コンプライアンス研修の形骸化を打破する やらされ感を払拭し、企業文化を醸成する本質的アプローチとは

コンプライアンス研修が形骸化していませんか?

「またこの時期が来たか」

貴社では、コンプライアンス研修の案内に対して、従業員からこのようなため息が漏れていないでしょうか。毎年実施しているにもかかわらず、不正やハラスメントに関する問題が後を絶たない。研修内容はアップデートしているはずなのに、現場の意識や行動に変化が見られない。多くの経営者や人事責任者の方々が、このような「コンプライアンス研修の形骸化」という根深い課題に直面していると考えられます。

形骸化したコンプライアンス研修は、従業員の貴重な時間を奪うだけでなく、対策を講じているという経営層の自己満足に繋がり、かえってリスクを増大させる危険性さえあります。本質的な課題は、研修の内容そのものよりも、その根底にある思想とアプローチにあるのかもしれません。

本コラムでは、形骸化の根本原因を紐解き、コンプライアンス研修を「企業価値向上のための投資」へと転換する視点を提供します。

なぜコンプライアンス研修は「自分ごと」にならないのか

コンプライアンス研修が従業員に響かず、行動変容に繋がらない背景には、いくつかの共通した要因があると考えられます。それは、コンプライアンスを「ルールによる縛り」と捉える旧来的なアプローチです。

知識のインプットがゴールという誤解

コンプライアンス研修の多くが、法律や社内規程といった知識を一方的にインプットすることに終始しています。もちろん、守るべきルールの理解は不可欠です。しかし、知識の伝達だけでは、従業員は「テストを乗り切れば終わり」という意識になりがちで、実践的な判断力や応用力は身につきません。これこそが、コンプライアンス研修が「やらされ感」を生む最大の要因と言えるでしょう。

「禁止」を強調するネガティブなメッセージ

「~してはいけない」という禁止事項の羅列も、従業員の主体性を削ぐ一因です。ネガティブなメッセージは、従業員を萎縮させ、挑戦的な風土を阻害する可能性があります。コンプライアンスの本質はリスクを恐れて何もしないことではありません。自社の価値観や倫理観に基づき、何が「善い行い」なのかを自律的に判断し、自信を持って行動できる人材を育むことにあるはずです。

企業文化の醸成という視点の欠如

私たちコトラは、コンプライアンスを「企業文化そのもの」と捉えています。健全なコンプライアンス意識は、経営理念やビジョンが浸透し、従業員一人ひとりの価値観と行動に結びついて初めて醸成されます。形骸化したコンプライアンス研修の多くは、この「企業文化」という土壌を無視して、ルールという名の種を蒔こうとしている状態と言えるかもしれません。

重要なのは、ルールを教え込むことではなく、なぜそのルールが必要なのか、自社の理念とどう繋がるのかを全社で対話し、共有するプロセスです。これは、組織サーベイなどを通じて従業員の価値観を可視化し、経営が目指す方向性と接続していくアプローチにも通じます。

「対話」で築く、自律的なコンプライアンス文化

では、実効性のあるコンプライアンス研修を実現するためには、具体的に何から始めればよいのでしょうか。鍵となるのは「対話」を通じた「自分ごと化」の促進です。

アクション1:研修の目的を再定義する

まずは、コンプライアンス研修の目的を「ルール遵守の徹底」から「企業理念に基づく判断軸の共有と、健全な企業文化の醸成」へと再定義することから始めます。この目的を経営層、人事、そして現場の管理職までが共通認識として持つことが、変革の第一歩となります。この新たな目的を従業員に明確に伝えることで、コンプライアンス研修への期待感を変えることができます。

アクション2:ケーススタディを用いた双方向の場を設計する

一方的な講義形式を改め、現場で起こりうる具体的なケーススタディを用いたディスカッション中心の研修に切り替えることが有効です。 例えば、以下のようなテーマが考えられます。

  • 「このSNS投稿は、自社のブランドイメージを毀損する可能性はないか?」
  • 「取引先からの過剰な接待要求に対し、どう対応するのが最も誠実か?」
  • 「同僚の些細な言動が、ハラスメントに該当する可能性はないか?」

このような「正解のない問い」について、役職や部門を超えて対話することで、従業員はコンプライアンスを「自分ごと」として捉えることができます。このプロセスを通じて、個人の判断軸が組織の判断軸へと昇華されていくのです。効果的なコンプライアンス研修のポイントは、知識の量ではなく、対話の質にあると言えるでしょう。

アクション3:経営トップが自らの言葉で語る

コンプライアンス研修の冒頭や総括において、経営トップが自らの言葉で、コンプライアンスにかける想いや、自社の理念との繋がりを語ることは極めて重要です。従業員は、経営層の本気度を敏感に感じ取ります。トップの力強いメッセージは、コンプライアンス研修が単なる義務ではなく、企業の未来を創る重要な活動であるという認識を全社に浸透させる上で、何よりも効果的です。

コンプライアンス研修は、持続的成長への投資である

コンプライアンス研修を、形骸化した義務から、従業員のエンゲージメントと自律性を高める機会へと転換することは、決して容易ではありません。しかし、その取り組みは、不正やスキャンダルを未然に防ぐという守りの側面だけでなく、従業員が安心して挑戦できる心理的安全性の高い職場環境を創り、ひいてはイノベーションを促進するという攻めの側面も持ち合わせています。

変化の激しい時代において、ルールブックだけでは対応できない未知の課題に直面したとき、最終的に企業を守るのは、従業員一人ひとりの心に根付いた倫理観と、健全な企業文化に他なりません。コンプライアンス研修は、その文化を育むための、最も重要な戦略的投資の一つと言えます。

株式会社コトラでは、人的資本経営に関する深い知見と豊富な実績で、貴社の課題解決をサポートします。コンプライアンス研修を企業文化醸成に繋がる戦略的投資へと転換するための具体的なご相談は、お気軽にお問い合わせください。

この記事を書いた人

kotora

コトラ(人的資本チーム)

経営戦略に連動した「動的な人材ポートフォリオ」の構築から、「採用」「育成」といった人材マネジメントの実践まで、人的資本経営を一気通貫で支援しています。

コンサルタント紹介

杉江 幸一郎
ディレクター ISO30414リードコンサルタント

東京大学経済学部経営学科卒。大手メーカー、通信事業者、IT企業など上場事業会社にて経営企画、事業戦略、新規事業立ち上げ等の責任者を歴任。上場企業取締役、CISO および ISO事務局等も担当。

コトラでは、ISO30414を始めとした人的資本経営のコンサルティングに従事。ISO30414リードコンサルタント。ESG情報開示研究会、人的資本経営コンソーシアム、地方創生SDGs官民連携プラットフォーム会員。
X(旧Twitter):@Kotora_cnsl

蘇木 亮太
コンサルタント ISO30414リードコンサルタント

同志社大学法学部卒。大手教育系企業でのコンサルタント経験を経て、金融系スタートアップに入社。 組織・人事企画チームに所属し、エンゲージメント向上施策やDE&I推進、研修開発、人事制度運用等を担当。

コトラでは、有価証券報告書・統合報告書における人的資本開示、ISO30414、人事組織コンサル等に従事。ISO30414リードコンサルタント資格/日本ディープラーニング協会G検定保有者。


大西裕也
リサーチャー兼コンサルタント

神戸大学大学院経済学研究科卒。教育経済学を専攻。

コトラでは、ISO30414認証取得支援及び人的資本開示動向のリサーチ、人事データ分析・レポート作成等に従事。
DX推進パスポート(G検定、データサイエンティスト検定、ITパスポート)、一種外務員資格取得者。


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