「勘と経験の採用」の限界 データで導く採用アナリティクス入門

その採用、いつまで「面接官の勘」に頼りますか?

「面接では素晴らしいと思ったのに、入社後に期待したパフォーマンスを発揮してくれない」
「どの面接官が担当するかで、評価が大きく変わってしまう」
「採用コストをかけているのに、早期離職が後を絶たない」

これらは、企業の採用活動において、実に多くの人事担当者様が抱える切実な悩みです。候補者の将来性や自社との相性を見抜くために、面接官は自らの経験と勘を総動員して評価を下します。このアプローチは長年、採用のスタンダードとされてきましたが、事業環境が複雑化し、求める人材像が多様化する現代において、その限界が露呈し始めているのではないでしょうか。

主観的な評価に依存する採用は、評価のばらつきや採用後のミスマッチを生む温床となり得ます。この根深い課題に、客観的な視点からメスを入れるアプローチが「採用アナリティクス」、すなわちピープルアナリティクスの採用領域における活用です。

なぜ、採用にピープルアナリティクスが必要なのか

採用アナリティクスとは、採用活動に関する様々なデータを収集・分析し、採用の意思決定精度を高め、成果を最大化するための取り組みです。その本質は、単に候補者を効率的に選別することにあるのではありません。「自社において、持続的に高いパフォーマンスを発揮する人材に共通する特性は何か」をデータに基づいて定義し、その特性を持つ人材を見抜くための客観的な仕組みを構築することにあります。

多くの企業では、候補者の学歴や職務経歴といった情報はデータとして蓄積されています。しかし、それが入社後のパフォーマンスや定着率といったデータと結びつけて分析されることは稀です。

私たちコトラが重要だと考えるのは、採用の入り口から入社後の活躍までを一気通貫で捉え、成功と失敗の要因をデータで明らかにすることです。例えば、「どのような経路で応募してきた人材が、入社後最も高い評価を得ているのか」「面接時のどの質問に対する回答が、その後の定着率と相関しているのか」といった分析が、採用戦略を大きく進化させる可能性があります。

特に、勘や主観が入り込みやすい面接プロセスに、データに基づいた客観的な基準を導入すること(構造化面接など)は、ピープルアナリティクスの観点から極めて重要です。これにより、面接官による評価のブレを抑制し、候補者の能力やスキルを公平かつ的確に評価することが可能になると考えられます。

データに基づいた採用へ:最初の一歩

では、具体的に何から始めればよいのでしょうか。ここでは、採用アナリティクスを実践するための3つのステップをご紹介します。

ステップ1:活躍人材(ハイパフォーマー)の特性を分析する

まず取り組むべきは、現在自社で活躍している社員のデータを分析し、その共通項を見つけ出すことです。

  • 収集データ
    人事評価、保有スキル、過去の職務経歴、入社時の適性検査の結果など。
  • 分析の視点
    高い評価を得ている社員に共通するスキルや経験は何か?
    どのような価値観や行動特性を持っているか?

この分析によって得られる「活躍人材のペルソナ」は、採用要件を定義し、選考基準を策定する上での客観的な指針となります。

ステップ2:採用プロセスをデータ化し、有効性を検証する

次に、現在の採用プロセスが本当に活躍人材を見抜く上で機能しているかを検証します。

  • 収集データ
    書類選考の通過率、面接の評価項目ごとのスコア、適性検査の結果、最終的な内定承諾率など。
  • 分析の視点
    入社後に高いパフォーマンスを発揮した社員は、選考プロセスのどの段階で、どのように評価されていたか?
    逆に、早期離職した社員の選考評価に共通のパターンはないか?

これにより、「面接でのこの質問は、入社後の活躍度を予測するのに有効だ」あるいは「この適性検査の結果は、あまり参考にならない」といった、採用プロセス改善のための具体的な示唆が得られます。

ステップ3:採用チャネルの費用対効果を分析する

どのチャネル(人材紹介、求人広告、リファラルなど)からの採用が最も効果的かを定量的に評価します。

  • 収集データ
    各チャネル経由の応募者数、採用決定数、採用コスト、そして入社後のパフォーマンス評価や定着率。
  • 分析の視点
    単に採用単価が安いだけでなく、「入社後に活躍し、長く定着してくれる人材」を最も効率的に獲得できているチャネルはどれか?

この分析は、限られた採用予算を最も効果的なチャネルに再配分するための、強力な根拠となります。

属人的な採用を卒業し、データで組織の成長を設計する

採用アナリティクスは、単なる採用コストの削減や業務効率化のための手法ではありません。データに基づき、自社の成長に真に貢献する人材を客観的な基準で採用し、入社後の活躍と定着を促進する、極めて戦略的な取り組みです。

勘と経験に、データの客観性を掛け合わせることで、採用の意思決定は飛躍的に精度を高めます。これは、ミスマッチによる損失を防ぐと同時に、企業の競争力の源泉である「人材」の質を継続的に高めていく未来への投資と言えるでしょう。

株式会社コトラでは、人的資本経営に関する深い知見と豊富な実績で、貴社の課題解決をサポートします。構造化面接の導入など、データに基づいた採用プロセスの高度化に関するご相談は、お気軽にお問い合わせください。

この記事を書いた人

kotora

kotora

コトラ(人的資本チーム)

経営戦略に連動した「動的な人材ポートフォリオ」の構築から、「採用」「育成」といった人材マネジメントの実践まで、人的資本経営を一気通貫で支援しています。

コンサルタント紹介

杉江 幸一郎
ディレクター ISO30414リードコンサルタント

東京大学経済学部経営学科卒。大手メーカー、通信事業者、IT企業など上場事業会社にて経営企画、事業戦略、新規事業立ち上げ等の責任者を歴任。上場企業取締役、CISO および ISO事務局等も担当。

コトラでは、ISO30414を始めとした人的資本経営のコンサルティングに従事。ISO30414リードコンサルタント。ESG情報開示研究会、人的資本経営コンソーシアム、地方創生SDGs官民連携プラットフォーム会員。

X(旧Twitter):@Kotora_cnsl


蘇木 亮太
コンサルタント ISO30414リードコンサルタント

同志社大学法学部卒。大手教育系企業でのコンサルタント経験を経て、金融系スタートアップに入社。 組織・人事企画チームに所属し、エンゲージメント向上施策やDE&I推進、研修開発、人事制度運用等を担当。

コトラでは、有価証券報告書・統合報告書における人的資本開示、ISO30414、人事組織コンサル等に従事。ISO30414リードコンサルタント資格/日本ディープラーニング協会G検定保有者。


大西裕也
リサーチャー兼コンサルタント

コトラでは、ISO30414認証取得支援及び人的資本開示動向のリサーチ、人事データ分析・レポート作成等に従事。

DX推進パスポート(G検定、データサイエンティスト検定、ITパスポート)、一種外務員資格取得者。


サービスについての疑問や質問、
その他お気軽にお問い合わせください!