エンゲージメント向上の最後の鍵:ミドルマネジメント変革

「エンゲージメント向上」に疲弊するミドルマネジメント

「経営からは『エンゲージメントを高めろ』と言われ、現場からは突き上げられる…」
「自身のプレイング業務に追われ、メンバー一人ひとりと向き合う時間など、到底ない」
「良かれと思って始めた1on1も、いつしかただの進捗確認会議になってしまった…」

これは、現代の多くのミドルマネジメント(管理職)が抱える、悲痛な叫びではないでしょうか。従業員エンゲージメント向上の重要性が叫ばれる中、その施策実行の最前線を担う管理職が、過剰な期待と役割との間で板挟みになり、疲弊しきっている。この構造的な問題こそが、多くの企業でエンゲージメント施策が空回りする最大の原因かもしれません。

経営の想いが現場に届かない。そのボトルネックが管理職にあるのなら、彼らを責めるのではなく、彼らの役割を再定義し、成功のための環境を整えることこそが急務です。本コラムでは、疲弊する管理職を「変革の要」へと転換し、現場のエンゲージメントに火をつけるための、新しいマネジメントのあり方と、企業が取るべきサポート体制について提言します。

なぜ、管理職は疲弊するのか?「エンゲージメント向上」という新たな期待

ミドルマネジメントがエンゲージメント向上の鍵を握ることは、多くの調査で示されています。社員にとって最も身近な会社の体現者は、直属の上司です。上司との関係性の質が、日々の仕事のやりがい、成長実感、そして組織への信頼感を大きく左右するのは当然と言えるでしょう。

しかし、多くの管理職は、自身の成果責任を負う「プレイングマネージャー」であることが常態化しています。そこに、働き方改革への対応、多様な価値観を持つメンバーへの配慮、そして「エンゲージメント向上」という新たな、そして極めて抽象的なミッションが加わりました。

  • 時間の欠如:自身の業務とメンバーの業務管理で手一杯で、対話の時間が物理的に取れない。
  • スキルの欠如:ティーチング(教える)はできても、コーチング(引き出す)や傾聴のスキルを学んだことがない。
  • 動機の欠如:なぜエンゲージメントが重要なのか、腹落ちしておらず、「また新たな仕事が増えた」と感じてしまう。

この「時間・スキル・動機」の三つの欠如が、管理職を疲弊させ、エンゲージメント施策を形骸化させる根本原因だと考えられます。この現実から目を背けて、精神論でエンゲージメント向上を叫んでも、状況は好転しません。

管理職の役割を「監視者」から「伴走者」へシフトする

この状況を打破するために、私たちは管理職の役割を根本から見直すことを提案します。それは、メンバーのタスクを管理・監督する「監視者」から、メンバーの自律的な成長と貢献を支援する「伴走者」へのシフトです。

「伴走者」としての管理職が担うべき、具体的な役割とは何でしょうか。

傾聴者(Listener)として、個を理解する

何よりもまず、メンバー一人ひとりの声に真摯に耳を傾けることです。1on1ミーティングなどを通じて、彼らのキャリア観、価値観、得意なこと、そして今抱えている悩みや不安を深く理解しようと努める。評価や判断を一旦脇に置き、ただ受け止める姿勢が、信頼関係の土台となります。

動機付け役(Motivator)として、意味を繋ぐ

会社のビジョンやチームの目標が、メンバー個人の仕事や成長とどう繋がっているのかを、対話を通じて共に発見し、意味付けを行います。「君のこの仕事が、会社のこの価値に繋がっているんだ」と語れることで、メンバーは日々の業務に意義を見出し、エンゲージメントを高めます。

支援者(Supporter)として、障壁を取り除く

メンバーが目標に向かって進む上で、障害となっているものがあれば、それを取り除くために動きます。それは、他部署との調整かもしれませんし、必要な情報やリソースの提供かもしれません。マイクロマネジメントで管理するのではなく、メンバーがパフォーマンスを最大限発揮できる環境を整えることが、管理職の重要な仕事になります。

重要なのは、管理職自身が「伴走」される経験を通じて、その価値を体感することです。管理職のエンゲージメントなくして、メンバーのエンゲージメント向上はあり得ません。

企業が「伴走する管理職」を育てるためにすべきこと

管理職に役割変革を求めるだけでは不十分です。企業側が、彼らが「伴走者」として機能するための環境を整備することが不可欠です。

  • 時間的・精神的な「余白」を創出する
    管理職のプレイング業務の比率を見直し、メンバーとの対話やチームビルディングのための時間を意図的に確保する。
  • 評価制度を見直す
    個人の業績だけでなく、「チームのエンゲージメント向上」や「部下の育成」といった、マネジメント行動そのものを評価の軸に加える。
  • 管理職同士の学びの場を提供する
    管理職が自身の悩みを共有し、成功事例や失敗談から学び合えるコミュニティを形成する。彼らを孤独にさせないことが重要です。

エンゲージメントの最後の砦は「現場との対話」にある

どれほど精緻な人事制度を設計し、素晴らしい福利厚生を用意しても、現場の最前線で交わされる日々のコミュニケーションの質が低ければ、社員のエンゲージメントは決して高まりません。そして、そのコミュニケーションの質を決定づけるのが、ミドルマネジメントの存在です。

株式会社コトラでは、人的資本経営に関する深い知見と豊富な実績で、貴社の管理職向け研修の企画・実行や、現場の対話を活性化させる組織開発をサポートします。より具体的なご相談は、お気軽にお問い合わせください。

この記事を書いた人

kotora

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コトラ(人的資本チーム)

経営戦略に連動した「動的な人材ポートフォリオ」の構築から、「採用」「育成」といった人材マネジメントの実践まで、人的資本経営を一気通貫で支援しています。

コンサルタント紹介

杉江 幸一郎
ディレクター ISO30414リードコンサルタント

東京大学経済学部経営学科卒。大手メーカー、通信事業者、IT企業など上場事業会社にて経営企画、事業戦略、新規事業立ち上げ等の責任者を歴任。上場企業取締役、CISO および ISO事務局等も担当。

コトラでは、ISO30414を始めとした人的資本経営のコンサルティングに従事。ISO30414リードコンサルタント。ESG情報開示研究会、人的資本経営コンソーシアム、地方創生SDGs官民連携プラットフォーム会員。
X(旧Twitter):@Kotora_cnsl


蘇木 亮太
コンサルタント ISO30414リードコンサルタント

同志社大学法学部卒。大手教育系企業でのコンサルタント経験を経て、金融系スタートアップに入社。 組織・人事企画チームに所属し、エンゲージメント向上施策やDE&I推進、研修開発、人事制度運用等を担当。

コトラでは、有価証券報告書・統合報告書における人的資本開示、ISO30414、人事組織コンサル等に従事。ISO30414リードコンサルタント資格/日本ディープラーニング協会G検定保有者。


大西裕也
リサーチャー兼コンサルタント

神戸大学大学院経済学研究科卒。教育経済学を専攻。

コトラでは、ISO30414認証取得支援及び人的資本開示動向のリサーチ、人事データ分析・レポート作成等に従事。
DX推進パスポート(G検定、データサイエンティスト検定、ITパスポート)、一種外務員資格取得者。


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