そのチームビルディング研修は、企業の成長に繋がっていますか?
「社員の一体感を醸成したい」「部門間の連携を強化したい」といった理由から、チームビルディング研修を企画・実施することは、もはや一般的な人事施策の一つと言えるでしょう。
しかし、ここで一度立ち止まって考えていただきたい問いがあります。それは、「そのチームビルディング研修は、自社の経営戦略や人材戦略と明確に連動していますか?」という問いです。
もし、この問いに即答できないのであれば、その研修は本来得られるはずだった成果の半分も生み出していない可能性があります。「とりあえずチームビルディング研修」という発想は、人的資本経営の観点からは極めて危険な兆候と言えます。
本コラムでは、多くの企業が見過ごしがちな「チームビルディングの目的設定」に焦点を当てます。なぜ研修の目的が経営戦略と連動している必要があるのか、そして、戦略実現に貢献する真に価値あるチームビルディングをいかに設計すべきか。その本質的な考え方と具体的なアプローチを解き明かしていきます。
チームビルディングは経営戦略を実現するための「手段」である
チームビルディングの議論において最も重要な出発点は、それを「目的」ではなく、経営戦略や事業戦略を実現するための強力な「手段」として位置づけることです。企業の成長フェーズや事業環境によって、求められるチームの姿は大きく異なります。
例えば、新規事業立ち上げフェーズであれば、多様な専門性を持つメンバーによる、自律性とスピード感のあるチームが必要です。一方、成熟事業の生産性向上フェーズであれば、業務プロセスの標準化と効率化を徹底できるチームが求められるでしょう。
「風通しの良い組織」や「一体感のあるチーム」といった言葉は魅力的ですが、それ自体がゴールではありません。それらの状態が、自社の戦略遂行にとって「なぜ」必要なのかを深く掘り下げ、定義することが、戦略的なチームビルディングの第一歩です。
人材ポートフォリオからチームを構想する
私たちコトラは、戦略的なチームビルディングを構想する上で、「人材ポートフォリオ」という視点を取り入れることが極めて有効だと考えています。これは、企業の経営戦略を実現するために、どのようなスキルや経験を持つ人材が、どの部署に、どれだけ必要かを可視化し、最適配置を行っていく考え方です。
この考え方をチームビルディングに応用すると、まず「戦略実現には、どのような能力を持つ人材で構成されたチームが必要か」という問いからスタートします。戦略に基づいてチームそのものを構想し、最適化していく。この視点を持つことで、チームビルディングは、より能動的でインパクトの大きい経営マターへと昇華されるのです。
戦略を実現するためのアクションプラン
経営戦略と連動したチームビルディングを実現するためには、戦略をチームの日常業務レベルまで翻訳し、接続するプロセスが不可欠です。どんなに優れた戦略も、現場のチームメンバー一人ひとりに「自分ごと」として理解され、納得されなければ絵に描いた餅で終わってしまいます。
ここでは、チームの方針をメンバー自身の手で作り上げるための具体的なステップをご紹介します。
ステップ1:経営層・事業責任者を巻き込んだ「戦略接続ワークショップ」の実施
研修を企画する最初の段階で、必ず経営層や関連する事業責任者を巻き込みます。人事部だけで目的を忖度するのではなく、戦略の当事者から直接インプットを得ることが重要です。
ワークショップでは、主に以下のような問いかけを行います。
- 「今期の最重要経営課題は何ですか?」
- 「その課題を解決するために、このチームにはどのような役割・貢献を期待しますか?」
- 「半年後、このチームがどのような状態(スキル、行動、成果)になっていれば『大成功』と言えますか?」
- 「逆に、どのような状態は『失敗』と考えますか?」
この議論を通じて、研修で目指すべきゴールがシャープになり、経営層のコミットメントも得られます。ここで定義された目的が、研修全体の設計思想の基盤となります。
ステップ2:チームミッションを「自分たちの言葉」で再定義する対話
研修の場では、まずステップ1で定義された戦略的な目的をチームメンバーに共有します。その上で、それを自分たちの言葉に翻訳し直す対話を行います。
対話の際は、以下のような共創プロセスが効果的です。与えられた目的が「自分たちの目的」へと変わり、メンバーの当事者意識の飛躍的な高まりが期待できます。
- 模造紙やホワイトボードを用意し、中央に戦略目的を書き込む。
- 「この目的を達成するために、私たちチームならではの強みは何だろう?」「具体的に、明日から私たちの仕事の何を変える必要があるだろうか?」「もしこのミッションが達成されたら、お客様や会社はどのように喜ぶだろうか?」といった問いを投げかけ、メンバーから自由に意見を出してもらう。
- 出てきた言葉をグルーピングし、それらを統合して、チームメンバー全員が「これだ」と納得できる、シンプルで覚えやすいチームミッション(スローガン)を作成する。
ステップ3:成功の定義(KGI/KPI)をチームで設定し、計測する
再定義したチームミッションに基づき、「何をもって私たちのチームの成功とするか」という具体的な指標(KGI/KPI)をチーム自身で設定します。
- 新規事業チームの場合
- KGI:β版リリース後3ヶ月でのアクティブユーザー数
- KPI:週次のプロトタイプ改善回数、ユーザーヒアリング件数
- 営業チームの場合
- KGI:半期での新規契約金額
- KPI:月次の新規商談化数、提案書の質に関する顧客アンケートスコア
- カスタマーサポートチームの場合
- KGI:顧客満足度
- KPI:初回応答時間、問題解決率、FAQページの改善提案数
設定したKPIは、チームのダッシュボードなどで常に可視化し、週次ミーティングなどで進捗を確認するサイクルを回すことで、日々の業務が常に戦略と接続された状態を維持できます。
このようなステップを踏むことで、チームビルディング研修は、単なるコミュニケーション活性化の場から、チームの向かうべき方向を定め、自走する力を育む戦略的な対話の場へと進化します。
戦略的チームビルディングが、人的資本の価値を最大化する
本コラムでは、「とりあえず」のチームビルディング研修から脱却し、経営戦略と深く連動した、真に価値ある施策をいかに設計するかについて論じてきました。
チームビルディングは、経営戦略を実現するための手段です。自社の事業フェーズや課題に合わせてチームの理想像を定義し、時には「人材ポートフォリオ」の視点からチームそのものを構想する。そして、経営と現場を繋ぐ「対話」を通じて、チームメンバーが自らのミッションを理解し、成功の定義を共有する。
このような戦略的アプローチを採ることで、チームビルディングへの投資は、企業の成長を直接的に加速させる強力なエンジンへと変わります。
株式会社コトラでは、人的資本経営に関する深い知見と豊富な実績で、貴社の課題解決をサポートします。経営戦略と連動したチームビルディング研修の企画や、動的な人材ポートフォリオの構築支援など、より具体的なご相談は、お気軽にお問い合わせください。