応募数減少の真因とは?|選ばれる企業のEVP設計

なぜ、これまでの採用手法では「応募数減少」が止まらないのか

「求人を出しても反応がない」
「エージェントからの紹介が止まった」

多くの企業が直面するこの厳しい現実は、単なる生産年齢人口の減少だけが原因ではありません。同じ市場環境下でも、着実に優秀な人材を獲得し続けている企業は存在するからです。

勝敗を分ける決定的な差は、企業が発信している「自社の魅力」と、候補者が求めている「働く価値」の間に生じているズレにあります。従来の「条件提示型」の求人や、画一的なアピールが通用しなくなりつつある今、応募数減少を「自社の提供価値(EVP)を見直す好機」と捉え直す視点が必要です。

本コラムでは、市場環境のせいにせず、人的資本経営の観点から採用戦略を根本から再構築するためのアプローチを解説します。

「選ばれる」ための必然性を作る:EVPの再定義

応募数減少の裏にある「魅力の陳腐化」

応募数減少に直面した際、多くの企業は「露出を増やす」「ターゲットを広げる」「給与を上げる」といった対症療法に走りがちです。これらは一時的な効果をもたらすかもしれませんが、根本的な解決にはなりません。根本的な「商品力(=働く場としての魅力)」がターゲットに刺さっていなければ、いくら広告費を投じても穴の空いたバケツに水を注ぐようなものです。

ここで重要になる概念が、EVP(Employee Value Proposition:従業員価値提案)です。これは「企業が従業員に提供できる独自の価値」を指します。報酬や福利厚生といった「衛生要因」だけでなく、成長機会、企業文化、パーパスへの共感、働きやすさ、人間関係といった「動機づけ要因」を含んだ、「従業員がその会社で働くことで得られる、トータルでのメリット」です。

応募数減少が続く企業では、このEVPが不明確であったり、あるいは競合他社と差別化されていなかったりするケースが散見されます。例えば、「アットホームな職場です」「風通しの良い環境です」「挑戦できる風土です」といった表現は、多くの企業で使われており、求職者にとっては何も言っていないに等しい状態になっている可能性があります。言葉が上滑りし、企業の個性が埋没してしまっているのです。

組織サーベイによる「真の強み」の発掘と可視化

では、どのようにして独自のEVPを定義すべきでしょうか。ここで有効なのが、「組織の実態把握」です。経営陣や人事が机上で考えた「我が社の強み」と、現場の社員が日々感じている「働きがい」には、往々にしてズレがあります。このズレこそが、採用メッセージのリアリティを削ぐ要因となります。

組織サーベイやエンゲージメント調査を用いて、現在の社員がなぜこの会社に留まっているのか、何に価値を感じているのかをデータとして可視化することが重要です。定量的なデータだけでなく、定性的なコメントも含めて分析することで、その企業独自の「らしさ」が見えてきます。

  • 「最先端の技術に触れられるから」という知的好奇心への充足
  • 「顧客の経営課題に深く入り込めるから」という介在価値の高さ
  • 「失敗を許容し、再挑戦を称える文化があるから」という心理的安全性
  • 「尊敬できる同僚と切磋琢磨できるから」という人的環境

このように、現場の声から抽出された「生きた価値」こそが、求職者に響く強力なメッセージとなります。社内の価値観を分析し、それを言語化・構造化することが、応募数減少を打開するための最も確実な第一歩となります。

副次的効果としての「インナーブランディング」

さらに、この「自社の価値を問い直す」というプロセス自体が、既存社員のエンゲージメント向上にも大きく寄与します。これは一般に「インナーブランディング」の効果と捉えられます。

アンケートやヒアリングへの回答は、単なるデータ収集にとどまりません。社員自身が「自分はこの会社のどこが好きなのか」を改めて思考し、言語化する貴重な機会となります。日々の業務に追われていると忘れがちな「働く意義」や「自社の強み」を再認識することで、エンゲージメント向上が期待できます。

また、現場の声が採用メッセージに反映されることで、「自分たちの意見が尊重された」「自分たちが会社の顔を作っている」という当事者意識も醸成されます。つまり、採用のためのEVP策定は、結果として離職防止という組織課題の解決にも直結するのです。

ターゲットの心に刺さるメッセージ戦略への転換

「誰に」届けるかを研ぎ澄ます

EVPが明確になったら、次はそれを「誰に」届けるかというターゲット設定の精度を高める必要があります。応募数減少への焦りから「誰でも歓迎」のようなメッセージを発信するのは逆効果です。ターゲットが曖昧になればなるほど、メッセージの鋭さは失われます。

例えば、「安定志向」ではなく「未整備な環境を切り拓くことに面白みを感じる人」を求めるなら、整っていない現状を正直に伝えつつ、そこに「圧倒的な裁量権」という価値をセットで提示すべきです。 ターゲットを絞り込むことは、一見すると母集団を狭めるように見えますが、ミスマッチな応募を減らし、自社のカルチャーに共鳴する質の高い人材を引き寄せるために不可欠なプロセスです。

ストーリーとしての採用広報

ターゲットへの発信において重要なのは、スペックの羅列ではなく「ストーリー」です。 

例えば、「リモートワーク可」という条件一つとっても、単なる制度の有無だけでなく、「なぜ導入しているのか(時間管理ではなく成果による評価を徹底し、社員の自律性を信頼しているから)」という背景や、「実際に社員がどのように柔軟な働き方を活用し、高いパフォーマンスを発揮しているか」というエピソードを伝えることで、企業の姿勢や価値観が立体的に伝わります。

応募数減少は「組織の質」を高める転機である

応募数減少は、企業にとっての「警告」であり、同時に「進化の機会」でもあります。「待っていれば人が来る」時代は終わりました。

今求められているのは、自社の組織文化を深く分析し、他社にはないEVPを明確に定義すること。そして、それを求める人材に対し、ストーリーとして届ける戦略的アプローチです。

「応募が来ない」と悩む前に、「我々は何者で、どこへ向かい、誰と共に歩みたいのか」を今一度、言語化してみてはいかがでしょうか。その問いへの答えの中にこそ、現状を打破する鍵があります。

株式会社コトラでは、人的資本経営に関する深い知見と豊富な実績で、貴社の組織課題の解決をサポートします。より具体的なご相談は、お気軽にお問い合わせください。

この記事を書いた人

kotora

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コトラ(人的資本チーム)

経営戦略に連動した「動的な人材ポートフォリオ」の構築から、「採用」「育成」といった人材マネジメントの実践まで、人的資本経営を一気通貫で支援しています。

コンサルタント紹介

杉江 幸一郎
ディレクター ISO30414リードコンサルタント

東京大学経済学部経営学科卒。大手メーカー、通信事業者、IT企業など上場事業会社にて経営企画、事業戦略、新規事業立ち上げ等の責任者を歴任。上場企業取締役、CISO および ISO事務局等も担当。

コトラでは、ISO30414を始めとした人的資本経営のコンサルティングに従事。ISO30414リードコンサルタント。ESG情報開示研究会、人的資本経営コンソーシアム、地方創生SDGs官民連携プラットフォーム会員。

X(旧Twitter):@Kotora_cnsl


蘇木 亮太
コンサルタント ISO30414リードコンサルタント

同志社大学法学部卒。大手教育系企業でのコンサルタント経験を経て、金融系スタートアップに入社。 組織・人事企画チームに所属し、エンゲージメント向上施策やDE&I推進、研修開発、人事制度運用等を担当。

コトラでは、有価証券報告書・統合報告書における人的資本開示、ISO30414、人事組織コンサル等に従事。ISO30414リードコンサルタント資格/日本ディープラーニング協会G検定保有者。


大西 裕也
コンサルタント ISO30414リードコンサルタント

神戸大学大学院経済学研究科卒。教育経済学を専攻。

コトラでは、ISO30414認証取得支援及び人的資本開示動向のリサーチ、人事データ分析・レポート作成等に従事。

DX推進パスポート(G検定、データサイエンティスト検定、ITパスポート)、一種外務員資格取得者。


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