ホームページに美しい「教育体系図」が飾られていませんか?
「我が社には、立派な教育体系がある」
そう自負されている経営者や人事責任者の方もいらっしゃるかもしれません。階層別に必要なスキルや研修が整理され、教育体系図としてまとめられている。一見すると非の打ち所がないように見えるその仕組みは、しかし、本当に機能しているでしょうか。
「研修は実施しているが、現場の課題解決に繋がっている実感がない」
「事業戦略が大きく変わったのに、育成体系は何年も前のままだ」
「従業員からは『また研修か』と、やらされ感の声が聞こえてくる」
もし、このような状況に心当たりがあるとしたら、その教育体系は、残念ながら機能不全になってしまっている可能性があります。本コラムでは、こうした形骸化の問題を乗り越え、教育体系を企業の成長を牽引する”動的な仕組み”へと進化させるための本質的な考え方と、具体的な進め方について解説します。
なぜ、教育体系は機能不全に陥るのか?:仕組みとして捉え直す視点
教育体系が機能しなくなる最大の原因は、それを「一度作れば完成する静的なもの」と捉えてしまうことにあります。本来、人材育成とは、絶えず変化する経営環境の中で、企業の持続的成長を支える人材を計画的に輩出し続ける「活動」そのものであるはずです。
経営戦略と育成施策の分断
多くの企業で散見されるのは、経営戦略と教育体系が分断されているケースです。例えば、経営陣が「今後はDXを加速させる」という戦略を掲げても、教育体系は従来の営業研修や管理者研修を中心としたまま、という状況です。これでは、戦略実現に必要な人材は育ちません。
ここで重要になるのが、「動的な人材ポートフォリオ」という考え方です。これは、現在社内にどのようなスキルを持つ人材が、どの部署に、何人いるのかを可視化し、常に最新の状態に更新していくアプローチを指します。(動的な人材ポートフォリオの詳細は、以下のコラムをご参照ください)
貴社の教育体系は、この人材ポートフォリオと連動しているでしょうか。経営戦略を実現するために、将来的にどのようなスキルを持つ人材が何人必要になるのか。そして、現状とのギャップはどこにあるのか。このギャップを埋めるための具体的な打ち手こそが、本来の「人材育成」です。
つまり、教育体系図とは、単なる研修一覧ではなく、「あるべき人材ポートフォリオの実現に向けたロードマップ」として位置づけられるべきものなのです。この視点を持つことで、育成施策の一つひとつが経営目標に直結し、戦略的な意味を持つようになります。
形骸化からの脱却:動的な仕組みを構築する4つのステップ
では、具体的にどのようにして、静的な図を動的な仕組みへと進化させればよいのでしょうか。ここでは、そのための具体的な4つのステップを提案します。
ステップ1:経営戦略と求める人材像の再接続
まずは、自社の経営理念や中期経営計画に立ち返り、「自社がどこへ向かおうとしているのか」を再確認します。そして、その方向性を踏まえ、「3年後、5年後に、各部門でどのような役割を担う人材が必要か」を具体的に定義し直します。このプロセスには、経営陣だけでなく、現場の事業責任者を巻き込むことが不可欠です。
ステップ2:現状のスキル評価
次に行うべきは、従業員一人ひとりが持つスキルの棚卸しです。いわゆる「スキルマップ」の作成がこれにあたります。ここでは、業務経験や保有資格といった形式的な情報だけでなく、潜在的な能力や志向性といった定性的な情報も把握することが望ましいと考えられます。
ステップ3:ギャップ分析と育成施策の再設計
「求める人材像」と「現状のスキル」を比較し、そこに存在するギャップを明確にします。このギャップこそが、貴社が取り組むべき育成課題です。
例えば、「次世代のデジタルマーケティング責任者」という求める人材像に対し、「データ分析スキルを持つ人材はいるが、戦略立案経験が不足している」というギャップが見つかったとします。その場合、必要な育成施策は画一的なマーケティング研修ではなく、実践的な戦略立案プロジェクトへのアサインや、外部専門家によるメンタリングといった、より個別最適化されたものになるはずです。
ステップ4:PDCAサイクルの導入と定期的な見直し
最も重要なのが、この仕組みを一度きりで終わらせないことです。事業環境の変化や戦略の進捗に合わせ、最低でも年に一度は教育体系と人材ポートフォリオを見直すサイクルを制度として組み込みます。施策の効果測定指標(KPI)を定め、定期的に振り返り、改善を続ける。このPDCAサイクルこそが、仕組みを「動的」に保つためのエンジンとなります。
戦略的人材育成が、企業の未来を創造する
「人材は資産である」という言葉は、今やあらゆる企業にとって共通の認識となりました。しかし、その資産をいかにして形成し、最大化していくかという問いに対して、明確な答えを持つ企業はまだ多くないのが実情です。
機能不全に陥った教育体系を見直し、経営戦略と連動した動的な仕組みへと進化させる取り組みは、単なる人事制度の改善に留まりません。それは、変化を乗りこなし、未来を創造するための競争優位性を構築する、極めて重要な経営戦略そのものであると言えるでしょう。
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