「次の経営幹部候補」、計画的に育成できていますか?
「5年後、10年後を任せられる経営人材が育っていない」
「優秀なミドルマネージャーは多いが、そこから一皮むけず、経営視点を持つ人材が出てこない」
「次世代リーダーの選抜が、結局は現経営陣の主観的な推薦頼みになっている」
企業の経営者や人事責任者の皆様にとって、将来の経営を担う人材の育成は、最も重要な経営課題の一つではないでしょうか。
多くの企業がサクセッションプラン(後継者育成計画)の重要性を認識しつつも、その実行がうまく機能していないケースは少なくないようです。その根本的な原因の一つとして、人事制度とサクセッションプランが分断されている可能性が考えられます。
例えば、日常の人事制度(評価・等級)は既存事業の成果を最大化することに最適化されている一方で、サクセッションプランでは「未来の変革を担うリーダー」を選ぼうとする。このズレが、計画的な育成を困難にしているのではないでしょうか。
本コラムでは、企業の持続的成長の鍵を握るサクセッションプランを実効性あるものにするために、人事制度をいかに設計し、連動させていくべきか、その本質的なアプローチを考察します。
人事制度を「経営人材の育成基盤」として機能させる
サクセッションプランを成功させる本質は、それを「一部のエリート選抜」イベントとして捉えるのではなく、日常の人事制度の仕組み全体を通じて、経営人材候補が継続的に見出され、育成される「基盤」として機能させることにあると考えられます。
「あるべき経営人材像」の解像度を高める
まず問われるのは、「自社にとって必要な経営人材とは何か」という定義の解像度です。 5年後、10年後の事業環境を見据えたとき、どのような経験、スキル、マインドセット(価値観)を持つリーダーが必要なのでしょうか。この定義が曖昧なままでは、育成も選抜もできません。
ここでコトラが重視する視点は、この「あるべき経営人材像」を、将来の事業戦略から具体的に逆算して定義することです。
単に「優れた人物」を選ぶのではなく、5年後、10年後の戦略地図を描いた上で、「その戦略を実行するために、現在の経営チームや幹部候補層に不足している経験・ケイパビリティは何か」というギャップを明確に特定すること。これが、人事制度とサクセッションプランを接続する本質的な第一歩です。
人事制度(等級・評価)に「経営視点」を組み込む
あるべき経営人材像が定義できたら、それを日常の人事制度に組み込む必要があります。 多くの企業の人事制度は、管理職(マネージャー)の育成には適していても、経営者(リーダー)の育成には最適化されていない場合があります。
例えば、等級制度において、上位等級に上がるための要件が「担当部門の業績」や「部下の管理能力」に偏っていないでしょうか。 将来の経営幹部候補には、それらに加え、
- 全社最適の視点
自部門の利益だけでなく、会社全体の利益を考えて意思決定できるか。 - 変革推進力
既存の枠組みにとらわれず、新たな価値創造や組織変革を主導できるか。 - 不確実性への耐性
曖昧な状況下でもビジョンを示し、リスクを取って判断できるか。
といった要素を、評価基準や昇格要件として明確に組み込むことが求められます。
日常の評価フィードバックの中で、こうした経営視点について上司と対話する機会を持つことが、候補者の早期育成に繋がると考えられます。
実践的ステップ:サクセッションプランと連動する人事制度構築
では、具体的にどのように人事制度をサクセッションプランと連動させていけばよいでしょうか。3つの実践的なステップを提案します。
ステップ1:人材プールの定義と可視化
まず、サクセッションプランの対象となる「人材プール(候補者群)」を定義します。 一般的には、現経営陣の後継者候補(プールA)、次世代の事業部長候補(プールB)、その次の課長クラスの優秀層(プールC)など、階層別に定義することが多いようです。
重要なのは、この選定プロセスを透明化し、客観的な基準(現行の人事評価結果、定義した経営人材要件への適合度、第三者によるアセスメントなど)に基づいて行うことです。 そして、選定された人材プールの情報を、人事システム上で可視化し、関係者(現経営陣、人事)で共有します。
ステップ2:育成計画と「人事制度」の連動
次に、人材プールに入った候補者一人ひとりに対して、個別の育成計画(IDP:Individual Development Plan)を作成します。 この育成計画を実効性あるものにするために、人事制度(特に配置・育成)を意図的に活用します。
- 戦略的な異動・配置
候補者の経験の幅を広げるため、あえて未経験の部門や、経営企画、海外拠点、新規事業立ち上げなど、修羅場と呼ばれるようなタフなポジションに配置転換します。 - 育成プログラムの提供
選抜型研修(次世代リーダー研修、経営塾など)を提供し、経営知識のインプットや、現経営陣との直接対話の機会を設けます。 - メンター制度
現役の役員がメンターとなり、定期的にキャリアや経営課題について相談できる体制を整えます。
こうした「非日常の経験」を積ませることを、人事制度上のキャリアパスの一部として明確に位置づけることが重要です。
ステップ3:「抜擢」を可能にする柔軟な等級・報酬制度
計画的な育成と同時に、優れた才能を早期に登用する「抜擢」の仕組みも必要です。 しかし、年功序列的な色彩が残る人事制度では、年齢や在籍年数に関わらず若手を重要なポジションに抜擢することは困難です。
- 等級制度の柔軟化
「現行の等級で最低〇年経験しなければ昇格できない」といった画一的な滞留年数要件を見直し、あるいは撤廃し、成果とポテンシャル(経営人材要件への適合度)が認められれば、年齢や在籍年数に関わらず一気に上位等級へ昇格できるようなルート(飛び級)を制度化します。 - 役割(ミッション)ベースの報酬
候補者が抜擢され、より大きな役割(ミッション)を担うことになった場合、その役割の大きさに見合った報酬を、現行の等級とは別枠で設定するなどの柔軟な対応も考えられます。
人事制度が「抜擢の壁」になるのではなく、「抜擢を後押しする仕組み」となるよう設計することが、組織全体の活性化にも繋がると考えられます。
人事制度を通じた計画的育成が、企業の未来を拓く
本コラムでは、サクセッションプランと人事制度の連動性について考察しました。 企業の持続的成長は、ひとえに次世代の経営を担うリーダーをいかに計画的に育成できるかにかかっていると言っても過言ではありません。
場当たり的な選抜や、一部のエリート教育に終始するのではなく、日常の人事制度そのものが経営人材を育てる土壌となるよう設計・運用すること。そして、才能ある人材を早期に見出し、意図的な経験を積ませ、適切なタイミングで抜擢する仕組みを構築すること。これこそが、人的資本経営の時代における、戦略的な人事制度の重要な役割であると考えられます。
株式会社コトラでは、人的資本経営に関する深い知見と豊富な実績で、貴社のサクセッションプランと連動した人事制度の構築をサポートします。より具体的なご相談は、お気軽にお問い合わせください。




