5年後、10年後も成長し続ける企業に、共通して必要なものとは?
技術革新、市場のグローバル化、価値観の多様化…私たちは今、予測困難で変化の激しい時代を生きています。このような環境下で、企業が5年後、10年後も持続的に成長し続けるためには、一体何が必要なのでしょうか。盤石に見えた事業モデルが、ある日突然陳腐化する可能性も否定できません。
私たちコトラは、その答えは「組織自らが、環境の変化に応じて学び、進化し続ける能力」にあると考えています。そして、その進化の原動力となるのが、従業員一人ひとりの「ウェルビーイング」です。
本コラムでは、これからの時代に求められる未来志向の経営モデルとして、ウェルビーイング経営が持つ新たな可能性について論じます。個人の輝きを組織の力へと転換し、未来を創造するウェルビーイング経営の本質に迫ります。
「管理」から「解放」へ:従来の経営モデルの限界
20世紀の成功モデルであった、トップダウンで計画を遂行する「管理型」の経営は、安定した環境下では効率的に機能しました。しかし、変化が常態となった現代においては、そのモデルが逆に足かせとなる場面が増えています。
VUCA時代に求められる「学習する組織」
変化に迅速に対応し、新たな価値を創造し続けるためには、一部のリーダーだけが考えるのではなく、現場の従業員一人ひとりがアンテナを張り、自律的に考え、行動できる組織、すなわち「学習する組織」への変革が不可欠です。
「学習する組織」とは、以下のような特徴を持つ組織を指します。
- 従業員が常に新しい知識やスキルを学んでいる
- 失敗を恐れずに挑戦することが奨励される
- 部門の壁を越えて、オープンな対話が行われる
- 組織全体で経験から学び、自己変革を続ける
このような組織能力こそが、不確実な未来を乗り越えるための唯一無二の競争優位性となり得ます。
ウェルビーイングは「学習する組織」の土台
では、どうすれば「学習する組織」を創ることができるのでしょうか。その全ての活動の基盤、いわば土壌となるのが、従業員のウェルビーイングです。なぜなら、人間は心身が健康で、安心感を抱いている状態ではじめて、知的好奇心や挑戦意欲、他者への貢献意欲を発揮できるからです。
- 心理的安全性の確保
ウェルビーイングが保たれた職場では、従業員は「こんなことを言ったら馬鹿にされるかもしれない」といった不安を感じることなく、自由に意見を述べ、健全なコンフリクト(意見の対立)を起こすことができます。これが、組織の学習とイノベーションの出発点です。 - キャリア自律の支援
ウェルビーイング経営の一環として、企業が従業員一人ひとりのキャリア自律を支援することは、個人の学習意欲を刺激します。スキルベースの人事制度などを通じて、自らの成長が組織の成長に繋がることを実感できれば、従業員は主体的に学び始めます。
つまり、ウェルビーイング経営とは、従業員を甘やかすことではなく、彼らの持つ潜在能力を最大限に「解放」し、組織の進化へと繋げるための、極めて戦略的なアプローチなのです。
未来を創造する組織への変革ステップ
従業員のウェルビーイングを基盤とした「学習する組織」へと変革していくために、経営者や人事が取り組むべき具体的なアクションとは何でしょうか。ここでは、そのステップをより詳細に解説します。
Step1:リーダーの行動変容から始める、心理的安全性の醸成
心理的安全性の高い文化は、何よりもリーダー層の意識と行動が変わることから始まります。全社へのメッセージ発信はもちろん、日々の行動レベルでの変革が求められます。具体的なアクション例としては、次のようなものが挙げられます。
- 失敗談の自己開示
リーダーがミーティングの場で、自らの失敗談や「分からないこと」をオープンに話すことで、「完璧でなくても良い」というメッセージを伝えます。 - 「なぜ?」ではなく「どうすれば?」という問いかけ
問題が起きた際に犯人探しをするのではなく、「どうすれば次はうまくいくか?」という未来志向の問いかけを徹底します。 - アクションラーニングの導入
リーダー層が実際の経営課題について議論し、実践する研修を通じて、傾聴力やファシリテーション能力、そして心理的安全性を自ら作り出すスキルを体得します。
Step2:「キャリアオーナーシップ」を育む、自律支援の仕組み
従業員が会社にキャリアを委ねるのではなく、自らが「キャリアのオーナー」であるという意識(キャリアオーナーシップ)を育むことが、自律的な学習を促進します。以下はその具体的な取り組み例です。
- キャリアデザイン研修の体系化
年次や役職に応じて、自己の価値観や強みを分析し、キャリアプランを策定する研修を定期的に実施します。 - 社内FA(フリーエージェント)制度の導入
従業員が自らの意思で、希望する部署やプロジェクトに応募できる制度を設け、キャリアの選択肢を広げます。 - 副業・兼業の戦略的許可
社外での経験を通じて新たなスキルや視点を獲得することを奨励し、それを本業に還元する仕組みを整えます。
Step3:「賢い失敗」を奨励する、権限移譲と評価制度
イノベーションは、数多くの挑戦と「賢い失敗(Intelligent Failure)」の中から生まれます。従業員が萎縮せずに挑戦できるよう、権限移譲とそれを支える評価制度が不可欠です。
- デリゲーション・ポーカーの活用
上司と部下が、業務の権限レベル(「全て任せる」「相談して実行」など)をゲーム感覚で合意形成し、期待値のズレを防ぎます。 - 「10%ルール」の導入
業務時間の一部(例:10%)を、既存業務の枠にとらわれない、新しいアイデアの創出や実験に使うことを許可します。 - 挑戦を評価する人事制度
成果(結果)だけでなく、目標達成に向けた挑戦的なプロセスや、失敗から学んだ経験を評価する項目を人事評価制度に組み込みます。
これにより、「挑戦しないことがリスクである」という文化を醸成します。
従業員の潜在能力を、組織の持続的な競争力へ
これからの時代のウェルビーイング経営は、従業員の心身の健康を維持するというリスク管理の側面だけにとどまりません。それは、従業員一人ひとりが持つ潜在能力を最大限に引き出し、組織全体の革新性と適応能力を高めることで、未来の事業環境を主体的に創造していくための、極めて戦略的な経営手法です。
従業員が自らの業務に高い意欲で取り組み、専門能力の向上とキャリアの成長を実感できる環境。そのような環境では、個々のパフォーマンスの向上が組織全体の生産性向上に直結します。ウェルビーイング経営とは、このような従業員の成長と企業の成長が相互に促進し合う好循環を、意図的に設計・構築するための経営の考え方そのものであると言えるでしょう。
株式会社コトラでは、人的資本経営に関する深い知見と豊富な実績で、貴社の課題解決をサポートします。心理的安全性の高い組織文化の醸成や、キャリア自律を支援する仕組みの構築など、より具体的なご相談は、お気軽にお問い合わせください。