「とりあえず導入」では意味がない。1on1の落とし穴
「1on1を導入したものの、何を話せばいいか分からず、気まずい空気が流れる」
「部下の業務進捗を管理するだけの時間になってしまい、本来の目的を果たせていない」
「マネージャーのスキルによって1on1の質に差があり、社員から不満の声が上がっている」
パフォーマンスマネジメントの一環として、あるいはエンゲージメント向上の施策として、1on1ミーティングを導入する企業は年々増加しています。しかし、その運用がうまくいかず、形骸化してしまっているケースもまた、非常に多く見受けられます。
週に一度、あるいは月に一度の貴重な時間が、本来の効果を発揮できないまま浪費されているとしたら、それは企業にとって大きな損失と言えるでしょう。問題の根源は、1on1を単なる「面談」の延長と捉え、その本質的な目的と、実践に必要な「対話の技術」が共有されていない点にあると考えられます。
1on1は「評価の場」ではなく「成長支援の場」
機能しない1on1に共通する最大の問題は、その位置づけが曖昧であることです。1on1は、上司が部下を評価したり、業務を管理したりするための時間ではありません。その本質は、部下の成長を支援し、パフォーマンスを最大化するための、未来志向の対話の場であるべきです。この目的を、マネージャーとメンバー双方が深く理解することが、質の高い1on1への第一歩となります。
この「対話」の質を高める上で、「構造化面接」は有効な手段の一つと言えるでしょう。構造化面接では、候補者の過去の行動から未来のパフォーマンスを予測するために、意図を持って設計された質問を投げかけます。同様に1on1においても、マネージャーが質の高い質問を投げかけることで、メンバー自身の内省を促し、自律的な気づきや行動変容を引き出すことが可能になるのです。これは、パフォーマンスマネジメントにおける対話の質を、体系的に向上させるアプローチと言えるでしょう。
パフォーマンス向上に繋げる「対話」3つの実践技術
1on1を「ただの雑談」から「価値ある対話」へと昇華させるために、マネージャーに求められる具体的な対話の技術をご紹介します。
未来を創る「未来志向のパワフルな質問」
人の思考は、向けられた質問の方向に進みます。過去の失敗ではなく、未来の可能性に焦点を当てる質問を投げかけましょう。
- 思考を広げる質問
- もし、あなたがプロジェクトリーダーだったら、まず何から始めますか?
- この仕事における『完璧な成功』とは、どんな状態だと思いますか?
- もし予算が2倍あったら、何を変えますか?
- 本質を探る質問
- この仕事で、私たちが絶対に失ってはいけないものは何だと思いますか?
- もし、一つだけ改善できるとしたら、最もインパクトが大きいのは何ですか?
- 視点を変える質問
- 3年後の自分から、今の自分にアドバイスするとしたら、何と言いますか?
- お客様の視点から見ると、この仕事の価値は何だと思いますか?
深く聴き、内省を促す「アクティブリスニング」
優れた対話者は、話すことよりも聴くことに長けています。相手が本当に言いたいことを引き出す「積極的傾聴」を実践しましょう。
- 非言語メッセージを捉える
言葉だけでなく、相手の表情、声のトーン、姿勢にも注意を払います。何か言いにくそうな様子が見えたら、「何か気になっていることがありますか?」と優しく問いかけることで、本音を引き出せる場合があります。 - 感情に寄り添い、承認する
「それは大変でしたね」「その成功は嬉しいですね」といった共感の言葉は、相手に安心感を与え、信頼関係を深めます。「事実」だけでなく「感情」を受け止めることが重要です。 - 沈黙を効果的に使う
質問の後に訪れる沈黙は、相手が深く考えている証拠です。焦って次の言葉を投げかけず、相手の言葉をじっくりと待つ姿勢が、より深い内省を促します。
行動に繋げる「コミットメントとフォローアップ」
対話で得た気づきを行動に変え、それを継続的に支援する仕組みが不可欠です。
- ネクストアクションを具体化・可視化する
「頑張ります」で終わらせず、「次の1on1までに、具体的に何(What)を、いつまでに(When)、どのレベル(How)までやりますか?」と明確にします。そして、その内容を共有ドキュメントなどに記録し、いつでも確認できるようにします。 - 次回の冒頭で必ず振り返る
次の1on1の冒頭で、「前回のネクストアクションはどうでしたか?」と必ず確認します。これにより、PDCAサイクルが回り始め、行動の習慣化が促進されます。
優れた対話者が、優れたリーダーを創る
機能する1on1は、マネージャーの「対話の技術」に懸かっていると言っても過言ではありません。それは単なるテクニックではなく、部下一人ひとりの可能性を信じ、その成長に本気で向き合うというリーダーシップそのものです。質の高い対話の積み重ねが、個人のパフォーマンスを最大化し、ひいては組織全体の競争力を高めていくのです。
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