コンプライアンス研修の効果を、さらに高めるために
コンプライアンス研修の重要性は、今や多くの企業で共通の認識となっています。従業員の意識向上や知識習得のため、eラーニングの導入や、事例を用いたディスカッションなど、各社で工夫を凝らした研修が実施されていることでしょう。これらの取り組みは、健全な企業活動の礎となる、非常に価値あるものです。
本コラムでは、こうした素晴らしい取り組みを、さらに次のステージへと引き上げるための視点をご提案します。それは、これまで主に「育成」の領域で語られてきたコンプライアンスを、「採用」の段階から捉え直すというアプローチです。育成という重要なエンジンに、採用というもう一つのエンジンを組み合わせることで、組織文化の醸成を力強く加速させる。その具体的な方法論について考えていきます。
なぜ「採用」がコンプライアンス研修の効果を最大化するのか
コンプライアンス研修は、従業員に知識を与え、行動の指針を示すものです。その効果は、受け手である従業員がどのような価値観を持っているかによって大きく左右されると考えられます。採用段階で、より自社の価値観に親和性の高い人材を迎え入れることには、二つの大きなメリットがあります。
研修効果の土台となる個人の「誠実性」
コンプライアンスの本質は、ルールを守ること以上に、誠実な行動を自律的に選択できることにあります。この「誠実性」は、個人の根源的な価値観に根差すものです。採用の段階で、誠実性の高い資質を持つ人材を見極めることができれば、入社後のコンプライアンス研修で学ぶ知識やスキルは、強固な土台の上に築かれることになります。結果として、知識が行動へと結びつきやすくなり、研修の効果を最大化できるのです。
企業文化へのスムーズな適応
企業には、それぞれ大切にしている理念や行動規範があります。コンプライアンス研修は、こうした企業文化を従業員に伝え、浸透させるための重要な機会でもあります。
採用の段階で、こうした企業の価値観に共感し、フィットする人材を迎え入れることができれば、研修で伝えるメッセージはスムーズに受け入れられ、行動へと反映されます。これは、新しい従業員の早期活躍(オンボーディング)を促し、組織全体の一体感を高める上でも非常に有効です。
私たちコトラは、採用を単なるスキルマッチングの場ではなく、候補者と企業の価値観のフィットを見極める「カルチャーフィット」の機会と捉えています。特に構造化面接のような手法を用いれば、面接官の主観に頼らず、候補者の過去の行動事実から、その人が大切にする価値観や誠実性を客観的に理解することが可能になります。
「採用」と「育成」を繋ぐ、一貫したコンプライアンス戦略
採用と育成は、分断されたプロセスではありません。両者を戦略的に連携させることで、コンプライアンスはより強固なものになります。
アクション1:採用基準に「誠実さ」という軸を持つ
まず、自社が求める人材要件の中に、「誠実性」や「倫理観」といった価値観に関する項目を明確に位置づけます。そして、それらを測るための問いを面接に組み込むことで、採用プロセス全体に一貫した軸を通すことができます。
アクション2:多角的な視点で相互理解を深める
面接の場だけでは、お互いのすべてを理解することは難しいかもしれません。候補者の同意のもと、以前の職場で共に働いた方からお話を伺うリファレンスチェックなどを活用することで、候補者の人物像をより多角的に、深く理解することができます。これは、入社後の活躍を支援するための重要な情報にもなります。
アクション3:オンボーディングで価値観を接続し、力を引き出す
採用時に確認した候補者の素晴らしい資質や価値観を、入社後の研修でさらに伸ばしていくことが大切です。特にオンボーディング期間に行うコンプライアンス研修は、自社の理念や歴史を伝え、「なぜ私たちがコンプライアンスを大切にするのか」という想いを共有する絶好の機会です。個人の価値観と組織の価値観がしっかりと接続されたとき、従業員は安心してその能力を最大限に発揮してくれるでしょう。
採用と育成の両輪が、組織を未来へ動かす
これまで多くの企業が真摯に取り組んできたコンプライアンス研修。その素晴らしい取り組みは、採用という視点を加えることで、さらに力強く、本質的なものへと進化します。
入口である採用の段階で、自社の価値観に共鳴する誠実な人材を丁寧に迎え入れる。そして、育成の段階で、その素晴らしいポテンシャルを研修によって最大限に引き出し、組織全体の力へと変えていく。この「採用」と「育成」の両輪が噛み合ったとき、コンプライアンスは「守るべきルール」から「組織を成長させる文化」へと昇華され、企業の持続的な成長を支える確かな土台となるのです。
株式会社コトラでは、人的資本経営に関する深い知見と豊富な実績で、貴社の課題解決をサポートします。構造化面接の導入など、採用と育成を連携させたコンプライアンス体制の強化について、お気軽にご相談ください。