教育体系とサクセッションプランの連動:次世代リーダー育成の戦略的アプローチ

5年後、10年後、自社の経営を誰に託しますか?

これは、すべての経営者が向き合わなければならない、根源的な問いです。事業の継続性を考えたとき、次世代を担う経営人材、すなわち「次世代リーダー」の計画的な育成は、最重要の経営課題と言っても過言ではありません。

多くの企業で、管理職研修などの「教育体系」は存在するものの、「そこから本当に経営を担える人材が育っているか」と問われると、自信を持って「はい」と答えられるケースは少ないのが実情ではないでしょうか。その原因は、一般的な教育体系と、経営幹部の後継者育成計画である「サクセッションプラン」が、分断されてしまっていることにあります。

本コラムでは、この分断を乗り越え、次世代リーダーを計画的かつ戦略的に輩出し続けるための、「サクセッションプランと連動した教育体系」の設計・運用アプローチについて解説します。

なぜリーダーは計画的に育たないのか?:育成の分断

一般的な教育体系は、全従業員を対象とした公平性を重視するあまり、内容が画一的になりがちです。「部長になったら、この研修」「課長になったら、この研修」といった階層別の研修は、その役職に求められる基礎的なスキルを身につける上では有効と考えられます。

しかし、将来の経営を担うリーダーには、それだけでは不十分です。より高い視座、複雑な意思決定能力、事業をゼロから創造する力など、特別な育成機会を通じてしか養われない能力が求められます。全従業員向けの育成プログラムと、選抜された候補者向けの育成プログラムは、明確に区別して設計されるべきなのです。

ここで重要になるのが、「リーダーシップ・パイプライン」という考え方です。これは、将来のリーダー候補人材を早期に特定(選抜)し、様々な経験を通じて段階的に育成し、上位のポジションへと引き上げていく一連の仕組みを指します。

貴社の教育体系には、このリーダーシップ・パイプラインが明確に描かれているでしょうか。単なる階層別の研修が並んでいるだけでなく、「課長層の中から、将来の部長候補をどのように見出し」「その候補者に、どのような挑戦的な経験をさせ」「部長になるまでに、どのような能力を身につけさせるのか」という、具体的な育成経路が示されている必要があります。

さらに、候補者の能力アセスメントだけでなく、その候補者自身のエンゲージメントやキャリアに対する考え方を深く理解することも不可欠です。組織サーベイなどを通じて、「会社への貢献意欲が高いか」「困難な課題への挑戦意欲があるか」といった内面的な要素を把握し、育成計画に反映させることで、ミスマッチを防ぎ、育成の成功確率を高めることにつながります。

サクセッションプランと連動させる4つの実践的視点

では、具体的にサクセッションプランと連動した教育体系を機能させるためには、どのような視点が必要なのでしょうか。

視点1:重要ポジションの特定と要件定義

まずは、企業の持続的成長にとって、特に重要なポジション(キーポジション)を特定します。これは、社長や役員だけでなく、特定の事業部長や開発責任者なども含まれる可能性があります。そして、そのポジションを担うために不可欠な経験、スキル、資質(コンピテンシー)を具体的に定義します。

視点2:候補者プールの形成と多面的な評価

次に、定義した要件に基づき、将来のリーダー候補者となりうる人材のプール(タレントプール)を形成します。候補者の選定は、上司の推薦だけに頼るのではなく、過去の実績、アセスメントツール、周囲からの360度評価など、多面的な情報に基づいて客観的に行うことが望ましいと考えられます。この段階で、教育体系上に「次世代リーダー候補層」といった形で、明確に位置づけを行います。

視点3:個別育成計画(IDP)の作成と実行

選抜した候補者一人ひとりに対して、個別育成計画(Individual Development Plan)を作成します。IDPには、3年後、5年後に目指す姿と、そこに至るまでに強化すべき能力、そしてそのための具体的なアクションプラン(研修、メンタリング、コーチングなど)を盛り込みます。これは、画一的な研修ではなく、個人の強みと課題に合わせたオーダーメイドの育成計画です。

視点4:「タフアサインメント」という名の最良の育成機会

リーダーを最も成長させるのは、研修ではなく、ストレッチな経験、すなわち「タフアサインメント(挑戦的な業務経験)」であると言われています。新規事業の立ち上げ、不採算事業の立て直し、海外拠点の責任者など、現在の能力を少し超えるような修羅場経験を意図的かつ計画的に与えることが、リーダーとしての器を大きく広げます。教育体系の中に、こうした経験を積むためのキャリアパスを組み込んでおくことが極めて重要です。

計画的なリーダー育成は、最高の事業継続計画

サクセッションプランと連動した戦略的な教育体系を構築し、運用することは、単なる人材育成の枠を超えた、企業の未来そのものを左右する経営アジェンダです。

計画的にリーダーを輩出できる仕組みは、経営の安定化に資するだけでなく、「この会社にいれば、挑戦的な成長機会が与えられる」というメッセージとなり、優秀な人材を惹きつけ、つなぎとめる(リテンション)効果も期待できます。これこそが、変化の激しい時代を乗り越えるための、最高の事業継続計画(BCP)と言えるのではないでしょうか。

株式会社コトラでは、人的資本経営に関する深い知見と豊富な実績で、貴社の課題解決をサポートします。サクセッションプランの構築や、次世代リーダー育成体系の設計に関するご相談は、お気軽にお問い合わせください。

この記事を書いた人

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コトラ(人的資本チーム)

経営戦略に連動した「動的な人材ポートフォリオ」の構築から、「採用」「育成」といった人材マネジメントの実践まで、人的資本経営を一気通貫で支援しています。

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杉江 幸一郎
ディレクター ISO30414リードコンサルタント

東京大学経済学部経営学科卒。大手メーカー、通信事業者、IT企業など上場事業会社にて経営企画、事業戦略、新規事業立ち上げ等の責任者を歴任。上場企業取締役、CISO および ISO事務局等も担当。

コトラでは、ISO30414を始めとした人的資本経営のコンサルティングに従事。ISO30414リードコンサルタント。ESG情報開示研究会、人的資本経営コンソーシアム、地方創生SDGs官民連携プラットフォーム会員。

X(旧Twitter):@Kotora_cnsl


蘇木 亮太
コンサルタント ISO30414リードコンサルタント

同志社大学法学部卒。大手教育系企業でのコンサルタント経験を経て、金融系スタートアップに入社。 組織・人事企画チームに所属し、エンゲージメント向上施策やDE&I推進、研修開発、人事制度運用等を担当。

コトラでは、有価証券報告書・統合報告書における人的資本開示、ISO30414、人事組織コンサル等に従事。ISO30414リードコンサルタント資格/日本ディープラーニング協会G検定保有者。


大西裕也
リサーチャー兼コンサルタント

コトラでは、ISO30414認証取得支援及び人的資本開示動向のリサーチ、人事データ分析・レポート作成等に従事。

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