「候補者体験」を起点に見直す採用戦略
「最終面接まで手応えは十分だったはずなのに、なぜ内定を辞退されてしまったのだろうか」
採用担当者の皆様であれば、一度はこのような悔しい経験をされたことがあるのではないでしょうか。時間と情熱を注いだ採用活動の最終局面での辞退は、担当者だけでなく、企業全体にとっても大きな損失です。
この「内定辞退」という現象の裏には、候補者が選考過程で感じた、ささいな、しかし決定的な不満や不安、すなわち質の低い「候補者体験」が隠れているケースが少なくありません。本コラムでは、内定辞退という深刻な課題を解決する鍵として「候補者体験」に焦点を当て、その質を向上させるための具体的な3つのステップを解説します。
内定辞退の真因は「体験のズレ」にある
内定辞退の理由として、候補者は「給与や待遇の条件が合わなかった」「他社からより良いオファーがあった」といった条件面を挙げることが多いかもしれません。しかし、それはあくまで表層的な理由であり、その意思決定の根底には、より深いレベルでの「体験のズレ」が存在していると考えられます。
私たちコトラが考える「体験のズレ」とは、候補者が選考前に抱いていた企業への期待と、選考過程で実際に体験したこととの間に生じるギャップのことです。
例えば、採用サイトでは「風通しの良い、フラットな組織文化」を謳っているにもかかわらず、面接官が高圧的であったり、質問を受け付けない雰囲気だったりすれば、候補者はどう感じるでしょうか。この瞬間に、「この企業が発信している情報は信頼できない」という不信感が生まれ、入社意欲は大きく削がれてしまいます。候補者体験とは、こうしたズレをなくし、一貫したメッセージと体験を提供することで、候補者との間に信頼関係を構築していくプロセスなのです。
候補者体験を「感覚」から「仕組み」へ
多くの企業が候補者体験の向上を試みますが、その取り組みが担当者の丁寧なメール対応や、一部の面接官の個人的な努力といった、「感覚的」かつ「属人的」な対応に留まってしまうケースが散見されます。しかし、それでは組織としての安定した成果には繋がりません。
私たちコトラが重視するのは、候補者体験を個人の感覚に頼るものから、データに基づき、組織全体で実行・改善できる「仕組み」へと昇華させることです。誰が担当でも、どのポジションの採用でも、一貫して質の高い体験を提供できるプロセスを構築し、継続的に改善していく。この視点こそが、持続的な採用力の強化に不可欠です。後述する3つのステップは、まさにこの「仕組み」を構築し、機能させるための具体的なプロセスに他なりません。
「選ばれる企業」になるための具体的な3ステップ
それでは、候補者との間に「体験のズレ」を生じさせず、入社意欲を高める候補者体験を構築するために、どのようなステップを踏めばよいのでしょうか。ここでは、明日からでも着手できる実践的な3つのステップをご紹介します。
ステップ1:現状把握と課題の可視化
何よりもまず、自社の候補者体験の現状を客観的に把握することから始めます。思い込みや憶測で判断するのではなく、データに基づいて課題を特定することが重要です。
- 候補者アンケートの実施
選考途中や内定後の候補者(辞退者を含む)に、匿名でアンケートを実施します。「選考プロセスの満足度」「情報提供の十分さ」「面接官の印象」などを尋ね、定量・定性の両面からフィードバックを収集します。 - 現場社員へのヒアリング
面接官やリクルーター、受け入れ部署の社員など、採用プロセスに関わる様々な立場の従業員から、現状の課題や改善点をヒアリングします。 - データの分析
応募から内定までの各段階での離脱率や、選考にかかる期間などをデータで分析し、ボトルネックとなっているプロセスを特定します。
これらの活動を通じて、「どの段階で」「どのような候補者体験」が損なわれているのかを具体的に可視化します。
ステップ2:一貫したコミュニケーションの設計
課題が可視化できたら、次に取り組むべきは、一貫性のあるコミュニケーションの再設計です。候補者が接触するすべてのチャネルで、企業の魅力や価値観がブレなく伝わるように仕組みを整えます。
- メッセージングの統一
採用サイト、求人広告、スカウトメール、面接で語られる内容に一貫性を持たせます。企業の「何を」伝えるのか、コアとなるメッセージを定義し、関係者全員で共有することが不可欠です。 - 面接官トレーニングの実施
面接官は「企業の顔」であり、その言動が候補者体験に与える影響は絶大です。自社の魅力や評価基準を正しく伝え、候補者の潜在能力を引き出すためのトレーニングを定期的に実施します。評価のばらつきをなくす「構造化面接」の手法を導入することも、公平でポジティブな候補者体験に繋がります。 - 迅速で誠実な情報提供
選考結果の連絡はもちろん、候補者からの質問への迅速な回答、次のステップに関する丁寧な案内など、誠実なコミュニケーションを徹底します。特に、不採用通知こそ、企業の姿勢が問われる重要な候補者体験の場であると認識すべきです。
ステップ3:仕組み化と継続的な改善
設計したコミュニケーションプランを、属人性に頼らず組織全体で実行できる「仕組み」に落とし込み、継続的に改善していくことが最後のステップです。
- プロセスの標準化とツール活用
採用管理システム(ATS)などを活用し、連絡の漏れや遅延を防ぎます。誰が担当しても一定水準以上の候補者体験を提供できるような、標準化されたプロセスを構築します。 - フィードバックループの構築
ステップ1で実施した候補者アンケートなどを定期的に行い、改善施策の効果を測定します。その結果を関係者にフィードバックし、次の改善アクションに繋げるサイクル(PDCA)を回し続けます。
この地道な改善の繰り返しが、組織としての採用力を着実に高め、質の高い候補者体験を文化として根付かせていくのです。
候補者と誠実に向き合うことが、内定辞退を防ぐ
内定辞退は、単に一人の採用機会を失うだけでなく、企業の評判や従業員の士気にも影響を及ぼす深刻な問題です。その根本原因の多くは、選考プロセスにおける「候補者体験の質の低さ」に起因します。
本コラムでご紹介した3つのステップは、候補者一人ひとりに対して、企業としていかに誠実に向き合うか、という姿勢を再構築するプロセスでもあります。この誠実な姿勢こそが、候補者との間に強固な信頼関係を築き、最終的に「この会社で働きたい」という入社意欲を醸成するのです。候補者体験の向上は、一朝一夕に成し遂げられるものではありませんが、着実に実践することで、採用競争力を高め、企業の持続的な成長を支える人材獲得に繋がるでしょう。
株式会社コトラでは、人的資本経営に関する深い知見と豊富な実績で、貴社の課題解決をサポートします。内定辞退を防ぐための採用プロセス改善や、効果的な候補者体験の設計に関する具体的なご相談は、お気軽にお問い合わせください。