なぜ、あれほど盛り上がった研修が現場で活かされないのか?
企業の経営者や人事担当者の皆様であれば、一度はこのような経験をお持ちではないでしょうか。
多大な時間とコストをかけて実施したチームビルディング研修。当日は参加者同士の活発な議論や笑顔が見られ、大きな手応えを感じたはずなのに、数週間もすれば現場はすっかり元の状態に戻ってしまっている。一体感の醸成どころか、研修の内容すら忘れ去られている…。
このような「研修あるある」とも言える状況は、決して珍しいものではありません。むしろ、多くの組織で繰り返されている根深い課題であるとさえ考えられます。この課題の背景には、「チームビルディング研修を企画し、実行すること」自体が目的化してしまっているという構造的な問題が潜んでいる可能性があります。
本コラムでは、なぜチームビルディング研修が一過性のイベントで終わってしまうのか、その根本原因を解き明かします。そして、研修の効果を持続させ、組織の血肉とするための本質的なアプローチと、明日から現場で実践できる具体的なアクションについて、人的資本経営の視点から深く考察していきます。
単発の施策で終わらない、真のチームビルディングを実現するための一助となれば幸いです。
チームビルディング研修は「イベント」ではなく「プロセス」
多くのチームビルディング研修が失敗に終わる最大の理由は、研修を単発の「イベント」として捉えている点にあります。非日常的な体験は一時的な高揚感を生みますが、日常業務に戻った瞬間にその効果は急速に薄れていく傾向があります。
真のチームビルディングとは、研修をきっかけとして、現場での持続的な行動変容と関係性の向上を促す「プロセス」全体を設計することに他なりません。研修の企画段階から、「研修後にどのような状態を目指すのか」「その状態をいかにして維持・発展させていくのか」という視点が不可欠です。
データで紡ぐチームビルディングの物語
ここで重要になるのが、データに基づいたアプローチです。私たちコトラは、チームビルディングを一連のプロセスとして捉え、その効果を客観的に可視化することを重視しています。例えば、研修前に組織サーベイでチームのエンゲージメントや心理的安全性、コミュニケーションの現状を数値で把握します。そして、研修実施から一定期間後に再度サーベイを行い、変化を定量的に分析するのです。
この定点観測によって、チームビルディング研修の効果を一時の「感想」で終わらせず、具体的な「事実」として捉え、次の打ち手を具体的に検討することが可能になります。重要なのは、このチームビルディングのプロセスが、組織全体の人的資本価値向上にどう貢献するかという大きな視点を持つことです。
持続するチームを作るための具体的なアクションプラン
チームビルディング研修で得た学びや気づきを、現場での具体的な行動変容に繋げるためには、意識的に「仕組み」を構築する必要があります。研修という非日常の体験を、日常業務の中にスムーズに溶け込ませるための具体的なアクションをご紹介します。
ステップ1:研修のゴールを具体的・測定可能な「行動目標」に落とし込む
研修の最後に、チームまたは個人として「明日から具体的にどのような行動を始めるか」を言語化します。重要なのは、誰が見ても実践できたかどうかが判断できるレベルまで具体化することです。
- 悪い例
- もっと積極的にコミュニケーションを取る
- 風通しを良くする
- 良い例
- 毎朝の朝会で、業務連絡に加えて一人一言、週末の出来事や最近気になっているニュースなどを共有する時間を設ける
- 週に一度、チーム全員が参加する15分間の振り返りミーティングを、毎週金曜日の16時から実施する
- チャットでの質問や相談に対して、まずは『見ました』というリアクションを1時間以内につけることを徹底する
このような具体的な行動目標があることで、日々の業務の中で意識しやすくなり、チームビルディングが継続的な活動となります。
ステップ2:「振り返りの場」を会議体に正式に組み込む
設定した行動目標が実践できているかを確認する場を、既存の定例ミーティングなどに正式に組み込み、形骸化させない工夫が重要です。組み込み方の例としては、次のような方法が挙げられます。
- 週次定例の冒頭5分を「行動目標チェック」の時間とする。アジェンダに明記し、司会者が必ず確認するようにする。
- 「今週の行動目標、〇〇(例:雑談共有)を実践できた人は挙手をお願いします。やってみてどうでしたか?」といった簡単な問いかけから始める。
このような時間を設けることで、「研修は終わったこと」ではなく「今も続いていること」としてチームメンバーに認識させることができます。チームビルディングは継続的な取り組みであるという意識を醸成することが重要です。
ステップ3:成功も失敗も「学び」として共有し称賛する文化を作る
振り返りの場では、単にできた・できないを評価するのではなく、その結果からチームとして何を学べるかに対話の焦点を当てます。その際のポイントは、以下の2つです。
- 成功体験の深掘り
「行動目標を実践したことで、チームにどんな良い変化がありましたか?」「誰かの発言がきっかけで、新しいアイデアが生まれた瞬間はありましたか?」など、ポジティブな影響を具体的に引き出します。 - 失敗体験の分析
「なぜ今週は目標を達成できなかったのでしょうか?」「忙しかったから、という以外に、仕組みやルールに改善できる点はありますか?」など、原因を個人に帰さず、構造的な問題として捉えます。
これらの仕組みは、一度導入して終わりではありません。チームの状況や課題の変化に応じて、常に見直し、改善していくことが求められます。チームビルディングとは、まさに生き物のようなものなのです。
持続的なチームビルディングが、変化に強い組織を育む
本コラムでは、「チームビルディング研修が一過性で終わってしまう」という普遍的な課題に対し、研修を「プロセス」として捉える本質的なアプローチと、現場での行動変容を促す具体的な仕組みづくりについて解説しました。
チームビルディング研修を単なるイベントとして消費するのではなく、データに基づき効果を測定し、日々の業務に「振り返り」と「対話」のサイクルを組み込むこと。この地道なプロセスの積み重ねこそが、研修の効果を持続させ、個々のチームを強くし、ひいては組織全体の持続的な成長を支える土台となります。
優れたチームビルディングによって育まれた強固な信頼関係と高い心理的安全性は、変化の激しい時代を乗り越えるためのレジリエンス(回復力)そのものです。人的資本経営が重視される現代において、このような自律的で学習能力の高いチームをいかに育んでいくかは、すべての企業にとって避けては通れない経営課題と言えるでしょう。
株式会社コトラでは、人的資本経営に関する深い知見と豊富な実績で、貴社の課題解決をサポートします。データに基づいたチームビルディングのプロセス設計や、その後の定着支援など、より具体的なご相談は、お気軽にお問い合わせください。