教育体系図」の構築です。
教育体系図とは、企業の経営理念や事業戦略に基づき、「どのような人材を、いつまでに、どのように育成していくか」という全体像と道筋を、体系的に整理したものです。一般的には、新入社員から経営層まで、各階層や職種に求められるスキルと、それらを習得するための研修や育成プログラム(OJT、Off-JT、自己啓発など)がマッピングされた図として可視化されます。
教育体系図を作成することで、育成が場当たり的になるのを防ぎ、従業員は自らのキャリアパスを明確にイメージできるようになります。
しかし、いざ作ろうとすると、「何から手をつければいいのか」「他社の真似でよいのか」といった壁に突き当たります。本コラムでは、これから教育体系図をゼロから構築する企業様に向けて、陥りがちな罠を避け、成功へと導くための具体的な5つのステップを、分かりやすく解説していきます。
教育体系図をなぜ作るのか?:陥りがちな3つの罠
教育体系図の作成に着手する前に、多くの企業が陥ってしまう典型的な失敗パターンを理解しておくことが重要です。
- 目的が曖昧な「作成が目的化」の罠
「他社もやっているから」という理由だけで、何となく作り始めてしまうケースです。これでは、誰のための、何のための体系なのかが曖昧になり、結局は誰も使わない「お飾りの図」になってしまいます。 - 理想が高すぎる「完璧主義」の罠
あらゆる階層、あらゆる職種に対して、網羅的で完璧な体系を一気に作ろうとするケースです。理想を追い求めるあまり、膨大な時間と労力がかかり、完成する頃には事業環境が変わっていた、ということも少なくありません。 - 現場を無視した「机上の空論」の罠
人事部だけで議論を進め、現場の業務実態やニーズを考慮せずに作ってしまうケースです。現場の従業員から「こんな研修、実務では役に立たない」と思われてしまっては、元も子もありません。
これらの罠を回避する上で最も重要な考え方は、「自社の未来像から逆算して設計する」という視点です。教育体系図とは、現在いる従業員のためだけのものではありません。むしろ、「3年後、5年後に自社が目指す事業を実現するために、どのような人材が必要か」という未来からの問いかけに答えるためのものです。
ここで、「要員計画」の観点が活きてきます。将来の事業計画に基づき、各部門でどのような役割・スキルを持つ人材が何人必要になるのかを予測するのです。この「あるべき人材の姿」を起点とすることで、教育体系図の目的が明確になり、育成すべきスキルの優先順位が自ずと定まります。
成功に導く「教育体系図」作成の5ステップ
それでは、未来からの逆算思考に基づき、実用的な教育体系図を構築するための具体的なステップを見ていきましょう。
ステップ1:経営理念・事業戦略の言語化
まずは、「自社が社会に提供する価値は何か(経営理念)」「今後、どの事業領域で、どのように成長していくのか(事業戦略)」を、明確な言葉で再確認します。これがすべての土台となります。経営陣へのヒアリングなどを通じて、企業の進むべき方向性を具体的に描き出しましょう。
ステップ2:等級・役職ごとの「役割」の定義
次に、企業の方向性を実現するために、各等級や役職の従業員にどのような「役割」を期待するのかを定義します。例えば、「課長職には、部の目標達成責任に加え、次世代リーダー候補の育成責任も担ってもらう」といった具合です。この「役割定義」が、育成の骨格となります。
ステップ3:役割遂行に必要な「スキル」の洗い出し
定義した役割を全うするために、具体的にどのようなスキル(知識・技術・態度)が必要かを洗い出します。ここでは、階層ごとに共通して求められる「共通スキル(例:ロジカルシンキング、リーダーシップ)」と、職種ごとに求められる「専門スキル(例:プログラミング、マーケティング分析)」に分けて整理すると分かりやすくなります。
ステップ4:最適な「育成手法」のマッピング
洗い出したスキルを、どのように習得させるのが最も効果的かを考え、マッピングしていきます。育成手法は、集合研修(Off-JT)だけではありません。
- 日常業務を通じた指導(OJT)
- 上司や先輩による定期的な面談(1on1)
- 挑戦的な業務の付与(タフアサインメント)
従業員自身による学習(自己啓発) など、多様な手法を組み合わせることが、学習効果の定着に繋がります。このステップでは、現場の管理職を巻き込み、現実的な育成計画を共に作ることが成功の鍵です。
ステップ5:スモールスタートと運用ルールの策定
最初から完璧を目指す必要はありません。まずは、新人や若手層など、特定の階層に絞って教育体系図を策定し、運用を開始する「スモールスタート」が現実的です。そして、「年に一度、管理職と人事で見直しを行う」「研修後には、必ず実践報告会を実施する」といった、継続的な運用ルールを定めます。
教育体系図は、組織と人が共に成長するための設計図
教育体系図をゼロから作り上げるプロセスは、単に人事制度を整える作業ではありません。それは、「自社はどこへ向かうのか」「そのために、どのような人材が必要なのか」「どうすれば、従業員がやりがいを持って成長できるのか」という、企業の根幹に関わる問いに、組織全体で向き合う貴重な機会です。
丁寧に作られた教育体系図は、採用、配置、評価といった他の人事機能とも連動し、組織全体のパフォーマンスを最大化する強力なエンジンとなります。それは、企業と従業員が共に未来へ向かって成長していくための、大切な設計図と言えるでしょう。
株式会社コトラでは、人的資本経営に関する深い知見と豊富な実績で、貴社の課題解決をサポートします。要員計画に基づいた実践的な教育体系の構築支援など、より具体的なご相談はお気軽にお問い合わせください。