その人事制度、社員のエンゲージメントを低下させていませんか?
「組織サーベイを実施するたびに、決まって人事評価への不満が上位に挙がってくる」
「どれだけ福利厚生を整えても、優秀な中堅社員の離職が止まらない」
「社員のモチベーションが全体的に低く、受け身の姿勢になっている」
企業がこうした組織の活力に関する課題に直面している場合、その根本原因は人事制度にあるのかもしれません。
社員のエンゲージメントは、企業の生産性やイノベーション創出に直結する重要な経営指標です。しかし、どれだけ魅力的な福利厚生やオフィス環境を整えても、日々の業務やキャリアに直結する人事制度そのものに納得感がなければ、社員のエンゲージメントを高めることは困難であると考えられます。
本コラムでは、社員の意欲を引き出し、エンゲージメント向上に繋げるための人事制度とはどのようなものか、その本質的な要素と、設計・運用の具体的なポイントについて考察します。
エンゲージメントを高める人事制度の3つの鍵
社員がこの会社で働き続けたい、もっと貢献したいと感じる人事制度には、共通する3つの重要な要素があると考えられます。それは公平性、透明性、そして納得感です。
鍵1:公平性(Fairness)
人事制度における公平性とは、評価や処遇のプロセスや基準が、属性(年齢、性別、学歴など)や上司との人間関係に左右されず、客観的かつ公正であることです。
- プロセスの公平性
評価基準が事前に明示され、その基準に基づいた評価が行われているか。 - 結果の公平性
同じ成果を出した人が、同等に評価・処遇されているか。
あの人ばかり優遇されている、頑張ってもどうせ評価されないといった不公平感が蔓延すると、社員の士気は著しく低下します。特に人事制度の運用において、評価者の主観やバイアスが入り込む余地をいかに減らすかが、公平性を担保する上で重要となります。
鍵2:透明性(Transparency)
人事制度における透明性とは、評価基準や昇進・昇格の要件、報酬の決定プロセスが、社員に対して明確に開示されていることです。
ブラックボックス化した人事制度は、社員の不信感を招きます。何をどれだけ達成すれば評価されるのか、どうすれば昇進できるのかが分からない状態では、社員は努力の方向性を見失い、モチベーションを維持することが難しくなります。
人事制度に関する情報を可能な限りオープンにすることで、社員は自らのキャリアパスを描きやすくなり、目標達成に向けた行動も促されると考えられます。
鍵3:納得感(Acceptance)
納得感は、上記2つの要素(公平性・透明性)が担保された上で、最終的に下された評価や処遇に対して、社員自身が妥当であると感じられることです。
この納得感を醸成するために不可欠なのが、評価者(上司)と被評価者(部下)との対話、すなわちフィードバックです。
- 期待役割のすり合わせ
期初に、目標や期待する役割について十分な対話が行われているか。 - プロセスの中での対話
期中にも、進捗確認や軌道修正のための1on1ミーティングなどが設定されているか。 - 結果のフィードバック
期末に、評価結果(良かった点・改善点)が具体的な根拠と共に、建設的に伝えられているか。
このように、人事制度の「仕組み」を精緻に設計するだけでなく、それを運用する管理職の「対話力」もまた、社員の納得感を左右する最も重要な鍵の一つとなると考えられます。
エンゲージメント向上に繋げる人事制度の運用
では、公平性・透明性・納得感を備えた人事制度をいかに構築し、運用していけばよいでしょうか。ここでは、3つの実践的なステップを提案します。
ステップ1:組織サーベイによる不満要因の特定
まずは、現状の人事制度が社員のエンゲージメントにどのような影響を与えているかを客観的に把握することから始めます。
組織サーベイ(エンゲージメントサーベイ)を活用し、評価の公平性、報酬の満足度、上司のマネジメント、キャリアの展望などに関する社員の率直な声を収集します。
この際、単に全体のスコアを見るだけでなく、部署別、階層別、勤続年数別などでクロス集計を行い、どの層が、人事制度の何に最も不満を感じているのかを特定することが重要です。このデータが、人事制度を見直す際の明確な論拠となります。
ステップ2:評価基準の明確化と評価者トレーニングの徹底
サーベイで特定された課題に基づき、人事制度(特に評価制度)の見直しに着手します。
- 評価基準のシンプル化・明確化
曖昧な表現(例:積極的に貢献した)を避け、具体的な行動や成果に基づいた評価基準(例:月1回の定例会で、業務改善案を1件以上提案した)に落とし込みます。 - 評価プロセスの公開
評価のフロー、評価者の決定方法、評価会議の有無などを社員に明示します。
そして、新しい人事制度の導入において最も重要なのが評価者トレーニングです。 どれだけ優れた人事制度を作っても、運用する管理職(評価者)がその意図を理解していなければ機能しません。
- 評価基準の目線合わせ(キャリブレーション)
- アンコンシャスバイアス(無意識の偏見)の研修
- 部下の納得感を高めるフィードバック面談(1on1)のスキル研修
これらを徹底し、評価のブレを最小限に抑える努力が求められます。
ステップ3:キャリア自律を支援する仕組みとの連動
エンゲージメントは、単に評価・報酬だけで決まるものではありません。社員がこの会社で成長できる、自分のキャリアを築けると感じられることも同様に重要です。
人事制度を、社員のキャリア自律を支援する仕組みと連動させることが推奨されます。
- 多様なキャリアパスの提示
管理職コースだけでなく、専門性を高める専門職コースなど、多様なキャリアの選択肢を用意します。 - 社内公募制度やFA制度
社員が自ら手を挙げて、希望する部署やプロジェクトに挑戦できる機会を提供します。 - 定期的な1on1とキャリア面談の連動
定期的な1on1ミーティングの中で、短期的な業務目標だけでなく、中長期的なキャリアについても対話する文化を醸成します。
人事制度が社員一人ひとりの成長とキャリアに寄り添うものであると認識されたとき、エンゲージメントは自ずと向上していくと考えられます。
納得感ある人事制度が、人と組織を強くする
本コラムでは、社員のエンゲージメント向上という視点から、人事制度のあり方について考察しました。
公平性、透明性、納得感を欠いた人事制度は、社員の意欲を削ぎ、組織の活力を奪う要因となり得ます。逆に、これら3つの要素を満たした人事制度は、社員のエンゲージメントを高め、自律的な行動を促し、ひいては企業全体の生産性と競争力を高める強力なドライバーとなると考えられます。
貴社の人事制度は、社員のエンゲージメント向上に貢献できているでしょうか。今一度、社員の声に耳を傾け、その仕組みと運用を見直すことが、持続的な成長への第一歩となるかもしれません。
株式会社コトラでは、人的資本経営に関する深い知見と、エンゲージメント測定に関する豊富な実績で、貴社の人事制度に関する課題解決をサポートします。より具体的なご相談は、お気軽にお問い合わせください。




