研修でOJTの成果を最大化:中小企業の未来を創る人材投資

「ウチはOJTが基本だから」その言葉に潜む、成長の阻害要因

「研修に割く時間もお金もない。社員は現場の仕事を通じて育てるのが一番だ」

多くの熱意ある中小企業の経営者の皆様が、そうお考えではないでしょうか。確かに、実務に直結し、コストを抑えながら人材を育成できるOJT(On-the-Job Training)は、多忙な中小企業にとって合理的で、かつ重要な育成手法であることは間違いありません。

しかし、その一方で、このようなお悩みはありませんか?

  • 「一部のベテラン社員に仕事が集中し、業務が属人化してしまっている」
  • 「若手がなかなか育たず、独り立ちするまでに時間がかかりすぎる」
  • 「社員から新しいアイデアや改善提案が出てこない」
  • 「将来、自分の右腕として会社を任せられる幹部が育っていない」

もし、これらのいずれかに思い当たるとすれば、それは「OJTが基本」という育成方針そのものに、企業の持続的な成長を阻害する構造的な課題が潜んでいるサインかもしれません。本コラムでは、OJT頼りの人材育成がもたらす限界を明らかにし、企業の未来を創るために、なぜ「研修」という投資が必要なのか、その本質的な意味を探ります。

なぜ「OJTだけ」では不十分なのか?見過ごされがちな4つの限界

OJTのメリットを最大限に活かすためにも、まずはその限界点を冷静に認識しておく必要があります。OJTだけに依存した人材育成は、意図せずして組織の成長能力に上限を設けてしまう可能性があるのです。

限界1:知識が体系化されず、業務が「属人化」する

「この業務は、Aさんしか分からない」 貴社に、そのような仕事は存在しないでしょうか。

OJTは、目の前の業務をこなすための「やり方」は教えられても、「なぜ、そのやり方なのか」という背景や原理原則までを体系的に教えることは困難です。結果として、担当者だけがブラックボックス化したノウハウを持つ「属人化」を招きます。

その担当者が休んだり、退職したりすれば、業務は即座に停滞します。また、応用が利かないため、若手はマニュアルにない事態や予期せぬトラブルに対応できず、いつまでも指示を待つだけになってしまいがちです。

限界2:指導者の能力が、部下の成長の「上限」になる

仕事ができる社員が、必ずしも教えるのが上手いとは限りません。

OJTの成果は、トレーナー役である上司や先輩社員の指導力、そして彼らの持つ知識や経験の範囲に100%依存してしまいます。もし指導者が多忙で場当たり的な指示しか出せなかったり、自身の成功体験に固執して新しいやり方を受け入れなかったりすれば、部下の成長はその指導者のレベルで「上限」に達してしまいます。丁寧なOJTのつもりが、実態は「放置」や「丸投げ」になってしまっているケースも少なくありません。

限界3:視野が狭まり、組織が「内向き」になる

「うちでは昔からこのやり方でやってきたから」 この言葉が、社内の常識になっていないでしょうか。

OJTで得られる知識や視点は、当然ながら社内の常識や既存のやり方の範囲内に留まります。外部の新しい技術動向や他社の成功事例、異業種のマーケティング手法などに触れる機会がなければ、組織の視野はどんどん狭まり、「内向き」になっていきます。イノベーションは「既存の知と新しい知の組み合わせ」から生まれるものであり、社内だけの知識ではその源泉が枯渇してしまうのです。

限界4:成長が「成り行き任せ」になり、スピードが遅い

計画的な育成プランがない場合、社員の成長は「たまたま経験した業務」や「たまたま付いた上司」といった偶然の要素に大きく左右される「成り行き任せ」の状態になります。

もちろん、試行錯誤や失敗から学ぶことも重要ですが、それには多大な時間がかかります。同じ失敗を別の部署の若手が繰り返している、といった非効率も発生しがちです。競合他社が計画的な育成によってスピーディーに人材を育てている間に、自社は貴重な時間という経営資源を失っている(機会損失)可能性があることに、目を向けなければなりません。

研修(Off-JT)はOJTの成果を最大化する戦略的補完機能

ここで私たちコトラが提唱したいのは、研修(Off-JT:Off-the-Job Training)を、OJTと対立するものとして捉えるのではなく、OJTの成果を最大化するための戦略的補完機能として位置づけることです。

両者の役割は明確に異なります。

  • OJTは、日々の業務を通じた実践的なスキル(How)の習熟に優れています。
  • 研修(Off-JT)は、業務から離れた環境で、普遍的な原理原則や思考の枠組みといった体系知(What/Why)を獲得することに優れています。

この体系知があって初めて、社員はOJTで直面する個別の事象を一般化し、未知の課題に応用する能力を身につけることができます。つまり、研修で得た知識は、OJTにおける実践の質とスピードを向上させるための土台となるのです。

したがって、研修は目先の業務を止めるコストではなく、人材育成の効率と効果を飛躍的に高めるための「戦略的先行投資」であると、私たちは考えています。

小さく始める「戦略的研修」の第一歩

とはいえ、いきなり大掛かりな研修制度を導入するのは現実的ではありません。重要なのは、自社の未来にとって最も効果的なポイントに狙いを定め、小さく、しかし戦略的に研修投資を始めることです。

ステップ1:課題の共有と育成目標の設定

まずは社長と経営幹部が集まり、「3年後、会社をどのような状態にしたいか」「そのために、社員にはどのようなスキルや視点を身につけてほしいか」を徹底的に議論し、目指すべき姿を共有します。漠然とした「成長してほしい」ではなく、「新規顧客を開拓できる提案力を身につけてほしい」「若手を指導できるリーダーシップを発揮してほしい」といった具体的な育成目標に落とし込みます。

ステップ2:外部研修の戦略的活用

自社で研修を企画・運営するリソースがない場合、外部の公開講座やセミナーを戦略的に活用することから始めるのが有効です。全社員を対象にするのではなく、まずはステップ1で設定した育成目標に合致する、キーパーソンとなる社員を選抜して派遣します。その際、参加者には「研修で学んだことを、どう自社に持ち帰り、活かすか」というミッションを明確に与えることが重要です。

ステップ3:社内勉強会による「学びの横展開」

最も重要なのが、このステップです。外部研修に参加した社員に講師役を任せ、社内で勉強会や報告会を実施します。これにより、以下の効果が期待できます。

  • 知識の定着
    他者に教えることで、参加者本人の学びがより深く定着します。
  • コスト効率の良い知識移転
    一人が学んだことを、組織全体に低コストで共有できます。
  • 学習する文化の醸成
    社内に「学び合い、教え合う」という文化が生まれ、他の社員の学習意欲を刺激します。

研修は、企業の持続的成長を実現するための戦略的基盤

OJTによる実践的なスキル習熟と、研修による体系的な知識獲得を両輪で推進すること。

それにより、人材育成は「偶然」の産物から、未来の目的地へと着実に会社を導くための「意図的」な戦略へと進化します。研修への投資は、目先のコストを遥かに上回るリターンとなって、企業の持続的な成長を支える強固な基盤となるでしょう。

株式会社コトラでは、人的資本経営に関する深い知見と豊富な実績で、貴社の課題解決をサポートします。貴社の現状と未来像に合わせた人材育成計画の策定や、効果的な研修プログラムの選定・導入支援など、より具体的なご相談は、お気軽にお問い合わせください。

この記事を書いた人

kotora

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コトラ(人的資本チーム)

経営戦略に連動した「動的な人材ポートフォリオ」の構築から、「採用」「育成」といった人材マネジメントの実践まで、人的資本経営を一気通貫で支援しています。

コンサルタント紹介

杉江 幸一郎
ディレクター ISO30414リードコンサルタント

東京大学経済学部経営学科卒。大手メーカー、通信事業者、IT企業など上場事業会社にて経営企画、事業戦略、新規事業立ち上げ等の責任者を歴任。上場企業取締役、CISO および ISO事務局等も担当。

コトラでは、ISO30414を始めとした人的資本経営のコンサルティングに従事。ISO30414リードコンサルタント。ESG情報開示研究会、人的資本経営コンソーシアム、地方創生SDGs官民連携プラットフォーム会員。

X(旧Twitter):@Kotora_cnsl


蘇木 亮太
コンサルタント ISO30414リードコンサルタント

同志社大学法学部卒。大手教育系企業でのコンサルタント経験を経て、金融系スタートアップに入社。 組織・人事企画チームに所属し、エンゲージメント向上施策やDE&I推進、研修開発、人事制度運用等を担当。

コトラでは、有価証券報告書・統合報告書における人的資本開示、ISO30414、人事組織コンサル等に従事。ISO30414リードコンサルタント資格/日本ディープラーニング協会G検定保有者。


大西 裕也
コンサルタント ISO30414リードコンサルタント

神戸大学大学院経済学研究科卒。教育経済学を専攻。

コトラでは、ISO30414認証取得支援及び人的資本開示動向のリサーチ、人事データ分析・レポート作成等に従事。

DX推進パスポート(G検定、データサイエンティスト検定、ITパスポート)、一種外務員資格取得者。


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