「心理的安全性」と「成長実感」の好循環 持続的に従業員エンゲージメントを高める組織文化の育み方

一過性の施策から、持続する「文化」へ

従業員エンゲージメント向上のために様々な施策を打ち、一時的にサーベイのスコアが改善したとしても、しばらくすると元の状態に戻ってしまう。このような経験はないでしょうか。それは、従業員エンゲージメントを「施策」という点の問題として捉え、その根底にある「組織文化」にまで目を向けていないからかもしれません。

従業員エンゲージメントを持続的に高い水準で維持するためには、単発的な施策を繰り返すだけでは不十分です。より本質的なアプローチとして、エンゲージメントを支える土台となる「組織文化」そのものに働きかける必要があります。

本コラムでは、その組織文化の中核をなす「心理的安全性」と「成長実感」という二つの要素に焦点を当てます。これらが相互に作用して生まれる好循環が、いかにして持続的なエンゲージメント向上に繋がるのか、そのメカニズムと具体的な方法論を解説します。

「心理的安全性」が「成長実感」の土台となるメカニズム

「心理的安全性」とは、組織の中で自分の考えや気持ちを誰に対してでも安心して発言できる状態を指します。一方、「成長実感」とは、日々の業務や経験を通じて、自身の能力やスキルが向上していると感じられる状態のことです。この二つは、独立した要素ではなく、密接に結びついています。

  • 挑戦と失敗の許容
    心理的安全性が確保された職場では、従業員は「失敗しても非難されない」という安心感から、現状維持に留まるのではなく、新しい業務や難易度の高い課題に積極的に挑戦できます。この「挑戦」の機会こそが、成長の源泉です。
  • 質の高いフィードバック
    心理的安全性が高い組織では、耳の痛いことであっても、相手の成長を願う本質的なフィードバックがオープンに行われます。受け手も素直にそれを受け入れ、内省に繋げることができます。建設的なフィードバックの応酬が、個人の成長を加速させます。
  • 自律的なキャリア形成の促進
    従業員が自身のキャリアについて不安や希望を率直に上司や同僚に相談できる環境は、心理的安全性の高さを示します。こうした対話を通じて、従業員は会社のリソースを活用しながら、自律的にキャリアを築いているという実感、すなわち「成長実感」を得ることができます。

このように、心理的安全性が確保されている環境が、従業員の新たな「挑戦」を可能にする基盤となります。そして、その挑戦に対する建設的な「フィードバック」を通じて、従業員は効果的に成長することができます。この「心理的安全性→挑戦→成長実感」という好循環こそが、持続的な従業員エンゲージメントを生み出す原動力となるのです。

好循環を生み出すための、組織的な働きかけ

では、この好循環を組織の中に意図的に生み出していくためには、具体的にどのような働きかけが有効なのでしょうか。コトラが人材開発や組織開発の支援で重視している視点から、具体的なアクションを提示します。

「対話の質」を変えるリーダーシップ開発

組織文化の鍵を握るのは、日々のチーム運営を担うリーダー、すなわち管理職です。メンバーの心理的安全性を高め、成長を支援する「サーバント・リーダーシップ」や「コーチング」のスキル開発を、管理職研修の中核に据えることが重要です。特に、1on1ミーティングを「管理の場」から「支援の場」へと転換し、メンバーが安心して本音を話せる質の高い対話を実現するスキルは不可欠です。

「失敗」を祝福し、学びを共有する文化醸成

多くの日本企業には、失敗を許容しない文化が根強く残っている傾向があります。この文化を転換するために、経営層が率先して自らの失敗談を語ったり、挑戦の結果としての失敗を責めるのではなく、そこから得られた「学び」を評価したりする姿勢を示すことが効果的です。失敗事例を共有し、組織全体のナレッジとして蓄積する仕組みを設けることも有効でしょう。

スキルの可視化とキャリアパスの明示

従業員が「成長実感」を得るためには、自分が今どこにいて、どこに向かっているのかを客観的に把握できる地図が必要です。

  • スキルマップの導入
    職務ごとに求められるスキルを定義し、従業員が自身の保有スキルや、今後習得すべきスキルを可視化できるようにします。
  • キャリアラダーの提示
    社内外の様々なキャリアパスの選択肢を示し、従業員が自律的にキャリアプランを考えることを支援します。

このようなスキルベースの人事制度は、従業員に明確な成長目標を与え、日々の業務における従業員エンゲージメントを高める上で、強力なドライバーとなると考えられます。

*スキルベース型人事制度については、以下のコラムで解説しています。合わせてご参照ください。

エンゲージメント文化は、最高の無形資産

従業員エンゲージメントは、個別の施策を積み重ねるだけで達成されるものではなく、日々の相互作用を通じて醸成される「組織文化」そのものと捉えるべきです。特に、「心理的安全性」を基盤とし、従業員が「成長実感」を得られる好循環をいかにして作り出すかが、持続的なエンゲージメント向上を実現する上で不可欠です。

こうした文化の構築には時間を要しますが、一度確立されれば、それは他社が容易に模倣できない、極めて強力な競争優位性、すなわち「無形資産」となります。

株式会社コトラでは、人的資本経営に関する深い知見と豊富な実績で、貴社の課題解決をサポートします。組織サーベイを用いた心理的安全性の測定や、スキルベース型人事制度の導入による成長実感の醸成など、より具体的なご相談は、お気軽にお問い合わせください。

この記事を書いた人

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コトラ(人的資本チーム)

経営戦略に連動した「動的な人材ポートフォリオ」の構築から、「採用」「育成」といった人材マネジメントの実践まで、人的資本経営を一気通貫で支援しています。

コンサルタント紹介

杉江 幸一郎
ディレクター ISO30414リードコンサルタント

東京大学経済学部経営学科卒。大手メーカー、通信事業者、IT企業など上場事業会社にて経営企画、事業戦略、新規事業立ち上げ等の責任者を歴任。上場企業取締役、CISO および ISO事務局等も担当。

コトラでは、ISO30414を始めとした人的資本経営のコンサルティングに従事。ISO30414リードコンサルタント。ESG情報開示研究会、人的資本経営コンソーシアム、地方創生SDGs官民連携プラットフォーム会員。

X(旧Twitter):@Kotora_cnsl


蘇木 亮太
コンサルタント ISO30414リードコンサルタント

同志社大学法学部卒。大手教育系企業でのコンサルタント経験を経て、金融系スタートアップに入社。 組織・人事企画チームに所属し、エンゲージメント向上施策やDE&I推進、研修開発、人事制度運用等を担当。

コトラでは、有価証券報告書・統合報告書における人的資本開示、ISO30414、人事組織コンサル等に従事。ISO30414リードコンサルタント資格/日本ディープラーニング協会G検定保有者。


大西裕也
リサーチャー兼コンサルタント

コトラでは、ISO30414認証取得支援及び人的資本開示動向のリサーチ、人事データ分析・レポート作成等に従事。

DX推進パスポート(G検定、データサイエンティスト検定、ITパスポート)、一種外務員資格取得者。


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