「働き方の変化」が、新たなコンプライアンスリスクを生んでいる
リモートワークの常態化、ビジネスチャットでのスピーディな意思決定、業務におけるSNSやクラウドサービスの活用。デジタルトランスフォーメーション(DX)は、私たちの働き方に革命的な利便性をもたらしました。しかし、その光の裏で、新たなコンプライアンスリスクという影が急速に広がっていることにお気づきでしょうか。
- 従業員の自宅PCからの情報漏洩
- 勤務時間の曖昧化による長時間労働
- チャット上での安易な発言が引き起こすハラスメント
- 個人のSNSアカウントでの不適切投稿による企業ブランドの毀損
これらは、DX時代を象徴するコンプライアンス課題です。従来の対面業務を前提としたコンプライアンス研修だけでは、こうした新たなリスクに十分に対応することは困難と言えるでしょう。本コラムでは、DX時代の企業経営に不可欠な、新しいコンプライアンス研修の考え方と具体的な打ち手について論じます。
DX時代にアップデートすべき、3つのコンプライアンス領域
企業が今、コンプライアンス研修において重点的に取り組むべきは、以下の3つの領域であると考えられます。
1. 情報セキュリティ:利便性とリスクのトレードオフ
クラウドサービスの利用やモバイルデバイスの普及は、業務効率を飛躍的に向上させましたが、同時に情報漏洩のリスクを増大させました。特に、会社が許可していないサービスを従業員が勝手に利用する「シャドーIT」は、深刻なセキュリティホールとなり得ます。
コンプライアンス研修では、単に「禁止」を伝えるだけでなく、なぜそのITツールが危険なのか、どのような代替手段があるのかを具体的に示す必要があります。また、フィッシング詐欺や標的型攻撃メールなど、巧妙化するサイバー攻撃から身を守るための実践的な訓練も不可欠です。
2. 労務コンプライアンス:見えにくい労働時間と健康管理
リモートワーク環境下では、従業員の労働時間を正確に把握することが難しく、長時間労働や「隠れ残業」が常態化しやすい傾向があります。また、孤独感やコミュニケーション不足によるメンタルヘルスの不調も、新たな労務リスクとして顕在化しています。
コンプライアンス研修においては、労働時間管理のルールを再徹底するとともに、管理職に対して、部下の心身の健康状態に気を配るためのコミュニケーション方法や、メンタルヘルス不調の兆候を早期に発見するための知識を提供することが極めて重要になります。
3. コミュニケーション:テキスト主体の危うさ
ビジネスチャットやメールは便利な一方、非言語的な情報が欠落するため、意図しない誤解や対立を生みやすいという特性があります。対面であれば問題にならないような表現が、テキスト上では相手を傷つけ、パワーハラスメントと受け取られるケースも少なくありません。
私たちコトラは、これからのコンプライアンス研修では、テキストコミュニケーションにおける倫理観を育む視点が不可欠だと考えています。これは、単なるスキル研修ではなく、多様な受け手を想像し、配慮する姿勢を養うための人材開発の一環と捉えるべきです。
テクノロジーと対話で築く、次世代コンプライアンス研修
DX時代の新たなリスクに対応するためには、コンプライアンス研修の手法そのものもアップデートしていく必要があります。
アクション1:eラーニングと集合研修のハイブリッド設計
基礎的な知識やルールのインプットは、時間や場所を選ばないeラーニングが効率的です。マイクロラーニング形式で、隙間時間に学習できるコンテンツを用意すれば、従業員の負担も軽減できます。一方で、前述したコミュニケーションの課題や、判断に迷うグレーゾーンの事案については、eラーニングだけでは限界があります。
オンラインまたはオフラインでの集合研修の場を設け、具体的なケーススタディに基づいたディスカッションを行う。このハイブリッドなアプローチが、知識の定着と実践力の養成を両立させる鍵となります。
アクション2:ガイドラインの共創と継続的な見直し
SNSの利用方針やリモートワークのルールなど、新しい働き方に関するガイドラインは、経営層や人事部門が一方的に作成するだけでは現場に浸透しません。従業員の代表を交えたワークショップ形式で、現場の実態や意見を反映しながら共に創り上げていくプロセスが重要です。
また、テクノロジーや社会の変化は速いため、ガイドラインは一度作って終わりではなく、定期的に見直し、改訂していく柔軟な運用が求められます。このプロセス自体が、従業員の当事者意識を高める優れたコンプライアンス研修となります。
アクション3:「なぜ」を問い、倫理観を育む
DX時代のコンプライアンスで最も重要なのは、ルールで縛ることのできない未知の状況に直面したとき、従業員一人ひとりが自律的に正しい判断を下せる倫理観です。そのためには、コンプライアンス研修において「How(どうやるか)」だけでなく、「Why(なぜそうすべきか)」を深く問いかけることが不可欠です。
自社の存在意義や社会的責任に立ち返り、自分たちの仕事が社会とどう繋がっているのかを考える機会を提供することが、変化の時代を乗り越えるための羅針盤となる倫理観を育むと言えるでしょう。
変化を先取りするコンプライアンス研修が、企業の未来を守る
DXの潮流は、今後ますます加速していくでしょう。それに伴い、私たちがこれまで予期していなかった新たなコンプライアンスリスクが、明日には現実のものとなっているかもしれません。 このような時代において企業が持続的に成長するためには、変化を受動的に待つのではなく、能動的にリスクを予見し、先手を打って備える「プロアクティブなコンプライアンス」の姿勢が求められます。その中核を担うのが、時代に合わせて進化し続けるコンプライアンス研修なのです。
株式会社コトラでは、人的資本経営に関する深い知見と豊富な実績で、貴社の課題解決をサポートします。DX時代に即したコンプライアンス研修の企画・立案や、それに伴う人材開発のご相談は、お気軽にお問い合わせください。