我が社の心理的安全性は、高いのか、低いのか?
経営者や人事責任者の皆様は、自社の「心理的安全性」について、どのように把握されているでしょうか。
「最近、会議での発言が少ない気がする」
「若手の離職が続いているから、きっと低いのだろう」
「雰囲気は良いから、たぶん高いはずだ」
多くの場合、このような感覚的な印象論に留まってはいないでしょうか。
心理的安全性の重要性が広く認識される一方で、その高め方を議論する以前に、「自社の現状を客観的にどう把握すればよいのか」という点で、多くの企業が壁に突き当たっています。感覚や個人の経験則だけに頼った組織運営は、現代の複雑な経営環境において極めて脆弱です。
本コラムでは、この目に見えない重要な経営資本である心理的安全性を、データによって「可視化」し、具体的な改善アクションに繋げていくためのアプローチについて、深く掘り下げていきます。
なぜ「測定」が不可欠なのか?―共通言語としてのデータ
心理的安全性を高めるための施策は、世の中に数多く存在します。1on1ミーティングの導入やリーダーシップ研修の実施など、枚挙にいとまがありません。しかし、自社の現状や課題を正確に把握しないまま、やみくもにこれらの施策を導入しても、期待した効果は得られにくいでしょう。
データを活用して心理的安全性を測定することには、主に3つの大きなメリットがあります。
- 問題の客観的な把握と共有
「心理的安全性が低い」という主観的な課題認識を、「〇〇事業部では、『挑戦への許容度』に関するスコアが全社平均より20ポイント低い」といった客観的なファクトに変換できます。これにより、経営層から現場まで、全員が同じ課題認識を持つための「共通言語」が生まれます。 - 効果的な打ち手の特定
全社一律の施策ではなく、データ分析によって明らかになった特定の課題(例:特定の階層におけるフィードバックへの抵抗感、部署間の連携不足など)に対して、的を絞った効果的な打ち手を講じることが可能になります。 - 施策の効果測定と継続的な改善(PDCA)
施策の実施前後でスコアの変化を定点観測することで、その打ち手が有効であったかを客観的に評価できます。効果がなければ別の打ち手を試す、というデータに基づいたPDCAサイクルを回すことが、組織変革の精度とスピードを飛躍的に高めます。
心理的安全性の高め方を議論する第一歩は、「測る」ことから始まるのです。
人的資本開示における「説明責任」の遂行
近年、投資家をはじめとするステークホルダーは、企業に対して人的資本に関する情報開示を強く求めています。その中で、単に「心理的安全性の向上に取り組んでいます」と宣言するだけでは、もはや十分な説明責任を果たしたとは言えません。
求められているのは、「どのようなデータ(根拠)に基づいて自社の課題を認識し(As-Is)、どのような目標(To-Be)を掲げ、そのギャップを埋めるために具体的にどのような施策を実行し、その進捗をどのようなKPIでモニタリングしているのか」という、一貫したストーリーです。
コトラでは、ISO30414認証取得支援などを通じて、企業の人的資本開示の高度化をご支援しています。その中で、心理的安全性をはじめとする組織文化に関する定量的データ(サーベイスコアなど)と定性的な情報(具体的な施策内容や従業員の声など)を組み合わせ、説得力のある形で社外に発信していくことの重要性を強調しています。心理的安全性の測定とデータ活用は、組織内部の改善活動であると同時に、外部ステークホルダーへの説明責任を果たすための重要なプロセスなのです。
心理的安全性を「可視化」し、「改善」に繋げる3ステップ
それでは、具体的にどのようにして心理的安全性をデータで捉え、改善に繋げていけばよいのでしょうか。ここでは、データドリブンなアプローチを3つのステップで解説します。
ステップ1:適切な「モノサシ」で測定する
まずは、信頼性と妥当性の高い「モノサシ」、すなわち組織サーベイを設計・実施します。
- 設問の設計
心理的安全性を測定する上での世界的な標準として、エイミー・エドモンドソン教授が提唱した以下の7つの質問項目が広く用いられています。これらをベースに、自社の状況に合わせてカスタマイズすることが基本となります。
<心理的安全性を測る7つの質問>
- チームの中でミスをしても、たいてい非難されない。
- チームのメンバーは、課題や難しい問題を提起することができる。
- チームのメンバーは、自分と考えが異なることを理由に他者を拒絶することはない。
- チームに対して、リスクのある行動が許容されている。
- チームの他のメンバーに助けを求めることは容易である。
- チームの誰も、他人の仕事を意図的におとしめるような行動はしない。
- チームのメンバーと働くことで、自分のスキルや才能が尊重され、活かされていると感じる。
- 多角的な分析軸の設定
部署、役職、勤続年数、性別、雇用形態といった属性データを掛け合わせることで、どのセグメントに課題が潜んでいるのかを多角的に分析できるように準備します。 - パルスサーベイの活用
年1回の詳細なサーベイに加え、1~2問程度の簡単な質問で心理的安全性の状態を毎週、あるいは隔週でチェックする「パルスサーベイ」を組み合わせることで、変化の兆候をより迅速に捉えることができます。
ステップ2:データを「分析」し、課題の仮説を立てる
集まったデータを眺めるだけでは意味がありません。データからインサイト(洞察)を抽出し、課題の仮説を立てるプロセスが重要です。
- スコアの比較分析
全体の平均値だけでなく、部署ごとのスコアのばらつきを確認します。特にスコアが高い部署(ポジティブ・デビアンス)と低い部署に注目し、その背景に何があるのかを探ります。 - 相関分析
心理的安全性のスコアと、他の指標(例:エンゲージメント、パフォーマンス評価、離職率など)との相関関係を分析します。「心理的安全性が高いチームは、エンゲージメントも高い傾向がある」といった関係性が見えれば、施策の優先順位付けに役立ちます。 - フリーコメントのテキスト分析
定量データだけでは見えてこない、従業員の生の声が含まれるフリーコメントを分析します。特定のキーワード(例:「発言しづらい」「情報がこない」など)の出現頻度や文脈を分析することで、課題の解像度を高めます。
ステップ3:「対話」を通じて打ち手を決定し、実行する
データ分析から得られた仮説は、あくまで仮説です。現場の従業員との「対話」を通じて、その妥当性を検証し、共に打ち手を考えるプロセスが不可欠です。
- ワークショップの実施
サーベイ結果を現場にフィードバックし、管理職やチームメンバーが主体となって「なぜこの結果になったのか」「どうすれば改善できるか」を議論するワークショップを実施します。データという共通言語があることで、議論が具体的かつ建設的になります。 - アクションプランの策定とモニタリング
ワークショップで出たアイデアを基に、各チームで具体的なアクションプランを策定し、実行します。人事部門は、その進捗を定期的にモニタリングし、必要に応じてサポートを提供します。
データは、組織変革を加速させる羅針盤である
心理的安全性という、これまで曖昧で捉えどころのなかった概念は、データを活用することで、客観的に把握し、改善できる具体的な経営課題へと変わります。これまでの感覚や個人の経験則に依存した組織運営から、客観的なデータに基づいた意思決定へと移行すること。この転換こそが、変化の激しい時代において組織変革を成功に導く鍵となります。
心理的安全性の高め方は、もはや精神論ではありません。データを活用して自社の現状を正しく診断し、的確な対策を立案し、その効果を測定しながら改善を続ける。この科学的なアプローチこそが、真に強く、しなやかな組織文化を育むのです。貴社も、データドリブンな組織変革の第一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。
株式会社コトラでは、人的資本経営に関する深い知見と豊富な実績で、貴社の課題解決をサポートします。効果的な組織サーベイの設計・分析から、データに基づいた具体的な改善策の実行支援まで、より具体的なご相談は、お気軽にお問い合わせください。




