戦略的人材配置を実現するタレントマネジメント

その人材配置、「過去の実績」と「勘」だけで決めていませんか?

「新規事業を成功させるため、最適なリーダーを抜擢したい」
「5年後を見据え、各部門のキーポジションを担う後継者を計画的に育成したい」
「技術革新に対応できる専門人材を、必要な部署へ迅速に配置したい」

こうした経営課題に対して、貴社ではどのようなプロセスで意思決定を行っているでしょうか。もし、その答えが「役員たちの記憶や経験則」「過去の成功体験に基づく勘」に大きく依存しているとしたら、それは大きな機会損失を生んでいるかもしれません。

変化の激しい時代において、過去のやり方が未来の成功を保証するとは限りません。本当に必要なのは、客観的なデータに基づき、未来の事業戦略から逆算して最適解を導き出す「戦略的人材配置」です。そして、その実現の鍵を握るのが、タレントマネジメントシステムに他なりません。

本コラムでは、システムを単なるデータベースで終わらせず、企業の未来図を描くための戦略ツールへと昇華させるアプローチを論じます。

本質的なアプローチ:事業戦略と人材データを「同期」させる

タレントマネジメントシステム活用が戦略レベルに至らない多くの企業で見られるのは、事業戦略と人材データが分断されているという現実です。システムには従業員の経歴や研修履歴が蓄積されているものの、それが中期経営計画や新規事業計画といった未来の戦略と結びついていません。

課題の本質:現在と過去のデータに縛られる人事

従来の人事データ管理は、どうしても「現在」の評価や「過去」の経歴といった情報が中心になりがちです。しかし、戦略的人材配置を行う上で本当に知りたいのは、「未来」の事業に必要な人材要件と、それに対して「現在」の組織にどのようなギャップがあるのか、という点です。

  • このままでは、3年後にどの部門でスキル不足が深刻化するのか?
  • 市場の変化に対応するため、新たに獲得・育成すべきスキルは何か?
  • M&A後の新組織で、シナジーを最大化するリーダーは誰か?

これらの問いに答えるためには、過去と現在のデータを参照するだけでは不十分です。未来の事業環境を予測し、そこから求められる人材要件を定義し、現状とのギャップを可視化する仕組みが不可欠となります。

「スキルベース」で未来の人材要件を定義する

私たちコトラは、この課題を解決する鍵が「スキルベース」での人材管理にあると考えています。役職や部署といった「箱」で人材を捉えるのではなく、一人ひとりが持つ「スキル」の集合体として組織を捉え直すアプローチです。

まず、中期経営計画や事業戦略を分析し、それを実行するために必要なスキルを具体的に定義します。例えば、「AIを活用した新規サービス開発」という戦略があるなら、「機械学習の知識」「プロジェクトマネジメント能力」「顧客課題発見スキル」といった要素に分解します。

次に、タレントマネジメントシステムにより、全従業員のスキルを棚卸しし、可視化します。これにより、会社全体としてどのスキルが豊富で、どのスキルが不足しているのかが一目瞭然となります。この「スキルマップ」こそが、事業戦略と人材データを同期させるための共通言語となるのです。

このアプローチにより、タレントマネジメントシステムは、単なる情報管理から、未来に向けた戦略立案の基盤へと進化します。

戦略的人材配置を実現する、3つの実践的アクション

スキルベースの考え方を基盤に、タレントマネジメントシステムの活用によって戦略的人材配置を実現するための具体的なアクションを3つご紹介します。

アクション1:サクセッションプランを「データ」で駆動させる

後継者育成(サクセッションプラン)は、戦略的人材配置の根幹をなす重要なテーマです。これを感覚論で終わらせないために、タレントマネジメントシステムの活用が極めて有効です。

  1. キーポジションの定義
    まず、事業継続の上で特に重要な「キーポジション」を特定し、そのポジションに求められるスキル、経験、コンピテンシーを明確に定義します。
  2. 候補者の多角的評価
    次に、システム上のデータ(評価、経歴、スキル、キャリア志向など)を用いて、候補者をロングリストとして抽出します。ここで重要なのは、直属の上司の推薦だけでなく、客観的なデータに基づいて多角的に候補者を探すことです。思いもよらない部署に、未来のリーダーが埋もれている可能性は十分にあります。
  3. 育成計画の個別最適化
    候補者一人ひとりについて、現状のスキルとキーポジションに求められる要件とのギャップを分析します。そのギャップを埋めるための最適な育成プラン(異動、研修、難易度の高いプロジェクトへのアサインなど)をシステム上で計画し、進捗をモニタリングします。

このプロセスを回すことで、属人的な後継者選びから脱却し、透明性と納得性の高い、データドリブンなサクセッションプランが実現します。

アクション2:「タレントレビュー会議」を高度化する

多くの企業で、経営層と人事が集まり人材について議論する「タレントレビュー会議」が実施されています。しかし、その中身が印象論に終始してしまうケースも少なくありません。

タレントマネジメントシステム活用により、この会議を劇的に高度化することが可能です。会議の前に、議論すべきテーマ(例:「グローバル拠点の次期責任者候補」)に基づいた分析レポートをシステムから出力し、参加者に共有します。

  • 実績と将来性による人材分析
    パフォーマンスとポテンシャル(潜在能力)の2軸で人材を分析し、重点的に育成すべき人材や、配置転換を検討すべき人材を可視化します。
  • スキルギャップ分析
    特定の部門や階層におけるスキルの過不足をグラフで示し、議論の焦点を明確にします。
  • キャリア志向データ
    本人のキャリアに対する考えや希望をデータで示すことで、抜擢や配置のミスマッチを防ぎます。

客観的なデータを共通の基盤とすることで、議論はより具体的かつ建設的になり、意思決定の質が飛躍的に向上します。

アクション3:キャリアの選択肢を提示し、抜擢の機会を創出する

戦略的な人材配置は、会社が一方的に決めるだけでは最適解に至りません。従業員一人ひとりの「意欲」や「キャリア志向」をデータとして活用することで、配置の質と納得感を飛躍的に高めます。

  • キャリア機会の可視化
    タレントマネジメントシステムを社内の「キャリアマーケットプレイス」として位置づけ、社内公募ポスト、新規プロジェクトのメンバー、研修プログラムなどの機会を従業員に広く公開します。
  • キャリア自律の促進
    従業員が自身のキャリアプランや興味関心をシステムに登録し、自律的に機会を探せる環境を整えます。これにより、従業員の主体的なキャリア形成を支援します。
  • 「意欲」データの活用と抜擢
    人事やマネージャーは、従業員のキャリア志向や応募状況といった「意欲」に関するデータを分析します。これにより、従来の経歴だけでは見つけられなかった挑戦意欲の高い人材を発掘し、組織の活性化を促します。

データに基づく人材配置は、企業の競争優位性を築く

タレントマネジメントシステムに基づく戦略的人材配置は、もはや一部の先進企業の取り組みではありません。変化の時代を勝ち抜くすべての企業にとって、必須の経営インフラと言えるでしょう。

勘と経験という不確実な要素への依存から脱却し、客観的なデータに基づいて未来を構想し、最適な布陣を組む。このサイクルを確立することこそが、企業の持続的な成長と、他社には真似のできない競争優位性の源泉となります。それは、従業員一人ひとりにとっても、自らのキャリアが会社の戦略と連動していることを実感し、エンゲージメントを高める機会となるはずです。

株式会社コトラでは、人的資本経営に関する深い知見と豊富な実績で、貴社の課題解決をサポートします。本コラムでご紹介した、スキルベースでの人材要件定義や、データドリブンなタレントレビューの設計・実行について、より具体的なご相談はお気軽にお問い合わせください。

この記事を書いた人

kotora

コトラ(人的資本チーム)

経営戦略に連動した「動的な人材ポートフォリオ」の構築から、「採用」「育成」といった人材マネジメントの実践まで、人的資本経営を一気通貫で支援しています。

コンサルタント紹介

杉江 幸一郎
ディレクター ISO30414リードコンサルタント

東京大学経済学部経営学科卒。大手メーカー、通信事業者、IT企業など上場事業会社にて経営企画、事業戦略、新規事業立ち上げ等の責任者を歴任。上場企業取締役、CISO および ISO事務局等も担当。

コトラでは、ISO30414を始めとした人的資本経営のコンサルティングに従事。ISO30414リードコンサルタント。ESG情報開示研究会、人的資本経営コンソーシアム、地方創生SDGs官民連携プラットフォーム会員。
X(旧Twitter):@Kotora_cnsl


蘇木 亮太
コンサルタント ISO30414リードコンサルタント

同志社大学法学部卒。大手教育系企業でのコンサルタント経験を経て、金融系スタートアップに入社。 組織・人事企画チームに所属し、エンゲージメント向上施策やDE&I推進、研修開発、人事制度運用等を担当。

コトラでは、有価証券報告書・統合報告書における人的資本開示、ISO30414、人事組織コンサル等に従事。ISO30414リードコンサルタント資格/日本ディープラーニング協会G検定保有者。


大西裕也
リサーチャー兼コンサルタント

神戸大学大学院経済学研究科卒。教育経済学を専攻。

コトラでは、ISO30414認証取得支援及び人的資本開示動向のリサーチ、人事データ分析・レポート作成等に従事。
DX推進パスポート(G検定、データサイエンティスト検定、ITパスポート)、一種外務員資格取得者。


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