採用コスト最適化を実現 未来志向の「戦略的採用」

その採用は、「未来」を見ていますか?

「急に退職者が出て、慌てて後任を探している」
「新規事業を立ち上げたいが、推進できる人材が社内にいない」
「採用しても、いつも現場の短期的なニーズに応えるだけで精一杯だ」

多くの企業で、採用活動が「過去(退職者の補充)」や「現在(目の前の欠員)」への対応に終始してしまっているという現実があります。このような受け身の採用は、常に後手に回り、結果として不必要なコストや機会損失を生み出す温床となりがちです。

しかし、変化の激しい時代を勝ち抜く企業は、採用の視点が異なります。彼らは、3年後、5年後の「未来」から逆算して、今打つべき手を考えています。本コラムでは、目先の採用コスト最適化に留まらず、将来の事業成長を確実にするための「戦略的採用」という考え方と、それに伴うコストの捉え方について、経営的な視座から解説します。

事業戦略の「実現可能性」を左右する人材計画

戦略的採用とは、事業戦略と完全に同期した人材戦略の一環として、採用活動を位置づけるアプローチです。中期経営計画で「海外市場に進出する」「DXを推進する」といった目標を掲げても、それを実行できる人材がいなければ、その戦略は「絵に描いた餅」に終わってしまいます。

コトラでは、戦略的採用の第一歩として、「未来のあるべき姿」と「現状」との間に存在する「スキルギャップ」を特定することを重視しています。

  1. 未来の定義
    3〜5年後の事業ポートフォリオや組織構造を具体的に描き、その実現に不可欠なスキル(例:グローバルマーケティングスキル、データ分析スキルなど)を定義します。
  2. 現状の可視化
    現在の従業員が保有するスキルを棚卸しし、組織全体としてどのようなスキルが、どの程度蓄積されているかを把握します。
  3. ギャップの特定
    「未来」と「現状」を比較し、不足しているスキル(スキルギャップ)を定量的に洗い出します。

このスキルギャップを埋めるための選択肢は、採用だけではありません。「外部からの採用」「既存社員の育成・リスキリング」「業務提携やM&A」といった複数の選択肢を組み合わせ、最適なポートフォリオを設計することが肝要です。

例えば、緊急性が高く、社内に知見がない専門スキルは「採用」で獲得し、既存の事業を支えるスキルは「育成」で底上げを図る、といった判断が考えられます。このプロセスを経ることで、「なぜ採用が必要なのか」という問いに対して、場当たり的ではない、戦略的な必然性を持った答えを導き出すことができます。

これこそが、未来への投資として採用コスト最適化を捉える、本質的なアプローチです。

未来志向の採用戦略を機能させる3つのメカニズム

戦略的採用を絵空事で終わらせないためには、組織内にそれを機能させるメカニズムを組み込む必要があります。

メカニズム1:サクセッションプラン(後継者育成計画)との連動

特に経営幹部や重要な専門職など、事業継続の鍵となる「キーポジション」については、常に後継者候補を計画的に育成・確保しておくサクセッションプランが不可欠です。不測の事態による退職が発生しても、事業への影響を最小限に抑えることができ、緊急で高コストな採用を避けることに繋がります。これは、究極のリスク管理であり、採用コスト最適化の一環です。

メカニズム2:採用と育成の予算を一体で考える

多くの企業では、採用予算と研修予算が別々に管理されています。しかし、前述の通り、スキルギャップを埋める手段は採用と育成の両輪です。これらの予算を一体で捉え、事業戦略上の優先度に応じて柔軟に配分できる仕組みを整えることで、より費用対効果の高い人材投資が可能になります。

メカニズム3:人的資本に関する情報開示とガバナンス

ISO30414(人的資本に関する情報開示のガイドライン)のような国際基準は、企業に対して、人材戦略の透明性と説明責任を求めています。自社の採用・育成方針や、それが事業戦略とどう結びついているのかを、投資家をはじめとするステークホルダーに明確に説明できる体制を構築すること。これは、自社の人的資本経営のレベルを高め、社会からの信頼を獲得する上で極めて重要です。こうした外部からの規律が、戦略的採用を推進する強力な動機付けにもなると考えられます。

採用は、未来を創造する経営の意思決定である

採用コスト最適化というテーマは、突き詰めると「企業の未来に、どのように投資するか」という経営マターそのものです。目先の数字に一喜一憂するのではなく、5年後、10年後の自社の姿を鮮明に描き、そこから逆算して今打つべき一手を冷静に判断する必要があります。

採用活動を、単なる人事部門の業務から、未来を創造するための全社的な「戦略的投資」へと昇華させることが、今まさに求められています。

株式会社コトラでは、人的資本経営に関する深い知見と豊富な実績で、貴社の課題解決をサポートします。未来の事業戦略から逆算した要員計画の策定や、ISO30414認証取得支援についてご相談は、お気軽にお問い合わせください。

この記事を書いた人

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コトラ(人的資本チーム)

経営戦略に連動した「動的な人材ポートフォリオ」の構築から、「採用」「育成」といった人材マネジメントの実践まで、人的資本経営を一気通貫で支援しています。

コンサルタント紹介

杉江 幸一郎
ディレクター ISO30414リードコンサルタント

東京大学経済学部経営学科卒。大手メーカー、通信事業者、IT企業など上場事業会社にて経営企画、事業戦略、新規事業立ち上げ等の責任者を歴任。上場企業取締役、CISO および ISO事務局等も担当。

コトラでは、ISO30414を始めとした人的資本経営のコンサルティングに従事。ISO30414リードコンサルタント。ESG情報開示研究会、人的資本経営コンソーシアム、地方創生SDGs官民連携プラットフォーム会員。
X(旧Twitter):@Kotora_cnsl


蘇木 亮太
コンサルタント ISO30414リードコンサルタント

同志社大学法学部卒。大手教育系企業でのコンサルタント経験を経て、金融系スタートアップに入社。 組織・人事企画チームに所属し、エンゲージメント向上施策やDE&I推進、研修開発、人事制度運用等を担当。

コトラでは、有価証券報告書・統合報告書における人的資本開示、ISO30414、人事組織コンサル等に従事。ISO30414リードコンサルタント資格/日本ディープラーニング協会G検定保有者。


大西裕也
リサーチャー兼コンサルタント

神戸大学大学院経済学研究科卒。教育経済学を専攻。

コトラでは、ISO30414認証取得支援及び人的資本開示動向のリサーチ、人事データ分析・レポート作成等に従事。
DX推進パスポート(G検定、データサイエンティスト検定、ITパスポート)、一種外務員資格取得者。


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