経営と人事を繋ぐ、戦略的「要員計画」の基本的な立て方

経営戦略と人事の歯車は噛み合っていますか?

「事業計画は策定したが、それを実行する人材の計画は後回しになっている」
「現場からは常に人員不足の声が上がるが、全社的な視点での最適配置ができているか確信が持てない」

企業の経営者や人事責任者の皆様とお話しする中で、このようなお悩みを伺うことは少なくありません。中期経営計画で壮大なビジョンを掲げながらも、その実現に不可欠な「人材」に関する計画が、経験や勘に頼った場当たり的なものになってはいないでしょうか。

本コラムでは、こうした課題意識を持つ皆様に向けて、企業の持続的成長の根幹をなす「戦略的要員計画の立て方」の基本について解説します。

要員計画とは「未来を創る」ための設計図

単なる頭数合わせではない、本質的なアプローチ

「要員計画」と聞くと、単に「来期、何人採用するか」という人員数の計画を想像されるかもしれません。しかし、人的資本経営における要員計画の本質は、そこにはありません。

真の要員計画とは、経営戦略・事業戦略を実現するために、将来どのような人材が、どれだけ必要になるのかを予測し、その過不足を計画的に充足していくための設計図です。それは、採用、育成、配置、そして評価・報酬といったあらゆる人事施策の起点となる、極めて戦略的な活動といえるでしょう。

静的な計画から「動的なポートフォリオ」へ

多くの企業では、一度策定した要員計画が固定化され、事業環境の急速な変化に対応しきれないケースが見られます。私たちコトラが重視するのは、要員計画を一度きりの計画(Plan)で終わらせるのではなく、常に変化に対応し続ける「動的な人材ポートフォリオ」として捉える視点です。

事業の進捗や市場の変化に合わせて、人材ポートフォリオの現状とあるべき姿のギャップを常にモニタリングし、柔軟に軌道修正を行う。この動的なアプローチこそが、不確実性の高い現代において競争優位性を維持する鍵となると考えられます。

*動的な人材ポートフォリオについてさらに知りたい方は、以下のコラムをご参照ください。

戦略的人的資本経営を実現する、要員計画策定の4ステップ

では、具体的にどのように戦略的な要員計画を立てていけばよいのでしょうか。ここでは、基本的な4つのステップをご紹介します。

ステップ1:現状の可視化と分析(As-Is)

最初のステップは、自社の「今」を正しく知ることです。

  • 人員構成:年齢、性別、役職、勤続年数、所属部門などの基本的なデータを整理します。
  • スキル・経験:各従業員が保有するスキルや専門性、これまでのキャリアを可視化します。
  • 人件費:部門別、等級別に人件費の実績を分析し、現状のコスト構造を把握します。

これらのデータを客観的に分析することで、組織の強みや課題が浮き彫りになります。

ステップ2:将来の必要人員の予測(To-Be)

次に、経営戦略・事業計画に基づいて、3年後、5年後にどのような人材が必要になるかを予測します。

  • トップダウンアプローチ:経営目標(売上高、利益など)から、必要な総人件費や人員数を算出します。
  • ボトムアップアプローチ:各事業部門の戦略から、必要となる職務やスキル、人員数を積み上げます。

この両方のアプローチを組み合わせることで、計画の精度を高めることが可能になります。この要員計画のプロセスが、経営と現場の対話を促す重要な機会にもなり得ます。

ステップ3:ギャップ分析

現状(As-Is)と将来(To-Be)を比較し、人員の「量」と「質」におけるギャップを明確にします。

  • 量のギャップ:単純な人員数の過不足
  • 質のギャップ:将来必要となるスキルや専門性を持つ人材の不足、既存スキルの陳腐化など

このギャップこそが、今後取り組むべき人事課題の核心です。

ステップ4:施策の立案と実行

最後に、特定されたギャップを埋めるための具体的な人事施策を計画し、実行に移します。

  • 採用計画:どのような人材を、いつまでに、何人採用するのか。
  • 育成計画:既存社員のリスキリングやスキルアップをどう進めるか。
  • 配置・異動計画:適材適所の実現や、戦略的な人材の再配置をどう行うか。

これらの施策は相互に関連しあうため、統合的な視点で計画することが重要です。一貫性のある要員計画に基づいた施策は、従業員にとって自らのキャリアパスや会社から期待される役割が明確になるという効果も期待できます。会社の方向性と個人の成長が連動していると感じられることは、貢献意欲、すなわち従業員エンゲージメントの向上にも繋がっていくと考えられます。

持続的成長につながる戦略的な要員計画

要員計画の見直しは、単なる人事部門の業務改善に留まりません。それは、経営戦略と人材戦略を緊密に連携させ、企業の未来を創造していくための根幹的な活動です。

現状を正確に把握し、未来のあるべき姿を描き、そのギャップを埋めるための具体的なアクションプランへと落とし込む。この一連のプロセスを通じて、要員計画は企業の持続的な成長を実現するための、信頼できる基盤となるでしょう。

株式会社コトラでは、人的資本経営に関する深い知見と豊富な実績で、貴社の課題解決をサポートします。経営戦略と連動した要員計画の策定や、その実行体制の構築など、より具体的なご相談は、お気軽にお問い合わせください。

この記事を書いた人

kotora

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コトラ(人的資本チーム)

経営戦略に連動した「動的な人材ポートフォリオ」の構築から、「採用」「育成」といった人材マネジメントの実践まで、人的資本経営を一気通貫で支援しています。

コンサルタント紹介

杉江 幸一郎
ディレクター ISO30414リードコンサルタント

東京大学経済学部経営学科卒。大手メーカー、通信事業者、IT企業など上場事業会社にて経営企画、事業戦略、新規事業立ち上げ等の責任者を歴任。上場企業取締役、CISO および ISO事務局等も担当。

コトラでは、ISO30414を始めとした人的資本経営のコンサルティングに従事。ISO30414リードコンサルタント。ESG情報開示研究会、人的資本経営コンソーシアム、地方創生SDGs官民連携プラットフォーム会員。
X(旧Twitter):@Kotora_cnsl


蘇木 亮太
コンサルタント ISO30414リードコンサルタント

同志社大学法学部卒。大手教育系企業でのコンサルタント経験を経て、金融系スタートアップに入社。 組織・人事企画チームに所属し、エンゲージメント向上施策やDE&I推進、研修開発、人事制度運用等を担当。

コトラでは、有価証券報告書・統合報告書における人的資本開示、ISO30414、人事組織コンサル等に従事。ISO30414リードコンサルタント資格/日本ディープラーニング協会G検定保有者。


大西裕也
リサーチャー兼コンサルタント

神戸大学大学院経済学研究科卒。教育経済学を専攻。

コトラでは、ISO30414認証取得支援及び人的資本開示動向のリサーチ、人事データ分析・レポート作成等に従事。
DX推進パスポート(G検定、データサイエンティスト検定、ITパスポート)、一種外務員資格取得者。


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