VUCA時代の羅針盤:事業を牽引する管理職の新しいリーダーシップ開発

変化の激しい時代、貴社の管理職は対応できていますか?

市場環境は目まぐるしく変化し、従業員の価値観は多様化、そしてリモートワークの浸透など働き方も大きく変わりました。このような「VUCA(変動性・不確実性・複雑性・曖昧性)」と呼ばれる時代において、多くの管理職が「これまでのやり方が通用しない」という壁に直面しているのではないでしょうか。

かつて管理職に求められたのは、トップダウンで指示を出し、部下の進捗を管理する「監督者」としての役割でした。しかし、変化の激しい現代においては、メンバー一人ひとりの自律性を引き出し、チームの創造性を最大化する「羅針盤」や「支援者」としての役割が強く求められるようになっています。

この変化に対応できない管理職は、やがてチームのパフォーマンスを低下させ、優秀な人材の離職を招くリスクすらあります。本コラムでは、これからの時代に事業を牽引するリーダーを育成するために、管理職研修で何を教え、どのように学ぶべきか、その新しい設計思想について考察します。

VUCA時代に求められる管理職の3つの役割シフト

従来の管理職研修では、労務管理や評価制度の知識、問題解決スキルといった、いわば「管理」のためのスキルが中心でした。もちろんそれらも依然として重要ですが、VUCA時代を乗り切るためには、以下に挙げるような役割への意識的なシフトが不可欠であると考えられます。

ティーチングからコーチングへ:部下のキャリア自律を支援する

終身雇用が前提でなくなった今、従業員は会社に依存するのではなく、自らのキャリアを主体的に築いていくことを望む傾向があります。

このような状況下で管理職に求められるのは、一方的に正解を教える「ティーチング」ではなく、対話を通じて相手の中から答えや気づきを引き出す「コーチング」です。部下の中長期的なキャリアビジョンや成長を支援するための対話を行う力が問われます。

多様性を強みに変える:心理的安全性の醸成とチームの創造性

多様なバックグラウンドを持つ人材が集まるチームは、イノベーションの源泉となり得ます。しかし、その多様性を活かすも殺すも管理職の力量にかかっています。管理職には異なる意見の衝突を恐れず、むしろそれを歓迎し、チームの創造的な化学反応を促す役割が求められるでしょう。

そのためには、誰もが「こんなことを言ったら否定されるかもしれない」という不安なく、安心して発言・挑戦できる「心理的安全性」の高いチームづくりが不可欠です。

不確実な時代だからこそ重要な「パーパス」の浸透

先行き不透明な時代だからこそ、組織が「何のために存在するのか(パーパス)」を明確に示し、メンバーを同じ方向に導くことが重要になります。

管理職は、経営と現場をつなぐ結節点として、企業のパーパスやビジョンを、メンバーが「自分ゴト」として捉えられる言葉で語り、日々の業務と結びつける役割を担います。会社の決定事項をただ伝えるだけでなく、その背景にある想いや目指す未来を情熱をもって語ることが求められます。

新しいリーダーシップを育む、明日からできる実践的アプローチ

これらの役割シフトの重要性は理解できても、それを現場でどう実践すればよいのか、戸惑う方も多いかもしれません。ここでは、管理職が明日から自身のチームで試せる、具体的で実践的なアクションを紹介します。管理職研修では、こうした具体的な行動レベルまで落とし込んで学ぶことが効果的です。

部下の成長を支援するための実践

  • 「未来の話」をする1on1
    週次や月次の1on1ミーティングのうち、最後の10分間を「キャリア対話タイム」と設定します。「この仕事を通じてどんなスキルを身につけたい?」「将来的にはどんな役割に挑戦してみたい?」といった問いかけで、部下の視座を未来に向けさせ、成長意欲を引き出します。
  • 強みを伝えるポジティブフィードバック
    改善点だけでなく、部下の強みや貢献を具体的に言葉にして伝えます。
    「〇〇さんの今日の会議での発言、顧客の視点を捉えていて素晴らしかった。あの視点はチームに新しい気づきを与えてくれたよ」のように、行動と結果、そしてチームへの影響をセットで伝えることがポイントです。

チームの創造性を引き出すための実践

  • 「問い」で始める会議
    会議の冒頭で、管理職が答えを提示するのではなく、「この課題を解決するために、私たちはどんな選択肢を考えられるだろう?」と問いを投げかけます。これにより、メンバーの当事者意識を高め、多様な意見を引き出す土壌をつくります。
  • 小さな失敗を歓迎する文化づくり
    チームミーティングで、管理職自身が最近の小さな失敗談とそこからの学びを共有します。「先日、お客様への提案でこういうミスをしてしまったんだけど、そこから〇〇ということを学んだんだ」とオープンに語ることで、チーム内に「失敗しても大丈夫」という心理的安全性が育まれます。

組織のビジョンを浸透させるための実践

  • 経営方針を「翻訳」して語る
    全社的な方針が発表された際、それをそのまま横流しするのではなく、「この方針は、私たちのチームの〇〇という業務に、こういう意味で繋がっているんだ」と、チームの文脈に合わせて翻訳し、自分自身の言葉でその意義を語ります。
  • 感謝と称賛の見える化
    チームメンバーの素晴らしい行動や成果を、朝礼やチームのチャットツールなどで積極的に共有し、称賛します。これにより、チームが大切にすべき価値観や行動指針が、日々のコミュニケーションを通じて自然と浸透していきます。

管理職研修は、未来の組織文化を創造する投資である

VUCAの荒波を乗り越え、持続的に成長していく企業であるためには、変化に適応し、チームを導くことができる管理職の存在が不可欠です。もはや、管理職研修は単なるスキルアップの機会ではありません。それは、企業の未来を創るリーダーを育成し、変化に強い組織文化を醸成するための、極めて重要な戦略的投資と言えるでしょう。

部下との関わり方、チームの運営、そして組織と現場の接続という、現代の管理職に求められる重要な役割を深く理解し、実践できるリーダーを育てること。それが、不確実な時代における企業の競争優位性を確立する、確かな一歩となるはずです。

株式会社コトラでは、組織サーベイによる現状分析から、貴社の目指す組織文化に合致した管理職研修のプログラム設計まで、一貫してご支援します。より具体的なご相談は、お気軽にお問い合わせください。

この記事を書いた人

kotora

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コトラ(人的資本チーム)

経営戦略に連動した「動的な人材ポートフォリオ」の構築から、「採用」「育成」といった人材マネジメントの実践まで、人的資本経営を一気通貫で支援しています。

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杉江 幸一郎
ディレクター ISO30414リードコンサルタント

東京大学経済学部経営学科卒。大手メーカー、通信事業者、IT企業など上場事業会社にて経営企画、事業戦略、新規事業立ち上げ等の責任者を歴任。上場企業取締役、CISO および ISO事務局等も担当。

コトラでは、ISO30414を始めとした人的資本経営のコンサルティングに従事。ISO30414リードコンサルタント。ESG情報開示研究会、人的資本経営コンソーシアム、地方創生SDGs官民連携プラットフォーム会員。

X(旧Twitter):@Kotora_cnsl


蘇木 亮太
コンサルタント ISO30414リードコンサルタント

同志社大学法学部卒。大手教育系企業でのコンサルタント経験を経て、金融系スタートアップに入社。 組織・人事企画チームに所属し、エンゲージメント向上施策やDE&I推進、研修開発、人事制度運用等を担当。

コトラでは、有価証券報告書・統合報告書における人的資本開示、ISO30414、人事組織コンサル等に従事。ISO30414リードコンサルタント資格/日本ディープラーニング協会G検定保有者。


大西裕也
リサーチャー兼コンサルタント

コトラでは、ISO30414認証取得支援及び人的資本開示動向のリサーチ、人事データ分析・レポート作成等に従事。

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