「面接官」が握る候補者体験の成否
「書類選考や一次面接の反応は良かったのに、最終面接を終えた候補者から辞退の連絡が来た」
「採用サイトや広報活動で良いイメージを伝えているはずが、面接で候補者の志望度が下がってしまう」
このような事態に頭を悩ませる経営者や人事担当者の方は少なくありません。その原因は、採用プロセスの中でも最も候補者の記憶に残り、意思決定に影響を与える「面接官との対話」、すなわち面接における候補者体験にある可能性が極めて高いと考えられます。
どんなに採用プロセスを効率化し、魅力的な情報を発信しても、たった一人の面接官との一時間の対話が、それまでの努力を無に帰してしまうことがあるのです。本コラムでは、候補者体験の成否を握る「面接官」の重要性に焦点を当て、企業の採用力を本質的に高めるための視点を解説します。
面接官は「生きた企業広告」である
候補者は、面接の場において、面接官の一挙手一投足から企業のリアルな姿を読み取ろうとしています。面接官が語る言葉の内容はもちろん、その表情、話すトーン、質問の仕方、話の聞き方まで、すべてが評価の対象となります。候補者にとって、目の前にいる面接官は、単なる「評価者」ではありません。
- 未来の上司や同僚の姿
- その企業の組織文化や価値観の体現者
- 入社後の働きがいや成長環境を映す鏡
として認識されています。採用サイトに「風通しの良い、フラットな組織」と書かれていても、面接官が高圧的であれば、候補者は「書かれていることと現実は違う」と判断するでしょう。面接官はまさに「生きた企業広告」であり、その振る舞いが企業のブランドイメージを良くも悪くも左右する、決定的な影響力を持っているのです。
面接官は「評価者」である前に「動機形成者」
従来の面接は、企業が候補者を見極める「評価」の場という側面が強いものでした。しかし、人材獲得競争が激化する現代において、その役割は大きく変化しています。
私たちコトラは、面接官の最も重要な役割は、候補者の能力や経験を正しく評価すること以上に、対話を通じて候補者の志望動機を高め、入社への期待感を育む「動機形成者(モチベーター)」であるべきだと考えています。候補者が「この人の下で働きたい」「この会社で成長したい」と強く感じるような魅力的な対話の場を創出できるか。これこそが、面接官に求められる核心的なスキルです。
そのために重要なのが、面接を構造的に捉え、準備することです。評価基準を明確にし、事前に質問を設計することで、面接官は評価の負担から解放され、候補者との対話や動機形成に集中できます。その理想的な形が「構造化面接」ですが、そこまで至らなくとも、面接官が場当たり的な質問をするのではなく、準備された質の高い対話を提供するという意識を持つことが、質の高い候補者体験の第一歩となります。
候補者の心を掴む「選ばれる面接官」の3つの要件
質の高い対話の場を創出するために、面接官はどのようなスキルや姿勢を意識すべきでしょうか。ここでは3つの要件を解説します。
候補者の本質を引き出す「傾聴力」と「質問力」
優れた面接は、準備から生まれます。事前に評価したい能力や価値観を定め、それに基づいた質問を用意しておくことで、対話の質は飛躍的に向上します。
- 準備:中心的な問いを用意する
- 「このポジションで活躍する人材に、最も重要な能力は何か?」
- 「その能力を見極めるために、過去のどのような経験について聞くべきか?」
- 上記を基に、候補者の行動事実を深掘りする質問(例:「過去に最も困難だったプロジェクトについて、どのように乗り越えたか具体的に教えてください」)を準備します。
- 実践:傾聴と深掘りを徹底する
- 相槌と要約
候補者の話に頷き、「つまり、〇〇というご経験をされたのですね」と内容を要約して返すことで、深く理解しようとする姿勢を示します。 - 「なぜ?」を問う
候補者の行動の裏にある思考や価値観を理解するため、「なぜそのように行動したのですか?」という問いを重ね、本質に迫ります。
- 相槌と要約
候補者の不安を払拭する「透明性」と「誠実性」
候補者は選考プロセスにおいて、常に不安を抱えています。その不安を丁寧に取り除くことが、信頼関係の構築に繋がります。
- プロセスの透明化を徹底する
- 冒頭での説明
面接の開始時に「本日は〇分間で、△△といった点についてお話を伺えればと思います」と、目的と流れを明確に伝えます。 - 一貫した基準の提示
「同じポジションの候補者の皆様には、共通して〇〇という点についてお伺いしています」と伝え、評価の公平性を示します。
- 冒頭での説明
- 誠実な情報提供を心がける
- ポジティブとネガティブの両面開示
候補者からの質問には、仕事の魅力ややりがいだけでなく、「現在、組織として△△という課題に取り組んでいます」といったリアルな情報も誠実に伝えます。 - 次のステップの明示
面接の最後に、今後の選考プロセスや結果連絡の時期について具体的に伝えることで、候補者は安心して次のアクションを待つことができます。
- ポジティブとネガティブの両面開示
企業の魅力を自分事として語る「伝道師」の役割
面接の時間を「評価」だけに使うのではなく、「魅力付け」の時間を意識的に確保することが、候補者の動機形成に大きな影響を与えます。
- 時間を意識的に配分する
- 面接全体の時間配分を考え、「前半30分は評価のための対話、後半15分は魅力付けと質疑応答」のように、計画的に進めます。
- 候補者に合わせた魅力付けを行う
- 点と点を繋ぐ
候補者の経験や価値観と、自社の事業や文化を結びつけ、「〇〇様のご経験は、当社の△△というビジョンの実現に、このように貢献できる可能性があります」と具体的に伝えます。 - 原体験を語る
採用サイトの言葉を借りるのではなく、「私自身がこの会社で成長できたと感じる瞬間は…」というように、面接官自身の言葉で情熱ややりがいを語ります。
- 点と点を繋ぐ
面接官への投資は、未来への最も確実な投資である
候補者体験の向上は、採用プロセスのシステム化や情報発信の強化だけでは成し遂げられません。最終的に候補者の心を動かすのは、人と人との真摯な対話、すなわち面接官が創り出す体験の質です。
面接官のトレーニングや育成は、単なるコストではなく、企業の未来を担う人材を惹きつけるための、最も効果的で確実な投資と言えます。自社の面接官が、企業の顔として、候補者の心を掴む「最高の企業広告」となっているか。今一度、見直してみてはいかがでしょうか。
株式会社コトラでは、人的資本経営に関する深い知見と豊富な実績で、貴社の課題解決をサポートします。評価基準の明確化から構造化面接の導入支援まで、面接官のスキル向上や候補者から選ばれる採用プロセス構築に関する具体的なご相談は、お気軽にお問い合わせください。




