「スーパーマン」を探し続けていませんか?
「入社後の教育コストはかけられないため、初日から自走して成果を出せる即戦力が絶対条件」
「10名以上のマネジメント経験を持ちつつ、現場実務でもトップレベルの専門スキルが必須」
「組織の若返りを図るため、豊富な経験を持ちながらも、年齢は35歳前後までの若手を希望」
応募数減少に悩む企業の求人票を確認すると、このような「理想の詰め合わせ」になっているケースが後を絶ちません。現場部門からの要望をそのまま積み上げた結果、市場に極めて少数しか存在しない「スーパーマン」を定義してしまっているのです。
労働人口が減少する中で、かつてのような「買い手市場」の感覚で「完璧な人材」を待っていても、応募が来ないのは必然です。応募数減少という事象は、市場からの「その条件と報酬のバランスでは、誰も手を挙げない」という冷徹なメッセージでもあります。
この状況を打開するために必要なのは、基準を下げて妥協することではありません。「採用要件を事業目標に合わせて最適化する」こと、そして「選考プロセスにおける無駄なハードルを取り除く」ことが不可欠です。本コラムでは、応募数を回復させるための現実的かつ具体的なアプローチを解説します。
「Must」と「Want」の冷徹な仕分け
現場の「安心」が応募のハードルになる
応募数を増やすための第一歩は、募集要件の「断捨離」です。 多くの求人票では、必須条件(Must)と歓迎条件(Want)の境界線が曖昧です。現場担当者は採用後のミスマッチを恐れるあまり、「あれもこれもできてほしい」と、本来は入社後に習得可能なスキルまで「必須」に入れてしまう傾向があります。
例えば、「業界経験5年以上」という条件は、本当に成果を出すために不可欠でしょうか? 「他業界でも類似の課題解決経験があれば可」とすることはできないでしょうか? あるいは、「特定のツール使用経験」は必須でしょうか? 「入社後1ヶ月の研修で習得可能」と判断できれば、その条件を外すだけで対象となる候補者数は跳ね上がるでしょう。
人事担当者がすべきなのは、現場に対して「なぜその条件が必要なのか?」を問い直し、真に事業貢献に必要なコンピテンシー(行動特性)だけを残して、それ以外を削ぎ落とすことです。条件を緩めるのではなく、本質的でないフィルターを外すこと。これが母集団形成における最も即効性のある施策です。
求職者視点での「魅力」への書き換え
要件を整理したら、それを求職者への「メッセージ」として翻訳し直す必要があります。 従来の求人票は、企業側が「要求」を羅列するだけの文書になりがちでした。しかし、候補者が知りたいのは「自分に何ができるか」以上に、「自分がどうなれるか」です。
「〇〇業務を担当していただきます」という記述を、「〇〇業務を通じて、市場価値の高い××のスキルが身につきます」と書き換えるだけで、応募者の反応は変わります。応募数減少の局面においては、求人票は「募集要項」ではなく、求職者を口説くための「手紙(ラブレター)」であるという認識転換が求められます。
選考プロセスの「スピード」と「体験」を変える
「選考してやる」から「選んでもらう」へ
要件を見直しても、応募後のプロセスに問題があれば、せっかくの人材を逃してしまいます。特によくあるのが、書類選考や面接日程の調整に時間がかかりすぎているケースです。 優秀な人材ほど、複数の企業から引く手あまたです。返信に3日かかっている間に、競合他社は面接を実施し、内定を出しているかもしれません。
応募数減少対策として有効なのは、「カジュアル面談」の積極的な導入です。 履歴書を送り、志望動機を練り上げるというプロセスは、求職者にとって高い心理的ハードルです。「まずは話を聞いてみたい」というライトな層との接点を作ることで、潜在的な候補者をプールすることができます。
「選考」の前に「相互理解」のフェーズを挟むことは、遠回りに見えて、結果的に自社のファンを増やし、応募への転換率を高める効果的な手段と言えるでしょう。
候補者体験(Candidate Experience)の向上
面接での体験も応募数やその後の承諾率に影響します。圧迫感のある面接や、定型的な質問だけの面接は、その候補者の志望度を下げるだけでなく、SNSや口コミサイトで「面接の雰囲気が悪かった」と書かれるなど、将来の応募数にも悪影響を及ぼします。
ここで重要になるのが、実践的な「面接官トレーニング」の導入です。 単に評価基準を学ぶだけでなく、候補者の本音を引き出す「傾聴スキル」や、候補者のキャリアビジョンをヒアリングした上で「自社ならその夢をどう実現できるか」を提案する「魅力付けスキル」をロールプレイング等で強化します。
一方的なジャッジではなく、対話を通じてキャリア形成のパートナーとして振る舞うこと。そして合否にかかわらず、自社に関心を持ってくれたことへの感謝を伝えること。こうした「候補者体験(CX)」の積み重ねが、採用ブランドを構築し、巡り巡って応募数の底上げに繋がります。
採用活動を「管理」から「投資」へ昇華させる
応募数減少は、単なる「人手不足」の問題ではなく、企業の成長スピードを鈍化させる経営課題です。
これを解決するためには、「待ち」の姿勢から脱却し、マーケティング的な思考を取り入れる必要があります。 市場実態に合わせて要件を最適化し(プロダクト改善)、候補者が応募しやすいプロセスを設計し(チャネル改善)、魅力的なストーリーを届ける(プロモーション改善)。採用活動を「管理業務」ではなく、未来の利益を生み出すための「投資活動」と捉え直すことが求められています。
今、目の前にある求人票の「必須条件」を一つ外す勇気を持つこと。それが、膠着した採用状況を打破する最初の一歩となるでしょう。
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