なぜ育たない? 次世代リーダー育成の落とし穴

なぜ次世代リーダーは育たないのか?

「次世代の経営を担うリーダーが育っていない」
「多額の費用をかけて研修を実施しているのに、一向に成果が見えない」
「リーダー候補者たちが、そもそも管理職になりたがらない」

これは、多くの企業の経営者や人事責任者の方々が共通して抱える、深刻な悩みではないでしょうか。企業の持続的な成長において、次世代リーダーの育成が最重要課題であることは論を俟ちません。にもかかわらず、多くの企業でその取り組みが形骸化し、期待した成果に繋がっていないのが実情です。

本コラムでは、なぜ次世代リーダー育成が上手くいかないのか、その根深い原因を構造的に解き明かし、解決への道筋を探ります。成功する次世代リーダー育成には、単なる研修プログラムの導入に留まらない、より本質的なアプローチを必要とします。

陥りがちな「育成の罠」:個別施策の限界と構造的問題

多くの企業で見られる次世代リーダー育成の取り組みは、その効果を十分に発揮できていないケースが少なくありません。その背景にある、いくつかの構造的な課題について見ていきます。

画一的な研修と現場任せのOJT

リーダーシップ理論やマネジメントスキルを学ぶ集合研修は、知識習得の機会として有効です。

しかし、自社の事業環境や戦略、個々の候補者の特性を無視した画一的な内容では、実践的なスキルとして定着させることは困難です。次世代リーダー育成の現場では、研修で学んだことを実務で活かせず、「やりっぱなし」になっている状況が散見されます。

また、OJT(On-the-Job Training)は実践的な経験を積ませる上で不可欠ですが、その効果は育成担当者である上司のスキルや意識に大きく依存します。育成計画が不明確なまま現場に丸投げされ、結果として個人の成長が偶然の産物になってしまうことも珍しくありません。このような状況は、体系的な次世代リーダー育成とは言い難いものです。

短期的な視点と戦略の欠如

リーダーとしての成長には、挑戦と失敗を通じた中長期的な視点での経験学習が不可欠です。しかし、短期的な業績評価のプレッシャーが強い環境では、候補者はリスクを伴う新たな挑戦を避け、既存の業務の確実な遂行を優先しがちになります。これでは、次世代リーダー育成に必要な経験を積ませることはできません。

これらの問題の根底にあるのは、次世代リーダー育成を事業戦略から切り離された「人事業務の一部」として捉えてしまう考え方です。本来、次世代リーダー育成は、企業の未来を創造するための戦略的投資であるはずです。事業の方向性と連動し、どのようなリーダーシップが将来的に必要とされるのかを定義することなくして、効果的な育成はあり得ません。

コトラでは、この課題を解決する鍵は「人材ポートフォリオ」の構築にあると考えています。これは、企業の事業戦略の実現に向けて、現在および将来必要となる人材の質と量を可視化し、採用・育成・配置を戦略的にマネジメントする考え方です。次世代リーダー育成も、この全体像の中で捉え直すことが、成功への第一歩となると考えられます。

明日への一歩:戦略的人材育成への転換

では、具体的に何から始めればよいのでしょうか。次世代リーダー育成を絵に描いた餅で終わらせないために、明日から着手できる実践的なアクションを2つご紹介します。

Step1:「あるべきリーダー像」の再定義と共有

まずは、自社の経営理念や中期経営計画に基づき、「3年後、5年後に自社を牽引するのはどのようなスキル、経験、マインドを持ったリーダーか」を徹底的に議論し、解像度の高い「あるべきリーダー像」を描き出すことが不可欠です。

このプロセスには、経営陣だけでなく、現場の管理職や次世代を担う若手・中堅社員も巻き込むことが望ましいでしょう。多様な視点を取り入れることで、より実態に即した、納得感の高いリーダー像が明確になります。この共通認識こそが、効果的な次世代リーダー育成プログラムを設計するための羅針盤となります。

Step2:候補者一人ひとりの「現在地」の可視化

定義した「あるべきリーダー像」と、現在の候補者との間にあるギャップを正確に把握することが次のステップです。アセスメントツールや360度評価、あるいは上司や本人との丁寧な1on1ミーティングを通じて、各候補者の強みや開発すべき課題、キャリアへの意欲などを客観的かつ多角的に評価します。

重要なのは、単なる評価に留めず、本人に結果を丁寧にフィードバックし、自己認識を促すことです。この「現在地の可視化」なくして、個別に最適化された次世代リーダー育成計画は立てられません。

これらの取り組みは、一朝一夕に結果が出るものではありません。しかし、このような地道なプロセスこそが、次世代リーダーの育成という複雑な課題を解決する上で最も確実な道筋であると考えられます。

未来への投資としての次世代リーダー育成

本コラムでは、多くの企業が直面する次世代リーダー育成の課題とその構造的な原因、そして解決に向けた最初の一歩を解説しました。画一的な研修や現場任せのOJTといった従来のやり方には限界があり、これからは事業戦略と緊密に連携した、より戦略的で個別最適化されたアプローチが求められます。

次世代リーダー育成は、単なるコストではなく、企業の未来を創造するための最も重要な「投資」です。このテーマに真摯に向き合い、継続的に取り組むことこそが、変化の激しい時代を乗り越え、企業の持続的な成長を実現するための鍵となると考えられます。貴社の次世代リーダー育成が、未来への確かな架け橋となることを願っています。

株式会社コトラでは、人的資本経営に関する深い知見と豊富な実績で、貴社の課題解決をサポートします。「あるべきリーダー像」の定義や、客観的なアセスメントに基づいた育成計画の策定など、より具体的なご相談はお気軽にお問い合わせください。

この記事を書いた人

kotora

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コトラ(人的資本チーム)

経営戦略に連動した「動的な人材ポートフォリオ」の構築から、「採用」「育成」といった人材マネジメントの実践まで、人的資本経営を一気通貫で支援しています。

コンサルタント紹介

杉江 幸一郎
ディレクター ISO30414リードコンサルタント

東京大学経済学部経営学科卒。大手メーカー、通信事業者、IT企業など上場事業会社にて経営企画、事業戦略、新規事業立ち上げ等の責任者を歴任。上場企業取締役、CISO および ISO事務局等も担当。

コトラでは、ISO30414を始めとした人的資本経営のコンサルティングに従事。ISO30414リードコンサルタント。ESG情報開示研究会、人的資本経営コンソーシアム、地方創生SDGs官民連携プラットフォーム会員。
X(旧Twitter):@Kotora_cnsl


蘇木 亮太
コンサルタント ISO30414リードコンサルタント

同志社大学法学部卒。大手教育系企業でのコンサルタント経験を経て、金融系スタートアップに入社。 組織・人事企画チームに所属し、エンゲージメント向上施策やDE&I推進、研修開発、人事制度運用等を担当。

コトラでは、有価証券報告書・統合報告書における人的資本開示、ISO30414、人事組織コンサル等に従事。ISO30414リードコンサルタント資格/日本ディープラーニング協会G検定保有者。


大西裕也
リサーチャー兼コンサルタント

神戸大学大学院経済学研究科卒。教育経済学を専攻。

コトラでは、ISO30414認証取得支援及び人的資本開示動向のリサーチ、人事データ分析・レポート作成等に従事。
DX推進パスポート(G検定、データサイエンティスト検定、ITパスポート)、一種外務員資格取得者。


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