投稿者: 杉江幸一郎

  • 【完全解説】ISO 30414認証:プロセスからメリットまで、全てを学ぶ 第6回「認証」と「保証」

    【完全解説】ISO 30414認証:プロセスからメリットまで、全てを学ぶ 第6回「認証」と「保証」

    ISO30414認証に関する正しい認識を広めるため、本連載では全10回にわたり、その本質と実践的な情報を徹底解説。ISO規格の分類や認証制度のプロセス、ISO30414の具体的な58指標、「認証」と「保証」の違い、さらには認証取得支援実績を通じた認証取得のプロセスやメリットまで、専門家がその複雑な制度を紐解きます。<連載一覧はこちら

    第6回:「認証」と「保証」

    前回のコラムでは、ISO30414に対する3つのアプローチ、「認証」「準拠」「参照」について解説しました。
    特に、第三者による客観的な評価を意味する「認証」に注目した方も多いでしょう。

    ところで、ISO30414には「保証」という、非常によく似た言葉が存在します。この二つの言葉を意図を持って使い分けている人は少ないかもしれません。しかしながら、この二つの言葉は似て非なる概念であり、そこに注意して企業の開示物を見てみると、その企業の隠れたメッセージなども読み取れるようになります。

    今回は、この混同されがちな「認証」と「保証」の違いから解説を始めます。さらに、その先にあるISO30414の改訂や新規格「ISO 30201」の登場といった未来の展望までを解き明かします。

    「認証」と「保証」の基本的な違い

    ISO30414に関しては、審査機関の方針により「認証」と「保証」の両方のサービスが提供されています。用語の違いによって受けられるサービスが違いますので、以下の内容を踏まえて自社に合ったサービスを受けると良いと思います。

    認証(Certification)

    一般的に「有効期間内の状態」について保証するものです。例えば、運転免許証のように、一定期間にわたって特定のレベルや資格が保たれることを保証します。

    ISOマネジメントシステム規格(例:ISO9001、ISO14001)の認証は、企業が特定の期間にわたって規格の要求事項を満たし、マネジメントシステムが機能している(するであろう)ことを第三者が認めるもので、通常は3年間の有効期間があり、1年ごとに確認の審査があります。

    保証(Assurance)

    一般的に「ある時点の状態」について保証するものです。企業の決算監査がその典型例で、特定の会計期間末時点の財務諸表が、会計基準に準拠して適正に会計処理されていることを保証します。サステナビリティ報告における保証も同様に、報告書に記載された情報が、特定の時点において正確かつ信頼できるものであることを第三者が検証し、保証するものです。

    一般的な話として、「認証」「保証」をまとめて呼ぶ場合の呼称は「保証」と呼ばれると思います。つまり、「保証」がより広い概念で、その中で有効期限の考え方により「保証」と「認証」にわかれるということです。

    保証のレベル:合理的保証と限定的保証

    保証には、その水準に応じて「合理的保証(Reasonable Assurance)」と「限定的保証(Limited Assurance)」の二つのレベルが存在します。この保証レベルの選択は、企業がステークホルダーに対して提供する情報の「信頼性」と「透明性」のレベルに影響を与えます。

    合理的保証(Reasonable Assurance)

    • 特徴
      高い保証水準を採用し、主張の適正性を積極的に保証します。声明書には「〜が適正であると認める」といった積極的な表現が用いられます。
    • 監査
      監査人は報告書の開示項目全てについて監査証拠を入手・評価し、監査リスクを合理的に低い水準に抑える必要があります。これは極めて厳格な監査が求められ、認証の信頼性は最も高くなります。
    • 適用ケース
      高い信頼性が求められる場合に必要となります。

    限定的保証(Limited Assurance)

    • 特徴
      低い保証水準で、誤りが見受けられなかったことを消極的に保証します。声明書には「〜に誤りは認められなかった」といった表現が用いられます。
    • 監査
      監査人が重要な開示項目のみを対象に抽出監査を行います。監査手続は合理的保証よりも限定的であり、認証の信頼性は合理的保証に比べて低くなります。
    • 適用ケース
      自社サイトでのサステナビリティ情報開示の一環として実施される場合が多く、コストや内部統制の整備状況を考慮して採用されることが多いです。

    高い保証レベルは、より多くのコストと労力を要しますが、その分、投資家や市場からの信頼をより強く獲得できるというトレードオフの関係にあります。企業は、人的資本報告を通じてどのようなメッセージを伝えたいかという戦略的意図によって、適切な保証レベルを選択するべきです。

    そのような理解を前提とすると、「認証」は「合理的保証」の一種であると考えられます。現時点の数値データに誤りが見られなかったということに留まらず、それ以降の一定期間においても適合性の高い開示を行っていくことを保証するからです。従って、一般的には「認証」は費用も高い代わりに、信頼性の高いものになると言えます。

    ISO30414における保証の実際

    ISO30414は「ガイドライン規格」であり、従来のISO認証機関による認証対象ではありません。しかしながら、「〜すべき」とされている規格本文に対して、ISO30414の本来の目的を踏まえて、企業の「あるべき姿」「するべき対応」を明確にし、適合性の判断を基準化し、それに基づいて客観的に審査が行われているのが実態です。これは認証、保証に限らず「第三者による適合性保証」における根本的なルールとなります。

    これにより、ISO30414の認証や保証の取得は、その企業の報告情報や人材への取り組みの客観性・信頼性が格段に高くなり、外部にアピールする上で極めて重要となります。

    市場動向①:「ISO 30414」の改訂

    第3回コラムでも書きましたが、2018年に発行された現行のISO30414は2025年内には2025年版(Ver.2)として改訂されます。タイトルも改編され認証規格に必要なRequirement(要求事項)が追加される予定です。

    ISO30414_Human resource management — Requirements and recommendations for human capital reporting and disclosure

    現行版の58指標は69指標に拡大され、そのうち17指標が「必須指標(Requirement)」とされる予定です。これによって審査基準はさらに明確化され、今後の認証・保証の審査は、より通常の認証規格と近いものとなっていくことが予想されます。

    市場動向②:人的資本に関する認証規格「ISO 30201」の策定

    ISO30414の策定に携わったISO/TC260(人的資源管理に関する専門委員会)は、現在、人的資本に関する新たな認証規格である「ISO 30201」(Human Resource Management System — Requirements)の策定を進めています。このISO30201は、従来のISO9001やISO14001と同様の「マネジメントシステム規格」として要求事項が含まれる予定です。

    これは、人的資本経営が国際的にさらに重要視され、将来的にはより厳格な「要求事項」として義務化される可能性を示唆しています。

    企業は、現行のISO30414や改訂版ISO30414(ver.2)への対応を単なる「ガイドライン準拠」と捉えるのではなく、ISO30201をはじめとした将来の国際的な規制動向を見越した「先見的な投資」として位置づけるべきです。これにより、将来的なコンプライアンスコストの削減や、人的資本経営における持続的な企業価値向上、人材活用、競争優位性の確保につながることが期待されます。

    次回予告

    今回はISO30414における「認証」と「保証」の違いと、ISO30414の展望について解説しました。

    では、そもそもその「認証」や「保証」を与えている「認証機関」とは、一体どのような組織なのでしょうか。そして、その信頼性はどのような仕組みによって担保されているのでしょうか。

    次回は、ISO認証制度の信頼性を支える「認定機関」と「認証機関」という構造をはじめ、ISOの認証機関について総まとめします。本連載シリーズのタイトルである「ISO30414認証制度」を完全に理解するためには、認証機関の存在、その意義への理解は欠かせません。ぜひ次回のコラムもご期待ください。

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  • 【完全解説】ISO 30414認証:プロセスからメリットまで、全てを学ぶ 第5回「認証・準拠・参照」

    【完全解説】ISO 30414認証:プロセスからメリットまで、全てを学ぶ 第5回「認証・準拠・参照」

    ISO30414認証に関する正しい認識を広めるため、本連載では全10回にわたり、その本質と実践的な情報を徹底解説。ISO規格の分類や認証制度のプロセス、ISO30414の具体的な58指標、「認証」と「保証」の違い、さらには認証取得支援実績を通じた認証取得のプロセスやメリットまで、専門家がその複雑な制度を紐解きます。<連載一覧はこちら

    第5回:認証・準拠・参照

    前回のコラムでは、ISO30414の58指標について解説しました。

    多大な労力をかけてデータと向き合う体制を整えた上で、企業は次に「この規格とどう付き合っていくか」という戦略的な選択を迫られます。この関わり方について、「認証取得」の是非ばかりが議論されがちですが、実際には企業の目的や状況に応じて、複数の選択肢が存在します。それぞれの道を理解せずして、自社に最適な戦略を描くことはできません。

    今回は、その選択肢である「認証」「準拠」「参照」という3つのアプローチを徹底比較します。それぞれのメリット・デメリットを明らかにし、日本国内の動向も踏まえ、貴社が取るべき最適な道筋を照らし出します。

    ISO30414への関わり方:3つのアプローチ

    ISO30414は、強制力を持たない「ガイドライン規格」であるため、企業は自社の状況や目的に応じて、この規格への関わり方を柔軟に選択することができます。主なアプローチとしては、「認証」「準拠」「参照」の3つが考えられます。

    認証(Certification)

    これは、第三者機関からISO30414への適合性を保証されることを意味します。

    ISO30414の場合、一般的なISOマネジメントシステム規格の認証機関(JABなどの認定機関から認定を受けた機関)は認証審査を行いません。代わりに、HCプロデュース社のようなISO30414に関する専門知識を持つ、中立的な機関から認証を受ける形となります。この認証は、企業の人的資本報告の信頼性を高め、対外的にその取り組みの客観性を示す強力な手段となります。

    この「第三者認証」が一般的に「認証取得」と言われているものです。

    準拠(Compliant)

    企業が自主的にISO30414の指針に沿った人的資本報告を行うことを指します。この場合、第三者による認証や保証は受けませんが、ISO30414が提供するフレームワークに則って報告を行うことで、報告内容の標準化を図ることができます。

    一般的には、準拠性について専門知識を持つコンサルティング会社などがアドバイスや確認を行うことで適合性を高め、認証と同レベルの適合性にもっていきます。ただし、第三者認証とは異なり利害関係を持つ関係による確認ですので、中立性に関しては第三者保証ほどではありませんが、コスト面でのメリットがあります。この方式は一般的に「第二者認証」とも呼ばれています。

    また、準拠性に関して自社以外の確認を受けずに自社の判断で準拠を宣言する場合は「自己認証」や「第一者認証」と呼ばれます。

    参照(Reference)

    ISO30414の指標や指針を参考にしつつ、企業の判断にてISO30414を活用し、人的資本報告を行うアプローチです。

    この場合、必ずしも規格の全ての項目に拘束されることなく、企業の実態や戦略に合わせて自由に指標を設定し、開示内容をカスタマイズすることが可能です。あくまで参照しているというレベルですので基本的に適合性は低いものとなります。

    各アプローチのメリットとデメリット

    各アプローチには、それぞれ異なるメリットとデメリットが存在するため、企業はこれらを総合的に判断して最適な選択を行う必要があります。

     認証準拠・参照
    メリット・人的資本報告の信頼性向上
    ・投資家からの評価向上
    ・採用活動の促進
    ・グローバル展開
    ・社内体制の整備
    ・高い柔軟性
    ・コストや手間の抑制     
    デメリット・手間とコスト
    ・継続的な運用と再検査
    ・信頼性確保の課題
    ・比較可能性の低下

    認証のメリット

    • 人的資本報告の信頼性向上
      第三者機関による検証を受けることで、報告内容の客観性と信頼性が高まります。
    • 投資家からの評価向上
      財務情報と同様、客観的な数値データをもとにした判断が可能となるため、投資家からの評価や投資などへのポジティブな効果が期待できます。
    • 採用活動の促進
      報酬やエンゲージメント、定着率、教育投資など、求職者にとって気になるデータの信頼性が保証されるため、入社に向けた貴重な判断材料となります。また、このように人材データを透明性をもって開示する姿勢自体が企業の魅力を高め、優秀な人材の獲得に繋がります。
    • グローバル展開
      ISO30414は国際的なガイドラインであり、この認証を取得していることは世界共通の認識となり、特にグローバルな企業において海外企業との取引や提携において有利に働く可能性があります。
    • 社内体制の整備
      認証取得のプロセスにおいて、コンサルティング会社や認証機関などから数多くの指摘を受けることで、社内のPDCA体制が強固なものとなり、人的資本経営に対する仕組み・体制が高いレベルで構築されます。

    認証のデメリット

    • 手間とコスト
      認証取得には、データの収集・整備、システムの構築、審査対応など、相当な手間と費用がかかります。
    • 継続的な運用と再審査
      認証の効力は永続的ではなく、取得後も定期的な簡易監査(1年ごと)と本格的な再審査(3年ごと)を受ける必要があります。

    準拠・参照のメリット

    • 高い柔軟性
      自社の事業特性や経営戦略に合わせて、開示項目や内容をある程度自由に調整できます。
    • コスト・手間の抑制
      認証取得に伴う審査費用や継続的な審査対応が不要なため、コストや手間を抑えられます。

    準拠・参照のデメリット

    • 信頼性確保の課題
      第三者保証ではないため、報告情報の客観性や信頼性について、外部ステークホルダーからの評価が限定的になる可能性があります。
    • 比較可能性の低下
      参照の場合、企業ごとに開示内容が異なる可能性があるため、他社との比較が難しくなる可能性があります。

    ISO30414の認証取得は、単に「ガイドラインに沿っている」という形式的な証明に留まらず、投資家からの資金調達や優秀な人材の確保といった、企業の競争力に直結する実質的なメリットをもたらします。

    しかし、全てのISO規格がそうであるように、認証取得が「ゴール」ではありません。その過程にある実質的な人的資本経営の改善が重要です。ISO30414では特にデータドリブン経営を重視しており、データによる可視化や報告プロセスの明示化など、人的資本データをいかに体系的に活用し、継続的な人的資本の改善プロセスを確立するかが強く求められています。

    日本におけるISO30414の現状と今後の動向

    日本国内においてISO30414認証(もしくは保証)を受けている企業は、2025年7月時点で22社で、さらに拡大中です。

    ISO30414認証取得企業
    出典:コトラ作成

    現在、国内では人的資本開示の記述様式が各企業に委ねられている状況にあります。このような中で、ISO30414を準拠フォーマットとして採用する企業が増えています。法的義務がないにもかかわらず、日本企業がISO30414を「認証・準拠・参照」する動きが拡大しているという事実は、ISO30414が事実上の業界標準(デファクトスタンダード)として認識されつつあることを示しています。

    これは、企業が自主的に透明性と比較可能性を追求する傾向の表れであり、将来的にこのガイドラインがさらに影響力を増す可能性を秘めています。

    次回予告

    今回はISO30414への関わり方として「認証」「準拠」「参照」の3つの道筋があることを解説しました。

    中でも、第三者によるお墨付きである「認証」に関心を持たれた方も多いでしょう。しかし、その世界をよく見ると「保証」というよく似た言葉も存在します。この二つの違い、そしてその中に信頼性のレベルがあることをご存知でしょうか。

    次回は、この混同されがちな「認証」と「保証」の違いを徹底解説します。そのうえで、ISO30414自体の改訂と、その先に見える新たな認証規格「ISO 30201」の登場という人的資本経営の将来的な展望についても紹介します。貴社の現状の取り組みが未来のスタンダードにどう繋がるのかを示す、必見の内容です。ぜひ次回のコラムもご期待ください。

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  • 【完全解説】ISO 30414認証:プロセスからメリットまで、全てを学ぶ 第4回「ISO30414の58指標」

    【完全解説】ISO 30414認証:プロセスからメリットまで、全てを学ぶ 第4回「ISO30414の58指標」

    ISO30414認証に関する正しい認識を広めるため、本連載では全10回にわたり、その本質と実践的な情報を徹底解説。ISO規格の分類や認証制度のプロセス、ISO30414の具体的な58指標、「認証」と「保証」の違い、さらには認証取得支援実績を通じた認証取得のプロセスやメリットまで、専門家がその複雑な制度を紐解きます。<連載一覧はこちら

    第4回:ISO30414の58指標

    前回のコラムでは、ISO30414の規格構成と、その骨格をなす「11の領域」について解説しました。

    規格の全体像が見えたことで、次はいよいよ、その具体的な中身である「58の指標」に焦点を当てます。

    しかし、多くの解説のように単に指標のリストを眺めるだけでは、この規格が企業に対して本当に求めていることを見過ごしてしまいます。なぜなら、各指標の算出には見た目以上の実務的な困難が伴うものの、その過程こそがISO30414の真の狙いを浮き彫りにするからです。

    今回は、58の指標を紹介するとともに、その算出における実務的な課題を解説します。そして、その課題の先にこそ見えてくる本質的なテーマを解き明かしていきます。

    各領域の具体的な指標

    ISO30414は、企業の人的資本を多角的に捉え、その状況を定量的に可視化するための具体的な指針として、11の主要領域に合計58の指標を推奨しています。これらの指標は、企業が人的資本への投資、管理、活用状況を客観的に把握し、戦略的な意思決定に役立てることを目的として設計されています。

    以下に、ISO30414の11領域と、それぞれの領域に含まれる具体的な指標を挙げます。

    出典:コトラ作成
    • 倫理とコンプライアンス(5項目)
      • 「提起された苦情の種類と件数」、「懲戒処分の種類と件数」、「倫理・コンプライアンス研修を受けた従業員の割合」など。組織の法令遵守と倫理的姿勢を示します。
    • コスト(7項目)
      • 「総労働力コスト」、「外部労働力コスト」、「1人当たり採用コスト」、「離職に伴うコスト」など。人的資本への投資状況を示します。
    • ダイバーシティ(5項目)
      • 「労働者の多様性(年齢、性別、障害、その他)」、「経営陣の多様性」。多様な人材の活用度合いを示します。
    • リーダーシップ(3項目)
      • 「リーダーシップに対する信頼」、「管理職1人当りの部下数」、「リーダーシップ開発」。企業を牽引するリーダーの信頼度と育成状況を示します。
    • 組織風土(2項目)
      • 「エンゲージメント/満足度/コミットメント」、「従業員の定着率」。従業員の定着度合いと組織の安定性を示します。
    • 健康・安全・幸福(4項目)
      • 「労災により失われた時間」、「労災の件数(発生率)」、「労災による死亡者数(死亡率)」など。企業の財産である「人」を大切にする姿勢を示します。
    • 生産性(2項目)
      • 「従業員1人当たりEBIT/売上/利益」、「人的資本RoI」。人的資本投資に対する利益貢献度を示します。
    • 採用・異動・離職(15項目)
      • 「募集ポスト当りの書類選考通過者」、「採用社員の質」、「採用にかかる平均日数」、「離職率」、「離職の理由」など。良い人材の確保、離職防止、人材の流動性などを示します。
    • スキルと能力(5項目)
      • 「人材開発・研修の総費用」、「研修への参加率」、「従業員のコンピテンシーレート」など。人材開発への積極的な投資状況を示します。
    • 後継者計画(5項目)
      • 「内部継承率」、「後継者候補準備率」など。企業の将来を見据えた人材育成が計画的に実施できているかを示します。
    • 労働力(5項目)
      • 「総従業員数(うちフルタイム数/パートタイム数)」、「フルタイム当量(FTE)」、「欠勤」など。企業全体の労働力状況を示します。

    58指標算出のリアル

    実務に携わるとわかるのですが、この58という指標数はかなり絶妙な設定だと感じます。上記の表をふむふむと眺めている分には算出が簡単そうに見え、この数で人的資本全体を網羅できるのか?と感じるのですが、いざ取り組んでみると各指標は非常に骨が折れ、体系的に網羅性、再現性をもって指標を算出するには膨大な時間がかかることが判明します。

    特に神経をつかうのは「コスト」や「採用・異動・離職」の項目です。

    「コスト」については、大枠での計算は問題ないのですが、最終的に細部に至ると企業個別の判断が必要になるケースがあります。
    わかりやすい例で言えば、以下のようなケースです。

    • 集合研修を行った際の会場費はコストに含めるとして、昼食にお弁当を出した場合はどうなるか?
    • 研修会場までの交通費は研修費に入れるのか?
    • リモートワーク用に会社が現物支給として与えたオフィスチェアの費用は福利厚生費に含めるのか?貸与の場合はどうか?

    ISOの規格の主旨や背景を理解した上で、適切な判断をしていくことは大変労力のかかるポイントになります。

    同様に「採用・異動・離職」の項目では、対象となる全従業員(社員、パート・アルバイト)の勤務状況や評価などを把握したうえでの指標の計算が前提となっているため、従業員が多かったり、グループ会社含めた異動、出向、役職変更、組織改編などが絡んでくると、網羅的な把握が難しいケースも発生します。

    実務から見えるISO30414の真価

    そのような観点から、ISO30414では「データ化・システム化」を重視しています。認証審査においてもデータの正確性、網羅性、信頼性(改ざん防止)の観点は重要ですし、それらをきちんと責任を持って運用・承認する「社内プロセス」も重要な審査ポイントとなっています。

    ISO30414というと、つい58指標に目が行きがちですが、それは縦軸であり、横軸には「データを活用した社内体制の構築」が全ての指標の共通事項として存在します。ISO30414が「データドリブン経営に向けてガイドライン」と言われるのはこのような理由によります。

    ISO30414測定指標の網羅性

    筆者はクライアント企業様にISO30414の網羅性についてご説明するときに、以下の図を使うことがあります。いわゆる「人材マネジメントサイクル」にISOの58指標を当てはめていくとしっかりと全般を網羅していることがわかります。

    ISO30414の網羅性
    出典:コトラ作成

    ISO30414というと「人的資本開示」の規格というイメージが強く、58指標をいかに多く社外に開示するかということに目を奪われがちですが、開示はあくまで結果です。そこに至るまでの社内プロセスの構築や人材ポートフォリオの可視化、目標に向けた人事施策の適切な推進といった「企業価値向上に向けたデータドリブン経営の実現」がISO30414の本質であることをご理解いただけますと大変うれしく思います。

    次回予告

    今回はISO30414の核心である58の指標と、算出における実務上の課題、そしてそのプロセスにこそデータドリブン経営の本質が宿ることを解説しました。

    では、多大な労力をかけて指標を算出し、体制を整えた上で、企業はISO30414という規格とどう付き合っていけばよいのでしょうか。その関わり方には、実は複数の選択肢が存在します。

    次回は、ISO30414への3つのアプローチ、『認証』『準拠』『参照』について徹底比較します。日本におけるISO30414の「デファクトスタンダード」化の潮流も踏まえ、貴社にとって最適な関わり方を見つけるための考え方を提示します。ぜひ次回のコラムもご期待ください。

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  • 【完全解説】ISO 30414認証:プロセスからメリットまで、全てを学ぶ 第3回「ISO30414の規格構成」

    【完全解説】ISO 30414認証:プロセスからメリットまで、全てを学ぶ 第3回「ISO30414の規格構成」

    ISO30414認証に関する正しい認識を広めるため、本連載では全10回にわたり、その本質と実践的な情報を徹底解説。ISO規格の分類や認証制度のプロセス、ISO30414の具体的な58指標、「認証」と「保証」の違い、さらには認証取得支援実績を通じた認証取得のプロセスやメリットまで、専門家がその複雑な制度を紐解きます。<連載一覧はこちら

    第3回:ISO30414の規格構成

    前回のコラムでは、ISO規格の分類について、大きく「モノ規格」と「マネジメントシステム規格」があること、マネジメント・システム規格の中にも「認証規格」と「ガイドライン規格」があることを解説しました。

    ISO30414が「人的資本に関するガイドライン規格」であるという立ち位置が分かったことで、次に知るべきは「では、そのガイドラインには具体的に何が定められているのか?」という、規格そのものの中身です。

    ISO30414について多くの解説は「11の領域・58の指標」といった指標リストの紹介に留まりがちですが、それでは規格の本質を見失ってしまいます。なぜならISO30414の規格の中で指標リストはその一部であり、その他の部分にISO30414の意図や狙いが含まれているからです。

    今回は、ISO30414規格を他の認証規格と比較しながら構造的な違いを理解したうえで、「11の領域」位置づけや中身、さらには「推奨」から「義務」へと変化する最新の改訂動向までを解説します。表面的な理解から一歩先へ進むための、決定版ガイドです。

    規格の主要な構成要素

    ISO30414は、国際標準化機構(ISO)が2018年12月に発表した、人的資本に関する情報開示の国際的なガイドラインです。その主要な目的は、組織が人的資本の価値を定量化し、それを戦略立案や意思決定に貢献させることにあります。また、組織の持続可能性や社会的責任に関する情報を報告するための枠組みとしても活用されることが期待されています。

    従来の統合報告書では、人的資本に関する情報が定性的な内容で曖昧な表現が多かったのに対し、ISO30414は明確な基準を提供することで、企業間の比較可能性を高めることを目指しています。

    認証規格と同一の構成要素

    ISO30414は人的資本報告を体系的に行うための包括的な指針を提供しており、序文から第3章までは以下の主要な要素で構成されています。

    • 【序文】人的資本が企業の持続的成長に寄与することや、標準化されたデータ利用により透明性・比較性の高い人材マネジメントを行うことなどが書かれています。
    • 【第1章:適用範囲】 この規格が、公共セクター、民間企業、非営利団体など、企業規模を問わず、あらゆる種類と規模の組織に適用されること。グローバルで包括的な内部および外部への人的資本報告(HCR)のベースラインを概説しています。
    • 【第2章:引用規格】ISO30400 Human Resource Management -Vocabulary (人的資源管理 用語)が引用規格として示されています。
    • 【第3章:用語と定義】 「従業員」「フリーランス」「中小企業」など、本規格内で使用される人的資本情報に関連する重要な用語が定義されています。

    序文〜第3章は、構成・内容とも通常のISO認証規格と同一です。

    認証規格と異なる構成要素

    これ以降の第4章からがISOの規格のメインとなるわけですが、ISOのマネジメントシステム規格(認証規格)とISO30414(ガイドライン規格)では内容が大きく異なってきます。

    認証規格では、第4章〜第10章の構成で、いわゆる「PDCA」サイクルの確立が書かれています。

    ISO30414とISO認証規格の章構成の違い
    出典:コトラ作成

    認証規格(TypeA規格)の構成

    【第4章】組織の状況(P)
    【第5章】リーダーシップ(P)
    【第6章】計画(P)
    【第7章】支援(P)
    【第8章】運用(D)
    【第9章】パフォーマンス評価(C)
    【第10章】改善(A)

    【ISO30414(ガイドライン規格)の構成】

    これに対して、ISO30414は第4章のみが存在します。

    【第4章】人的資本報告プロセス(主にD)

    この第4章の中に4.1〜4.9までのパートがあり、PDCA的な要素が入っています。ただ、TypeA規格(認証規格)のように明確にその手順やプロセスが要求事項として規定されているわけではなく、内容的には主に「運用」(D)に対する基準や手順のガイドラインとなっています。

    有名なISO30414の58指標は、第4章の中の「4.7 報告領域」というパートで詳細に説明されています。

    ISO30414規格書の構成
    出典:コトラ作成

    ISO30414の規格構成を見ると、「報告」だけではなく、「データの収集・手順」といった項目も重視されていることがわかります。これはISO30414が単なる「報告」行為を超えて、人的資本に関するデータを経営判断に活かす「データ駆動型経営」への変革を企業に促していることを示唆しています。

    つまり、ISO30414は、人的資本を可視化するだけでなく、それを経営戦略に統合するための強力なツールとしての役割を担っていると言えるでしょう。

    人的資本報告の11の主要領域

    ISO30414は、人的資本に関する情報を体系的に整理するため、以下の11の主要な領域に分類しています。これらの領域は、企業の人的資本の多岐にわたる側面を網羅しており、包括的な報告が可能となります。

    1. コンプライアンスと倫理:組織の法令遵守と倫理的行動。
    2. コスト:人材採用、育成、福利厚生など、人材にかかる費用。
    3. ダイバーシティ:組織内の多様性(年齢、性別、障がいなど)に関する情報。
    4. リーダーシップ:組織のリーダーシップの質や効果、育成。
    5. 組織文化:従業員のエンゲージメント、満足度、定着率など、企業文化に関する情報。
    6. 健康・安全・福祉:従業員の健康、安全、福利厚生に関する取り組みと成果。
    7. 生産性:人的資本が組織の収益や価値創造にどの程度貢献しているか。
    8. 採用・異動・離職:人材の採用、組織内での異動、離職に関するプロセスと結果。
    9. スキルと能力:従業員のスキル、能力、およびその開発への投資。
    10. 後継者育成計画:重要なポジションを中心とした後継者の育成状況と計画。
    11. 労働力確保:組織が確保している労働力の総数・総量、構成、外部労働力の活用状況。

    これらの11の領域が人的資本のほぼ全ての側面を網羅しているため、企業が人的資本を包括的に捉え、報告する上でISO30414は非常に有用です。一方で、ISO30414はガイドライン規格であるため、企業は全ての指標を開示する必要はなく、自社の業種、規模、経営方針、そしてステークホルダーのニーズに合わせて、開示する指標を優先的に選定できる柔軟性も持ち合わせています。

    この「網羅性」と「柔軟性」のバランスが、ISO30414の実用性を高める要因となっています。

    改訂版ISO30414(ISO/FDIS 30414:2025)における変更点

    ISO30414は、国際的な人的資本経営の潮流に合わせて、継続的に見直しが行われています。最新の改訂版であるISO/FDIS 30414:2025では、いくつかの重要な変更が加えられています。

    最も大きな変更点の一つは、一部の測定指標が「必須指標(Requirement)」として明確に規定されたことです。これらの必須指標は、企業規模(大企業・中小企業問わず)に関わらず、社内および社外への開示が要件となります。これは、ISO30414に対する、投資家を中心とした外部ステークホルダーの期待に応える形であると理解できます。

    人的資本情報の重要性が国際的に高まり、より標準化された開示が求められるようになった結果であり、企業にとっては必須指標は共通の重点指標としておさえつつ、自社の人材への取り組みを、自社の特徴を表す任意指標の選定とともに人材戦略と呼応したストーリーをもって開示していく必要があります。

    改訂版ISO30414の必須指標

    新規追加された必須指標には、以下のようなものがあります。(注:2025年7月時点でのドラフト版に基づくため、最終版では異なる可能性があります)

    • 総FTE (A.1.7):従来の従業員FTEに外部労働力のFTEを加算したもので、企業が持つ「労働力全体」を把握し、生産性など他の測定項目への活用を図ることを可能にします。
    • 人権に関する問題の数、種類、内容 (A.7.7):児童労働や労働環境、差別なども含め、人権に関する問題の件数や内容を報告するものです。
    • 労働協約の対象となる労働力の総労働力に対する割合 (A.7.10):全従業員に対する労働組合員の割合と解釈されます。

    また、既存の指標の中でも「エンゲージメント(A.6.1)」の扱いが大きく変わりました。

    現行のISO30414では大企業、中小企業ともに内部開示項目でしたが、改訂版では必須指標となりました。これは、企業文化の可視化がより重視されるようになった国際的なトレンドを反映しています。エンゲージメントの算出には社内サーベイが必要となるため、調査を行っていない企業は、中小企業も含め、早めに導入準備をすることが推奨されます。

    これらの変更は、人的資本経営に関する国際的な潮流に沿った形での進化であり、企業は今後の情報開示において、これらのへの対応を戦略的に計画する必要があります。

    改訂版ISO30414の詳細は以下のコラムで解説していますので、ご参照ください。

    次回予告

    今回はISO30414の規格構成の全体像と「11の領域」、最新の改訂動向を解説しました。

    次回は、ISO30414で最も有名な「58の指標」を解説します。58指標を列挙してありきたりな説明を加えるのではなく、筆者のコンサルティング実務の経験を通じたリアルな示唆に富んだ内容となる予定です。単なる報告義務から一歩進んだ活用法を知りたい方は、ぜひ次回のコラムもご期待ください。

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  • 【完全解説】ISO 30414認証:プロセスからメリットまで、全てを学ぶ 第2回 「ISO規格の分類」

    【完全解説】ISO 30414認証:プロセスからメリットまで、全てを学ぶ 第2回 「ISO規格の分類」

    ISO30414認証に関する正しい認識を広めるため、本連載では全10回にわたり、その本質と実践的な情報を徹底解説。ISO規格の分類や認証制度のプロセス、ISO30414の具体的な58指標、「認証」と「保証」の違い、さらには認証取得支援実績を通じた認証取得のプロセスやメリットまで、専門家がその複雑な制度を紐解きます。<連載一覧はこちら

    第2回:ISO規格の分類

    前回のコラムでは、ISO30414認証をめぐる数々の誤解について解説しました。
    「公的な認証」と「私的な認証」の本質的な違いはなく、ISO自体が民間組織であるという事実に、少し驚かれた方もいらっしゃるのではないでしょうか。

    なぜ、これほど話が複雑に感じられるのか。その根本的な原因は、多くの人がISO規格の構造を知らずに部分的な情報に惑わされている点にあります。ISO規格の「認証」を理解するためには、ISO規格の分類と体系をざっくりとでも把握することが近道です。「モノ規格」と「マネジメントシステム規格」という大きな区分け、そして後者がさらに細分化されることを知ることで、ISO30414がその中のどこに位置づけられるのかが明確になり、第1回で述べた誤解の背景をより深く理解できるようになります。

    ISO規格の二大分類:「モノ規格」と「マネジメントシステム規格」

    ISO規格は、国際標準化機構(ISO:International Organization for Standardization)によって制定されています。ISOは各国の標準化団体が参加する非政府機関であり、日本からはJISC(日本産業標準調査会)が加盟しています。

    ISOの主な目的は、世界中の産業や技術分野における製品、サービス、プロセスの標準化を推進し、世界中の取引を円滑にすることにあります。製品の大きさ、形状、品質、性能などを世界で統一することで、異なる国の製品でも安全かつ安心して利用できる環境を整備しています。

    ISO規格は、その対象に応じて大きく二つのカテゴリーに分類されます。

    工業規格(モノの規格)

    モノ規格とは、特定の製品の仕様、試験方法、用語の定義などを規定する規格です。

    例えば、非常口のマーク(ISO7010)や、クレジットカードのサイズ(ISO/IEC7810)などがこれに該当し、世界中で統一されたデザインや寸法が用いられています。これにより我々は海外に行ってもひと目で非常口を認識できたり、世界中でクレジットカードを使った買い物ができたりと利便性が向上します。

    マネジメントシステム規格

    これは、企業や組織の活動を管理するための仕組み(マネジメントシステム)に関する規格です。品質、環境、情報セキュリティ、食品安全、労働安全衛生など、様々な目的に合わせて用意されています。

    世界初のマネジメントシステム規格は1987年のISO9001(品質マネジメント規格)であり、ISOの歴史の中でも新しいものになりますが、今ではISOと言えばマネジメントシステムが想起されるほど普及しています。

    マネジメントシステム規格は、組織がPDCAサイクルをきちんと回せているかどうか(回せる体制やプロセスが整っているか)という観点で必要な要件(要求事項:requirement)が定められていて、それに適合していると判断されれば、組織に対して認証が与えられます。

    ISO規格の分類
    出典:コトラ作成

    マネジメントシステム規格の分類:「要求事項規格」と「ガイドライン規格」

    モノ規格とマネジメント規格の違いはわかりやすいと思いますが、マネジメントシステム規格はさらにその中で2つに分類されます。

    • TypeA:要求事項規格(いわゆる「認証規格」)
    • TypeB:ガイドライン規格

    この違いは、ISO30414を理解する上で極めて重要です。

    要求事項規格(認証規格)

    この規格は、英語の原文で「shall(~しなければならない)」という用語が用いられています。これは、その内容を満たすことが原則として「必須である」ことを意味します。

    ISO9001やISO14001などの認証を取得または維持するためには、規格内に記載されている「~しなければならない」という要求事項の全てを原則として満たす必要があります。審査では、これらの要求事項に対して組織の状況が「適合」しているか「不適合」であるかが厳密に判定されます。

    ガイドライン規格

    一方、ガイドライン規格は、英語の原文で「should(~することが望ましい)」という用語が用いられています。これらはあくまで参考指針であり、強制力はありません。

    認証取得の直接的な要件とはならないため、組織はこれらを参考にしながら、自社の状況に合わせて適用することが推奨されます。

    ISO30414の位置づけ:人的資本に関する「ガイドライン規格」

    ISO30414は、2018年に発表された人的資本に関する情報開示の「ガイドライン」であり、「マネジメントシステム規格」の中の「ガイドライン規格」に分類されます。その目的は、国際的に統一的な基準を示すことで、人的資本の透明性を高め、ステークホルダーが企業の状況をより容易に把握できるようにすることにあります。

    「ガイドライン規格」として他に有名な規格に「ISO26000」があります。ISO26000は企業のCSR(社会的責任)関するガイドライン規格で、2010年にガイドライン規格として発行されました。

    「人的資本やCSRに関するISO規格がなぜガイドライン規格なのか?」という問いについて、筆者は以下の理解をしています。

    • 世界的に項目や基準の統一のニーズがあるのは明らか。(投資家などからの視点)
    • ただし、これらの規格は営利非営利問わず全ての組織を対象としており、世界各国の制度や文化・慣習などの違いも反映し、厳密に統一化した基準を作ることは難しい。
    • また、人的資本やCSRは常に社会状況によって変化し、最善のものを追求していくべきものであるので、「これを満たせば合格」のような基準を作ることは、逆に企業の進歩を妨げてしまう恐れがある。
    • 従って、「ガイドライン規格」としてベストプラクティスを示し、各組織が自らの状況に応じて取り入れる「手引書」と位置づけることが望ましい。

    このような背景で世界的なニーズで生まれた比較的新しい規格が「ガイドライン規格」という分類になります。

    ISO30414の改訂が進行中

    前述のような背景で2018年に発行されたISO30414ですが、ISO規格のルールに則り、現在定期改訂作業が行われています。最新のドラフト(ISO/FDIS 30414:2025)では、規格タイトルが以下のように変更されています。

    ISO30414:Human resource management — Requirements and recommendations for human capital reporting and disclosure
    人的資源管理-人的資本報告と開示に関する要求事項と推奨事項

    あくまで今と同じガイドライン規格の分類ではありますが、一部の項目(測定指標:KPI)については要求事項とすることが示唆されています。営利非営利、企業規模問わず全ての組織について最低限共通にすべきことを要求事項として規定することで、従来のガイドライン規格から一歩踏み込んだ形に進化し、2025年後半には発行される予定です。

    また、人的資本に関するISO規格としては、別途策定が進んでいる認証規格があります。

    ISO30201:Human resources management systems — Requirements
    人的資源管理システム – 要求事項

    TypeA認証規格としてはあくまでこちらが発行される予定ですが、改訂版ISO30414についても要求事項が盛り込まれる方向であることは、人的資本に関する国際標準化のニーズがより高まっていることや、ISO主導で各国の状況に基づいた具体的な標準化の検討が進んでいるというトレンドを読み取ることができます。

    改訂版ISO30414については以下のコラムで解説していますので、ご参照ください。

    次回予告

    今回はISO規格の全体構造を解き明かし、ISO30414が「人的資本に関するガイドライン規格」という、特殊な立ち位置にあることを明らかにしました。その構造を理解することで、認証をめぐる数々の誤解の背景が見えてきたはずです。

    では、その「ガイドライン」には、具体的に何が書かれているのでしょうか。自社は何を、どのように開示すべきか、その具体的な中身が気になるところです。

    次回は、いよいよISO30414の規格構成そのものに深く踏み込みます。人的資本を網羅する「11の領域」や具体的な報告項目(KPI)だけではなく、一般的にはあまり解説されていない「現行ISO30414の規格全体」を解説します。さらに、単なる「推奨」から「義務」へと変わりつつある最新の改訂動向にも触れます。
    貴社の対応を考える上で、今もっとも重要な情報をお届けしますので、ぜひ次回のコラムもご期待ください。

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  • 【完全解説】ISO 30414認証:プロセスからメリットまで、全てを学ぶ 第1回 「間違いだらけのISO30414」

    【完全解説】ISO 30414認証:プロセスからメリットまで、全てを学ぶ 第1回 「間違いだらけのISO30414」

    ISO30414認証に関する正しい認識を広めるため、本連載では全10回にわたり、その本質と実践的な情報を徹底解説。ISO規格の分類や認証制度のプロセス、ISO30414の具体的な58指標、「認証」と「保証」の違い、さらには認証取得支援実績を通じた認証取得のプロセスやメリットまで、専門家がその複雑な制度を紐解きます。<連載一覧はこちら

    第1回:間違いだらけのISO30414

    ISO30414に関する情報は、近年インターネット上に溢れかえっています。
    人的資本経営への関心の高まりとともに、この国際規格への注目度も増していることは喜ばしいことです。ISO30414は認証取得が可能なISO規格ですので、認証取得に関する情報も多く見られるのですが、その多くが誤った記述や、本質を捉えきれていない説明となっているのが現状です。

    こうした情報の誤りは、執筆者のISO認証制度に対する理解不足によるものか、あるいは人事に関する知識不足なのか、はたまたAIによって生成された文章を鵜呑みにしているのかは定かではありませんが、結果として多くの企業や担当者に対し、誤解を与えてしまっています。

    本連載の目的は、こうした誤解を解消し、「ISO30414の認証制度」について読者の皆様に正しく理解していただくことです。筆者の知る限り、ISO30414の認証制度に関する正確かつ実践的な情報はほとんど出回っておらず、そこを埋めることが本連載の使命であると考えています。

    はじめに:なぜISO30414の誤解が広まるのか

    ISO30414に関する誤解が広がる背景には、次の2つの要因があると考えられます。

    • ISOの認証制度が複雑である
    • 人的資本開示という新しい分野がISO規格の対象となったこと

    多くの人々は「ISO認証」と聞くと、ISO9001(品質マネジメントシステム)やISO14001(環境マネジメントシステム)、ISO27001(情報セキュリティマネジメントシステム)のような、ISO本部と関連する「公的な」機関が発行する、普遍的な「お墨付き」をイメージしがちです。

    そう思う背景には、ISO認証と言えば連想するISO9001やISO14001などのイメージが強いからでしょう。例えばISO9001は1987年に「品質保証の認証規格」として発行され、製造業でのサプライヤー要請や建設業の官公庁案件の入札条件となったことで広く普及した歴史的経緯があります。多くの人がISO認証と言えば9001や14001を連想するのは極めて当然なのですが、その常識が30414に対する理解を妨げている側面もあるのではと筆者は考えます。

    よくある誤解1:『ISO30414の認証は「ISOの認証機関」から取得できる』

    最もよく見かける誤った情報の一つに、「ISO30414の認証はISOの認証機関から審査を受け、合格すると取得可能。審査機関は日本に約50団体ある」という説明があります。これは根本的に誤りです。現時点でISO30414の認証を与えられる「ISOの認証機関」(一般的なISOマネジメントシステム規格の認証を行う機関)は存在しません。

    そもそも「ISOの認証機関」という表現自体が正確ではありません。これは、「何らかのISOの認証規格についてISOのルールに基づいた認証審査を行うことができる機関」を総称して呼んでいるに過ぎず、世界各国にあるISOの審査機関はISO本部の支部や支店というものではありません。スイスのジュネーブに本社を置くISO本部と、日本国内に約50団体あるとされる認証機関との間には、資本的・人的な関係は一切なく、これらの機関は、あくまで独立した民間組織で、ISO本部とは別法人です。

    一般的に日本に約50あると言われている「ISOの審査機関」と呼ばれる企業・組織・団体は、何かしらのISOの認証規格を審査できる力量が認められている機関を指します。ただし、どのISO規格を審査できるかどうかは審査機関ごとに異なり、個別に認められています。つまり、ISOの認証機関だからといって全てのISO規格を認証できるわけではないのです。
    例えば、ある団体はISO27001やISO9001の認証が可能である一方、別の団体はISO14001のみを扱うといった具合です。この認証範囲の限定は、ISO認証制度の基本的なルールです。ですから、仮にISO30414がいわゆる認証規格だったとしても、50ある審査機関のうち全てで審査が可能なわけではありません。

    そして、別の観点としては、ISO30414が「ガイドライン規格である」ことが挙げられます。ガイドライン規格とは、その規格自体に認証基準が明記されていないものです。そのため、現状のISOのルール上、この規格を用いて他のISO認証規格と同様の認証を与えることはできません。したがって、現行のISO認証制度の枠組みの中で、ガイドライン規格であるISO30414の認証を与えることはできないということになります。
    いわゆる、「公的なISO認証機関による公式な認証」は、ISO30414には適用されないということです。

    よくある誤解2:『ISO30414はガイドライン規格なので認証取得は不可能』

    前述の誤解と矛盾するように聞こえるかもしれませんが、「ISO30414はガイドライン規格なので認証取得はできません」という説明もよく見かけます。これもまた誤りです。実際には、認証取得は可能です。ただし、その方法は一般的なISO認証規格のルールとは異なります。

    ISO30414の認証は、日本においては、HCプロデュース社のようなISO30414に関する専門知識を持つ認証機関から第三者認証を受ける形で取得することができます。HCプロプロデュース社以外ではBSIグループジャパン社もISO30414に関する第三者保証サービスを提供しています。

    多くの情報源が「ガイドライン規格だから認証できない」と主張する中で、HCプロデュース社のような民間の審査機関が「認証」を提供している事実は、認証という概念が一般的な概念より広いことを表しています。また、ISOの「公式」な認証ではなくても、専門性を持つ第三者による検証が市場において充分に価値が認められていることも意味します。

    企業は、この「私的」認証がもたらす信頼性や対外的なアピール効果を理解し、その戦略的意義を評価する必要があります。「私的な」認証は、市場のニーズに応える形で新たな認証のエコシステムが形成されていると捉えることができるでしょう。

    よくある誤解3:『「公的なISO認証機関」が存在する』

    「ISO27001は認証規格なので公的なISO認証機関が認証しますが、ISO30414は私的な認証機関が認証します」という説明も、よくある誤解です。この「公的」という言葉の定義にもよりますが、一般的に「公的」とは政府機関などの公共的な組織を指しますが、ジュネーブにあるISO本部は非政府組織(NGO)であり、政府から独立して活動する非営利の「民間組織」と定義されています。日本の認証機関もほぼ民間企業で構成されています。例えば、ISO27001(ISMS)の認証機関28社のうち、21社が営利を目的とした株式会社です。

    標準化という性格上、公共性を帯びたものであることは理解できます。しかし、ISO自体が民間組織であり、規格の策定も民間企業からの有志を中心に行われ、認証も民間企業が民間企業に対して行っているという現状を理解すれば、「公的」という言葉を選ぶことには違和感があります。同様に「公式」という表現も違和感があります。(このコラム全体で筆者が「公式な」認証、「私的な」認証機関、などと「 」をつけているのは、一般的にそう言われているということを表すためにあえて付けています。)

    「ISOの認証機関」が行っている「公的な」認証も、いち民間企業が行っている「私的な」認証も、「外部組織が客観性をもって組織を評価し、保証を与える」という本質にはなんの違いもありません。ISOという組織が歴史、実績、プロセス、知名度などで信頼性が高いということは言えるでしょうが、あくまで程度問題であり、本質的な違いではありません。

    ISOが国際的な影響力を持つがゆえに、その性質が「公的」と誤解されやすいということは理解できますが、ISO認証は、あくまで「民間による信頼性保証サービス」であるという理解が求められます。

    ISOの認証制度について
    出典:コトラ作成

    ISO30414に対する誤解がもたらす影響と本連載の目的

    これらの数々の誤解に基づいた情報に惑わされ、ISO30414を理解・導入しようとすると、期待する効果が得られないだけでなく、無駄なコストや労力を費やすリスクがあります。特に人的資本は、従来のISO認証制度が中心としてきた品質、環境、情報セキュリティといった分野とは異なり、人事領域に属します。そのため、ISOに詳しい人材と人事に詳しい人材の接点が少なかったことが、正しい情報が発信されにくかった背景にあると考えられます。

    ISO30414のコンサルティング提供を売りにしている企業や、ISO30414のリードコンサルタントでさえも、Webサイトなどで堂々とそのような誤った情報を流している状況をほぼ毎日目にする中で、従業員のエンゲージメントを上げ、会社を良くしていくツールであるISO30414に対する誤解によってせっかくの機会を失ってしまう企業がこれ以上増えないように、との思いがこのコラム執筆のきっかけになっています。

    筆者が企業様からISO30414の問い合わせを受ける際、認証を取りたいとおっしゃるお客様に対して「ISO30414の認証はISO9001などとは少し違うのです」という説明をすると、「じゃあそれは公式ではなくニセモノの認証なのですね」という反応でトーンダウンしてしまうことがたまにあります。認証にニセモノも本物もないのですが、筆者の説明力不足によりそのお客様企業の社内改善の機会が失われるかと思うと忸怩たる思いを感じたりもします。

    本連載では、筆者の長年の知識と実務経験に基づき、人事部・IR部・経営企画部・経営者を中心とした読者の皆様に対し、まだ十分に認知されていないISOの認証制度について、正しいISO30414の認証に関する情報を提供することを目的としています。

    次回予告

    今回は、ISO30414を取り巻く具体的な誤解を一つひとつ解きほぐしてきました。しかし、「なぜ、これほどまでに多くの誤解が生まれてしまうのか」という根本的な疑問が残ります。その鍵は、ISO規格そのものの全体像と、その複雑な体系を理解することにあります。

    次回は、視点を一歩引いて、そもそもISO規格とはなんなのか、多岐にわたるISO規格がどのように分類されているのか、などを詳しく解説します。「モノ規格」と「マネジメント規格」、「~しなければならない」と定められた要求事項規格と「~することが望ましい」とされるガイドライン規格。この全体像を掴むことで、ISO30414が規格全体の中でどのような立ち位置にあるのかが明確になり、今回取り上げた数々の誤解の根源が腑に落ちるはずです。ぜひ次回のコラムもご覧ください。

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  • 改訂版ISO30414の概要と解説(2)〜必須17指標(Requirement)の解説〜

    改訂版ISO30414の概要と解説(2)〜必須17指標(Requirement)の解説〜

    はじめに

    前回のコラム「改訂版ISO30414の概要と解説(1)〜人的資本開示の国際標準が示す人的資本経営の未来〜」では、改訂版ISO30414の全体像についてお話しました。

    その中でもお伝えしました通り、今回の改訂の大きな変更点として、以下が挙げられます。

    ・一部の測定指標が「必須指標(Requirement)」となった
    ・必須指標は大企業・中小企業問わず、社内・社外への開示が要件

    今回のコラムではその17個の必須指標について、現行ISO30414と比較をしながら解説します。

    改訂版ISO30414 必須17指標の概要

    改訂版ISO30414で必須指標とされたものの多くは、現行のISO30414でも指標として存在し、大企業の外部開示指標と規定されています。
    しかしながら以下の通り、全く新規で追加された指標が3つ、指標としてはもとからあるものの重要度が大きく変わった指標が3つあります。

    新規追加指標

    総FTE

    人権に関する問題の数、種類、内容

    労働協約の対象となる労働力の総労働力に対する割合

    → 17のうち3指標が新規追加指標。大企業、中小企業とも新たに対応が必要です。

    変更指標

    ダイバーシティ 年齢

    ダイバーシティ 性別

    エンゲージメント

    → ダイバーシティ(性別、年齢)について、中小企業にとっては内部開示項目から外部開示項目に変更となりました。ただ、この指標は既に多くの企業が開示しているので大きな問題ではないと思われます。
    エンゲージメントについては大きく扱いが変わりました。現行ISO30414では大企業、中小企業とも内部開示項目でしたが、どちらにとっても外部開示必須指標となりました。エンゲージメント調査を行っていない企業は、中小企業も含め、早めに導入準備をされることをおすすめいたします。

    改訂版ISO30414の必須指標は下表の通りです。
    下記17指標が、大企業・中小企業を問わず、社内および社外への開示を要求されています。

    改訂版ISO30414
    の必須指標
    改訂版ISO30414
    の必須指標
    現行ISO30414現行ISO30414現行ISO30414
    番号測定指標(KPI)指標の有無大企業
    外部開示
    中小企業
    外部開示
    A.1.1総従業員数
    A.1.4従業員FTE
    A.1.7総FTEなしなしなし
    A.2.1ダイバーシティ 年齢
    A.2.2☆ダイバーシティ 性別
    A.3.5総教育開発コスト
    A.3.6総労働力コスト
    A.4.1FTEあたりの売上(または予算)
    A.4.2FTEあたりのEBIT(または余剰金)
    A.4.4人的資本ROI
    A.5.1労災発生件数と率
    A.5.2死亡事故件数と率
    A.6.1☆エンゲージメント
    A.7.5必須コンプライアンス研修を受講した割合
    A.7.7★人権に関する問題の数、種類、内容なしなしなし
    A.7.10★労働協約の対象となる労働力の総労働力に対する割合なしなしなし
    A.10.1離職率
    ★は新規追加指標、☆は変更指標。
    出典:コトラ作成

    改訂版ISO30414 必須17指標の説明

    以下、17の各指標について簡単にコメントいたします。

    A.1.1:「総従業員数」/A.1.4:「従業員FTE」

    現行ISO30414と大きな変更はありません。

    A.1.7:「総FTE」

    新たに追加されました。
    総FTEは、従来のFTE(A.1.4従業員FTE)に、「外部労働力のFTE」を加算したものです。これにより企業が持つ「労働力全体」を把握することが可能となり、生産性など他の測定項目への活用も図れるものです。
    ただし、外部労働力については、業務委託など、金額ベースで把握することはできてもFTEとして把握する(FTEを報告してもらう)ことは一般的ではなく、なかなか測定が難しい指標と想像されます。どのように運用していくかについては課題が残る指標と感じています。

    A.2.1:「ダイバーシティ 年齢」/A.2.2:「ダイバーシティ 性別」

    大企業にとっては変更ありませんが、中小企業にとっては内部開示から外部開示が必要な指標へと変更されました。しかしながら、これら指標については従業員台帳を整備している企業であれば容易に算出可能な属性データであるため特段大きな影響はないと思われます。

    A.3.5:「総教育開発コスト」/A.3.6:「総労働力コスト」

    現行ISO30414と大きな変更はありません。

    A.4.1:「FTEあたりの売上(または予算)」/A.4.2:「FTEあたりのEBIT(または余剰金)」

    これらは現行ISO30414では一つの指標でした。算出例の中でそれぞれの指標が紹介されていましたが、個別の測定指標としてそれぞれ独立した指標となりました。
    また、従来は指標名としては「従業員あたりの」となっていましたが、「FTEあたりの」と表記されるようになりました。ただし、現行ISO30414でも規格の説明文の中で「FTEで測定することが望ましい」と記載されていましたので運用上は大きな変更はないと考えて良いと思います。

    A.4.4:「人的資本ROI」

    現行ISO30414と大きな変更はありません。


    A.5.1:「労災発生件数と率」/A.5.2:「死亡事故件数と率」

    現行ISO30414と大きな変更はありません。

    A.6.1:「エンゲージメント」

    今回大きく扱いが変わった指標です。現行ISO30414では大企業、中小企業とも内部開示項目でしたが、改訂版ISO30414では外部開示指標となりました。ダイバーシティのような属性情報と異なり、算出には社内サーベイが必要となるので、準備を含めて期間を要する測定指標となります。

    A.7.5:「必須コンプライアンス研修を受講した割合」

    現行ISO30414と大きな変更はありません。

    A.7.7:「人権に関する問題の数、種類、内容」

    新規追加指標です。
    児童労働や労働環境、差別なども含め、人権に関する問題の件数や内容を報告するものです。どのような項目を対象とするか、どのように発生を把握するか、通報窓口はどうするか、など、まずは運用ルールや体制を構築することが重要です。
    また、センシティブな分野であるため、社外開示にあたっては経営層、コンプライアンス部署やIR部署などを含め開示に関する慎重な判断も必要になります。大企業においては国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」などの基準を運用しているケースもあるでしょうが、中小企業をはじめとしてルール化されていない場合は構築が必要です。

    A.7.10「労働協約の対象となる労働力の総労働力に対する割合」

    新規追加指標です。
    規格原文を読み取ると、「全従業員に対する労働組合員の割合」と解釈されます。
    会社として組合員の数を測定することから派生する問題などがないのか、そもそも正確な測定が可能なのか、会社として適切な目標設定ができるのか、など、運用上の課題が見えないところです。

    A.10.1:「離職率」

    現行ISO30414と大きな変更はありません。

    おわりに

    第2回では、改訂版ISO30414の必須指標について解説しました。
    全体的に大きく変わっているわけではありませんが、人的資本経営に関する国際的な潮流に沿った形での調整がなされていると感じます。
    改訂版ISO30414については、今後も最新情報をお伝えしていきますのでどうぞご期待ください。

    また、ISO30414の認証取得をご検討の方へはどこよりも詳しい解説コラム(全10回)をご用意していますのでぜひご覧ください。

    ISO30414のよくある質問や認証取得などに関するQ&Aはこちらもご参照ください。

    弊社コトラは、業種や企業規模を問わず、人材戦略の策定、運用、ISO 30414認証取得や人的資本開示のご支援を行っております。人的資本経営の実践・開示のお悩みがあれば、ぜひお問い合わせください。

  • 改訂版ISO30414の概要と解説(1)〜人的資本開示の国際標準が示す人的資本経営の未来〜

    改訂版ISO30414の概要と解説(1)〜人的資本開示の国際標準が示す人的資本経営の未来〜

    はじめに

    人的資本開示における国際標準規格として2018年に初めて登場したISO30414は、公開以来、人事・IRの専門家から熱い注目を集めてきました。世界的な人的資本経営のトレンドの中、このISO規格を参照、準拠、認証取得する企業が世界中で増え続けています。

    日本国内では、三井物産、日清食品HD、大阪メトロ、電通総研といった大手企業はもちろん、コンフォートジャパンやレクストHDなど中小中堅企業でも認証を取得し、人材戦略への活用が進んでいます。2025年7月時点で、国内企業の認証取得数は20社に上り、その関心度は年々高まっています。

    ISO30414の初版が発行されたのは2018年12月でしたが、その後の人的資本管理に対する世界的な意識の高まりを受け、内容をさらに充実させるための改訂作業が進められています。
    2024年9月には改訂版のドラフトが公開され、2025年中の公開が予定されています。

    ISO30414の改訂方針を理解することは、認証取得を目指す企業はもちろん、経営者・人事責任者・IR担当者・サステナビリティ担当者などにとっても、今後の国際的な人的資本経営の方向性を把握するうえで非常に有効です。

    本コラム連載では、ISO30414改訂版の変更点と、その背景にある意図について詳しく解説していきます。
    ただし、ここで紹介する内容はドラフト版に基づくものであり、最終版は今後のレビューを経て変更される可能性があることにご注意ください。

    改訂作業の進捗状況

    ISO規格は原則5年ごとに見直しが行われます。2018年に発行されたISO30414は2023年から2024年がその時期にあたり、ISOの手順に沿った形で改訂作業が進められています。

    改訂作業は2022年11月にプロジェクトが発足し、内容の更新が進められ、2024年3月に専門委員会(TC260)での審議が開始されました。2024年9月には国際規格のドラフト版(DIS)が完成し、現在各国の代表機関で検討されています。

    【改訂版ISO30414】

    https://www.iso.org/standard/86106.html

    参考:ISO規格の標準的な策定手順

    出典:ISO –  International Organization for Standardization

    改訂作業のスケジュール  

    ISO30414改訂版の進行状況は以下の通りです。
    ※今後の予定については筆者の予測

    ステージ内容日付
    10.99新規プロジェクトの承認2022/11/21
    20.00新規プロジェクトをTC260に登録2024/3/21
    30.99CDのDISとしての登録を承認2024/7/1
    40.00DISの登録2024/7/1
    40.20DIS投票の開始2024/9/4
    40.60DIS投票締切2024/11/28
    40.99DISの承認2025/02/04
    50.00FDIS登録2025/04/24
    50.99FDISの承認2025/07/26
    60.00国際規格発行準備2025/07/26
    ↓今ここ↓
    60.60国際規格発行上記から7週間以内(2025年9月頃予定)

    ISO30414(改訂版)スケジュール

    主要な変更点

    (1)KPI数と項目数の見直し

    KPIの数は58から69に増加しました。測定項目(領域)の数は現行の11から変わりませんが、その内容(名称)は指標の追加や統廃合に伴い、いくつか変更されています。例えば今まで指標の数が多かった「採用・異動・離職」についてはそれぞれ独立した項目となったため全体的に項目内の指標数は平準化していますが、倫理とコンプライアンス項目には人権や労働関係が追加されたこともあり、指標数が増えています。その他、現行の「リーダーシップ」と「組織風土」は、「リーダシップ・組織風土・エンゲージメント」の1項目にまとめられたり、「異動」と「後継者計画」がひとつの項目にまとめられたりと細かな調整がされています。
    また、改訂版の項目(領域)については、A.1、A.2などの対応番号が振られています。各指標に対しても、認証規格における個別管理策のようにA.1.1などとそれぞれ管理番号が振られており、参照がしやすい形に改善されています。

    現行ISO30414の項目KPI数ISO30414(改訂版)の項目KPI数
    倫理とコンプライアンス5A.7 倫理とコンプライアンス、労働関係11
    コスト7A.3 コスト7
    ダイバーシティ5A.2 ダイバーシティ5
    リーダーシップ3A.6 リーダーシップ・組織風土・エンゲージメント6
    組織風土2
    健康・安全・幸福4A.5 健康・安全・幸福5
    生産性2A.4 生産性4
    採用・異動・離職15A.8 採用5
    A.10 離職4
    スキルと能力5A.11 スキル・能力・開発6
    後継者計画5A.9 異動と後継者計画9
    労働力5A.1 労働力7
    合計58合計69

    (2)測定指標(KPI)が「必須」と「推奨」の2段階に

    KPIの構成が「必須リスト」と「推奨リスト」に分かれました。
    現行版では「大企業」と「中小企業」で推奨指標は区別されていましたが指標の重要性についてはどれも同じ扱いでした。

    改訂版ではその企業規模の区別は残しつつも、17指標が全ての規模の企業に共通の「必須指標」と設定されています。これら17指標は大企業、中小企業問わず、社内外に開示すべき指標と位置づけられています。
    この中でも特に注目すべきはエンゲージメントでしょう。現行版では大企業、中小企業とも内部開示項目の位置づけでしたが、改訂版では大企業、中小企業ともに社内・社外開示を要する必須指標として17指標の中に組み入れられています。

    これらの17指標には、英語では「Reqirement」と表記されています。これらRequirement指標に対しては、ガイドライン規格にも関わらず、マネジメント認証規格で必須要件を示す「Shall」が使用されています。
    今回の改訂ではこれら17指標に対する重要性が強調される内容となっています。

    (3)新たな指標の追加

    改訂版では、「人権」や「労働関係(組合)」の新たな要素が盛り込まれました。
    また、TCFDなどで定着した非財務情報開示の4つの要素(「ガバナンス」「戦略」「リスクと機会」「指標と目標」)に沿った記載をすることというページも追加されました。
    これらはISSBやEUなどを中心とした非財務情報の標準化と歩調を合わせるものであり、ISO30414が国際標準としてより汎用的なガイドラインとなる方向性が感じられます。

    KPIについては、一例として、以下のようなものが新規に追加されています。

    • 正式な健康管理プログラム参加人数
    • 平均在職年数
    • 入社1年以内の離職率
    • 従業員ネットプロモーター・スコア(eNPS)
    • 男女間の賃金格差
    • 多様性による賃金格差
    • 最高経営責任者と従業員の給与平均値の比率
    • 上級管理職と従業員の給与平均値の比率
    • 一定期間に提起された人権問題の件数・種類・結果
    • 団体交渉協定の適用対象従業員割合
    • 従業員1人当たりの年間公式研修時間数、など

    おわりに

    本コラムでは、ISO30414改訂版の概要について解説しました。次回は、必須指標である17指標も含め、現行版と改訂版のISO30414の違いについて、より詳細な比較をお届けします。

    また、ISO30414の認証取得をご検討の方へはどこよりも詳しい解説コラム(全10回)をご用意していますのでぜひご覧ください。

    また、ISO30414のよくある質問や認証取得などに関するQ&Aはこちらもご参照ください。

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  • ISO30414とは?よくある質問と回答を解説【2025年7月更新】

    ISO30414とは?よくある質問と回答を解説【2025年7月更新】

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    ISO30414規格について

    Q:ISO30414とは?

    ISO30414とは、国際標準化機構(ISO)が2018年に策定した、「人的資本に関して内外に情報開示するための国際標準ガイドライン規格」です。

    https://www.iso.org/standard/69338.html

    ▼ISO(International Organization for Standardization)のホームページ
    https://www.iso.org/home.html

    Q:ISO30414の測定指標とは何ですか?指標数はいくつですか?

    ISO30414の測定指標は、11の項目(領域)で合計58指標が定められています。コスト、ダイバーシティ、リーダシップ、生産性、スキルと能力など、世界の人事分野の有識者の検討結果をもとに厳選された測定指標(KPI)となっています。

    Q:大企業と中小企業で測定指標の数に違いはありますか?

    開示指標数に違いがあります。大企業では58指標を測定し、そのうち23指標を社外に開示することが推奨されています。中小企業では32指標を測定し、そのうち10指標の社外開示が推奨されています。

    社外開示しない項目については、社内にて経営層へ報告することとなっています。従業員に対して全ての指標を開示することは求められていませんが、指標ごとに社内共有の方針について決定する必要があります。

    Q:ISO30414での開示はどのような形で行われるのですか?

    ISO30414では、全58指標の結果は全てデータから計算で導き出されるものであるため、開示は全て「数値」となります。但し、定性的なコメントを補足として追加することは推奨されています。
    また、58指標以外の指標を企業が自主的に設定して追加開示することも推奨されています。

    Q:ガイダンス規格(ガイドライン規格)とは何ですか?

    ISO規格は大きく、次の3つに分けられます。

    1. 工業規格
    2. マネジメントシステム規格
    3. ガイダンス規格

    このうち、ISO30414は「ガイダンス規格」になります。

    ISO9001や14001などのマネジメントシステム規格では、規格内に「要求事項」(英語でshallが使われる)があり、その基準を満たすかどうかについて、ISOの認定・認証ルールに基づく認証制度があり、希望する企業は審査を受けることが可能です。

    ガイダンス規格は、組織がより良いありかたを検討するにあたって、ISOが世界中の有識者を集めて作成した、国際的な手引書という存在になります。規格は「推奨事項」(英語でshouldが使われる)で構成され、推奨事項は国際的なベストプラクティス(お手本)という位置づけになります。

    従って、この推奨事項に準拠することは、様々な組織団体から国際的に高い評価を受けることにつながります。

    Q:ISO30414の規格について詳細を教えてください。

    ISO30414では11項目に58の測定指標があります。
    各指標の詳細についてはこちらのコラムをご確認ください。

    ISO30414の規格書自体を入手したい場合は、日本規格協会のホームページから購入することが可能です。
    https://webdesk.jsa.or.jp/books/W11M0090/index/?bunsyo_id=ISO+30414%3A2018

    https://webdesk.jsa.or.jp/books/W11M0090/index/?bunsyo_id=ISO+30414%3A2018

    Q:ISO30414の改訂版はいつ発行されますか?

    ISOの規格は原則5年ごとに改訂されます。現行のISO30414は2018年に初版が発行され、現在改訂作業が行われています。
    改訂版は2025年後半の発行が予想されています。現在DIS(Draft International Standard)の段階ですので「ISO/DIS 30414」という表記になっていますが、正式に発行された後は「ISO 30414」となる予定です。

    ISO 30414 (改訂版)
    Human resource management — Requirements and recommendations for human capital reporting and disclosure
    https://www.iso.org/standard/86106.html

    https://www.iso.org/standard/86106.html


    詳しくは以下のコラムをご参照下さい。

    改訂版ISO30414の概要と解説(1) 〜人的資本開示の国際標準が示す人的資本経営の未来〜https://consulting.kotora.jp/iso30414/iso30414_ver2/

    なお、改訂にあたり、規格のタイトルが変更されています。
    タイトルに「Requirements(要求事項)」という言葉が明記され、測定指標が「必須指標」と「推奨指標」にわかれていることが強調されています。

    (現行版)ISO 30414:2018
    Human resource management
    Guidelines for internal and external human capital reporting
    「社内外に対する人的資本開示のガイドライン」
             ↓
    (改訂版)ISO 30414:2025
    Human resource management
    Requirements and recommendations for human capital reporting and disclosure
    「人的資本報告と開示についての要求事項と推奨事項」

    コトラでは、ISO30414規格の各項目・指標を正しく解釈し、貴社の業務プロセスで活用するためのノウハウを提供しております。詳しくはお問い合わせください。

    ISO30414の認証について

    Q:ISO30414に、ISOの認証基準に基づく認証制度や認証機関はありますか?

    現状はマネジメントシステム規格ではないので、ISOの認証基準に基づく認定・認証制度や認証機関はありません。

    Q:ISO9001やISO14001などのISOの認証審査を扱っている認証機関なら認証取得は可能ですか?

    ISOマネジメントシステム規格の認証は、各審査機関で、規格ごとにできるできないが決まっています。たとえISO9001の認証審査機関であっても、上述の通りISO30414は認証規格(マネジメントシステム規格)ではないので、審査をすることはできません。

    Q:ISO30414の認証は取得できますか?

    可能です。ISO30414について専門知識を持つ企業から第三者認証を受けることにより取得することが可能です。日本ではHCプロデュースが認証サービスを提供しています。またBSIジャパンが第三者保証サービスを提供しています。

    Q:ISO認証を取得している企業の事例はありますか?

    海外ではドイツ銀行及びドイツアセットマネジメント(DWS)が、認証取得を公表しております。
    日本においては、リンクアンドモチベーション、日清食品、大阪メトロ、豊田通商、日本情報通信、三井物産、電通総研など20社が認証・保証を取得しています。(2025年5月2日現在)

    コトラは、株式会社コンフォートジャパン様、コンクリートコーリング株式会社(西日本)様の2社のISO30414認証取得をご支援いたしました。
    詳しくは下記をご参照ください。

    Q:ISO30414の認証取得にはどれくらい期間がかかりますか?

    企業規模やデータの取得状況、対応範囲等により異なりますが、一般的には審査の準備に半年〜1年程度かかります。審査については2〜3ヶ月程度です。認証取得の期間について詳しくはお問い合わせください。

    Q:ISO30414の認証取得した際の有効期間と費用はどうなりますか?

    認証期間については他のISOマネジメントシステム規格と同様原則3年間となります。ただし、認証を取得してから1年後および2年後に通常のISO認証規格と同様「維持審査」に相当するものが行われます。また、3年後には同様に「更新審査」に相当するものがあります。費用については企業規模や審査機関によって異なりますので詳細は審査機関にお問い合わせください。

    Q:ISO30414への対応や認証取得にあたり、社内のリソースはどれくらい必要ですか?

    データ測定の実現度合いや企業規模などにより異なりますので一概には申し上げられませんが、人事部を中心として事務局的な機能があるとスムーズに進むと思われます。専任である必要はありませんが、各種ドキュメントの作成、データ取得・分析、社内関連部署との調整、認証機関との調整、開示物の制作、社内教育など一定の業務は発生しますので複数人で対応いただくケースが多いです。

    Q:ISO30414が認証規格となる可能性はありますか?

    あります。ISO30414の策定にあたったTC260(Technical Committee:専門委員会)によって、人的資本に関する認証規格「ISO30201」の策定が進行中です。タイトルは「Human Resource Management System — Requirements」となっており、マネジメントシステム規格であり、要求事項が含まれることがわかります。
    ISO30201については詳しくは後述の「Q:ISO30201規格について」をご参照ください。

    「認証」も「保証」も「第三者によって組織や個人に対してなにかしらの一定の信用を与える」という意味では同じです。

    「認証」とは一般的に「有効期間内の状態」について保証するものです。例えば運転免許証などが例として挙げられますが、一定期間についてそ一定のレベルが保たれることを保証します。

    「保証」とは一般的に「ある時点の状態」について保証するものです。例えば企業の決算監査などが例として挙げられますが、数値や状態などがその時点の状況として正しいことを保証します。

    ISO30414には審査機関の方針により「認証」「保証」どちらもサービスが提供されています。

    Q:ISO30201規格について

    Q:ISO30201とはなんですか?

    ISO30201は「人的資本管理に関するマネジメントシステム」です。ISOでは人材に関してさまざまなカテゴリーで国際規格を策定しています。

    ISO30201では、それらのカテゴリーを網羅し、人材の「Attract:獲得」「Develop:育成」「Deploy:配置」の観点から効果的・効率的にマネジメントを行い、持続的成長につなげていくためのフレームワークとなる予定です。

    他のマネジメントシステムと同様、「企業(組織)にそのようなプロセスがきちんと導入されているか」「PDCAによる改善サイクルが確立されているか」という視点で審査が可能な認証規格です。ISO30414をはじめとした様々な人事系のISO規格をベースとして、PDCAサイクル確立に必要な各種要求事項を盛り込んだものとして作成が進んでいます。

    ISO/DIS 30201:Human Resource Management System Requirements

    https://www.iso.org/standard/90923.html

    Q:ISO30201の規格の内容は?

    ISO30201の規格書構成は、他のISOの認証規格と同様に10章で構成されています。各章の内容もISOのマネジメントシステム規格では統一されているため、10章全て同一の構成になっています。

    ISO30201の規格書構成

    1章〜3章は全体に関わる内容となっており、4章〜10章がマネジメントシステム(PDCA)になっています。

    ISO30201のPDCA構造

    Q:ISO30201の要求事項とは?

    ISO30201では、ISO9001やISO14001と同様に、「継続的改善を実現するためのPDCAサイクルの確立」を前提としています。そのための「人材マネジメントシステム(Human Resource Management System)」の認証要件が定められています。
    この認証要件は、一般的なマネジメントシステムの構築(マネジメントレビューや経営者のコミットメントの実施、記録手順など4章〜8章)のほかに、人材マネジメントシステム特有の項目も定められています(下記)。

    Q:ISO30201特有の要求事項は?

    ISO30201のドラフト版では、8章「運用」にて、具体的に下記の人事領域について手順を定めることが明記されています。

    1.労働力計画
    2.労働力配分
    3.報酬、表彰及び称賛
    4.採用
    5.オンボーディング
    6.学習と開発
    7.ナレッジマネジメント
    8.タレントマネジメントと定着
    9.パフォーマンス管理
    10.後継者育成計画
    11.労働力の異動
    12.離職(退職を含む)

    一般的なマネジメントシステムの構築に加えて、上記分野においてはより詳細な運用手順の策定・実施が求められます。

    Q:ISO30201規格はいつ公開されますか?認証取得はいつからできますか?

    ISO30201は2025年3月にDIS(Draft International Standard)が公開されました。ISO関係者のレビューが3ヶ月程かかり、その後FDIS(Final Draft International Standard)を経て公開(Publication)されます。通常のISOの発行手順から考えて、早くても2025年末以降の公開と思われます。

    認証取得については、公開後、認証機関による準備期間が必要ですので、 さらに半年程度あとになると思われます。
    ただし、企業側の認証取得準備はドラフト段階からでも可能です。

    コトラでは、ISO30414の認証取得支援実績をもとに、既にISO30201のドラフトに沿った認証取得対策を進めていますので、ご興味のあるかたはコトラまでお問い合わせください。

    ISOでは人材に関連するISO規格を数多く策定しています。
    以下、主な人材関連のISO規格を列挙します。

    No.状態規格番号・リンク和訳タイトル
    1公開中ISO 23326:2022従業員エンゲージメント — ガイドラインHuman resource management — Employee engagement — Guidelines
    2公開中ISO/TS 24178:2021組織文化指標Human resource management — Organizational culture metrics cluster
    3公開中ISO/TS 24179:2020労働安全衛生指標Human resource management — Occupational health and safety metrics
    4公開中ISO 30400:2022用語集Human resource management — Vocabulary
    5公開中ISO 30401:2018ナレッジマネジメントシステム — 要件Knowledge management systems — Requirements
    6公開中ISO 30401:2018/Amd 1:2022ナレッジマネジメントシステム — 要件 — 追補1Knowledge management systems — Requirements — Amendment 1
    7公開中ISO 30401:2018/Amd 2:2024ナレッジマネジメントシステム — 要件 — 追補2Knowledge management systems — Requirements — Amendment 2: Climate action changes
    8公開中ISO 30405:2023採用に関するガイドラインHuman resource management — Guidelines on recruitment
    9公開中ISO/TR 30406:2017組織の持続可能な雇用管理Human resource management — Sustainable employability management for organizations
    10公開中ISO/TS 30407:2017採用コストHuman resource management — Cost-Per-Hire
    11公開中ISO 30408:2016人材ガバナンスに関するガイドラインHuman resource management — Guidelines on human governance
    12公開中ISO 30409:2016労働力計画Human resource management — Workforce planning
    13公開中ISO/TS 30410:2018採用の影響指標Human resource management — Impact of hire metric
    14公開中ISO/TS 30411:2018採用の質指標Human resource management — Quality of hire metric
    15公開中ISO 30414:2018内部および外部の人的資本報告に関するガイドラインHuman resource management — Guidelines for internal and external human capital reporting
    16公開中ISO 30415:2021多様性と包摂性Human resource management — Diversity and inclusion
    17公開中ISO/TS 30421:2021離職と定着指標Human resource management — Turnover and retention metrics
    18公開中ISO 30422:2022学習と開発Human resource management — Learning and development
    19公開中ISO/TS 30423:2021コンプライアンスおよび倫理指標Human resource management — Compliance and ethics metrics cluster
    20公開中ISO/TS 30425:2021労働力の可用性指標Human resource management — Workforce availability metrics cluster
    21公開中ISO/TS 30427:2021コスト指標Human resource management — Costs metrics cluster
    22公開中ISO/TS 30428:2021スキルと能力指標Human resource management — Skills and capabilities metrics cluster
    23公開中ISO/TS 30430:2021採用指標Human resource management — Recruitment metrics cluster
    24公開中ISO/TS 30431:2021リーダーシップ指標Human resource management — Leadership metrics cluster
    25公開中ISO/TS 30432:2021労働力の生産性指標Human resource management — Workforce productivity metrics cluster
    26公開中ISO/TS 30433:2021後継者計画指標Human resource management — Succession planning metrics cluster
    27公開中ISO 30434:2023労働力の割り当てHuman resource management — Workforce allocation
    28公開中ISO 30435:2023労働力データの質Human resource management — Workforce data quality
    29公開中ISO/TS 30437:2023学習と開発指標Human resource management — Learning and development metrics
    30公開中ISO/TS 30438:2024従業員エンゲージメント指標Human resource management — Employee engagement metrics
    31策定中ISO/DIS 30201人材マネジメントシステム — 要件Human Resource Management System — Requirements
    32策定中ISO/FDIS 30414人的資本報告に関する要求事項と推奨事項Human resource management — Requirements and recommendations for human capital reporting and disclosure
    33策定中ISO/AWI TS 30436多様性と包摂性指標技術仕様Human Resource Management — Diversity and Inclusion Metrics Technical Specification
    34策定中ISO/AWI 30439データプライバシー標準Human Resource Management — Data Privacy Standard
    35策定中ISO/AWI 30441職場のウェルネス — ウェルビーングと効果を向上させるための実践の創造と促進Workplace Wellness — Creation and promotion of practices to improve wellbeing and effectiveness

    「Requirement」や「要件」「要求事項」とあるものは、いわゆる認証規格です。
    No.31〜35は現在策定中のものですが、No.31の「ISO/DIS 30201」が将来的に「人的資本マネジメントシステム(ISO認証規格)となると想定されているものです。
    No.32は現在のISO30414(No.15)の改訂版です。(2025年秋くらいの公開と予想されています)
    改訂版の詳細についてはこちらをご参照ください
    改訂版ISO30414の概要と解説(1)〜人的資本開示の国際標準が示す人的資本経営の未来〜
    注:上記各規格のタイトルについては筆者による翻訳で、正式なものではありません。

    改訂コーポレートガバナンス・コードにて人的資本に関する原則が新規追加されております。【補充原則2−4①】では中核人材のダイバーシティについて、【補充原則3−1③】では人的資本への投資について追加されており、それぞれ開示事項となっております。これらはISO30414においても測定項目と規定されています。

    HRレポート、有価証券報告書、統合報告書、CSR報告書、ホームページ等での開示が想定されております。

    Q:中小企業にとって、取り組む意義はありますか?

    ISO30414は企業規模を問わず全ての組織で適用することを想定して作られています。

    中小企業にとって、ISO30414の各項目に取り組むことは、社内の人事施策の向上となり、従業員満足度や組織の生産性向上への取り組みにつながります。また、ISO30414では取り組みを社外だけでなく社内に向けて周知することも推奨されています。これによって、従業員に対して、会社としてきちんと人事施策向上に取り組んでいることを伝えることになり、社内の透明化、エンゲージメントの向上も見込まれます。

    ISO30414規格では人事部が主体になると規定されておりますが、データの取得や分析において、経理部、IR部、経営企画部、情報システム部などさまざまな部署の協力が必要となります。

    • IIRC統合フレームワークとは、財務情報と非財務情報を統合した報告書の枠組みです。
    • GRIスタンダードとは、非財務報告の枠組みです。
    • SASBスタンダードとは、将来的な財務インパクトが高いと想定されるESG要素に関する開示の枠組みです。

    上記3つの枠組みは、非財務情報であるESGの三要素の開示に関する枠組みですが、ISO30414とは、人的資本の開示に特化した枠組みです。
    なお、上記3つのフレームワークは現状ではISSB(IFRSの非財務情報開示標準化団体)に統合されています。

    規格では、経年による比較可能性を考慮して原則3年分のデータ開示が必要です。いち早く取り組みを始めることで、ISO30414の認証取得にかかる期間が短縮されたり、社内基盤が確立されることでISO30201の認証取得をスムーズに取得できるなどの効果が見込まれます。
    また、人材に対する先進的・積極的な取り組み企業として、株主、取引先、従業員、求職者をはじめとしたステークスホルダーに対し、大きくアピールすることも可能と考えます。
    さらに、社内の人事データの可視化・分析に取り組むことで、人事制度改革や社内情報共有の推進につながり、エンゲージメント向上などざまざまな組織生産性向上効果につながることも期待されます。

    ISO30414への知識・スキルに対するコンサルタント認定資格制度があります。
    「ISO30414 Lead Auditor/Consultant Certification」

    本資格を有するコンサルタントは、ISO30414のコンサルティング、監査、認証に対して充分なスキル・知識がある証となります。当社では2名のコンサルタントがこの資格を所有しています。
    詳しくは下記リリースをご参照ください。

    「人的資本開示ガイドライン「ISO30414」リードコンサルタント認証取得のお知らせ 〜コトラ人的資本コンサルティング3人目のISO30414 Lead Auditor/Consultant Certificationを取得~」2024年2月14日

    また、資格以外の観点としては「コンサルティング実績」が挙げられます。コンサルタント資格を持っていても実際にコンサルティング実務を行ってみないと現実的・実務的なアドバイスは難しいものです。

    コトラでは複数のISO30414の認証取得コンサルティングの実績や、ISO30414を活用したHRレポート「People Fact book」の制作サポートをはじめとし、さまざまな形で企業様のISO30414活動のご支援を行っており、豊富な実務ノウハウを所有しております。

    日本ではHCプロデュース社がISOの30414リードコンサルタントの認定制度を運用しています。

    株式会社HCプロデュース
    「ISO 30414講座(プロフェッショナル認証/マスター/インハウス)」
    2ヶ月ほどの期間で、講義、確認テスト①(知識確認)、ケーススタディ取組み(課題レポート提出)、確認テスト②(最終テスト/口頭試問)の内容となっています。

    海外ではHR Metrics社が同様の内容のコンサルタント認定プログラムを提供しています。
    HR Metrics
    ISO 30414 Professional Certification for HR Consultants/Assessors/ Practitioners

    HR Metrics社とHCプロデュース社は提携しており、認定プログラムの内容はほぼ同一となっています。
    コトラでは1名がHR Metrics社から、1名がHCプロデュース社からリードコンサルタント認定を受けております。

    その他ご質問がございましたら、下記問い合わせフォームからお問合せください。
    個別に専門コンサルタントからご回答差し上げます。

  • 人的資本開示を巡る国内法制度化の動向

    人的資本開示を巡る国内法制度化の動向

    人的資本開示を巡る国内法制度化の動向(2022年6月)

    2022年に入り、「人的資本開示」に関する日本国内の動きが加速しています。
    政府による法制度化、ルール化などについて新聞報道等で取り上げられることが目立つようになっており、弊社顧客からもご相談やお問合せが増えております。

    今回のコラムでは、執筆時点(2022年6月7日時点)での人的資本を巡る日本国内の政府の動向やトピックスについてまとめております。

    1:内閣府

    内閣府主導の人的資本開示関連活動としては以下が挙げられます。

    ①新しい資本主義実現会議
    ②非財務情報可視化委員会(①のワーキングループ)
    ③骨太の方針(6/8追加)

    ①新しい資本資本主義実現会議

    2022年5月31日に「第8回新しい資本主義実現会議」が開催され、今までの議論をまとめた「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画(案)」が公表されました。

    37ページに及ぶ本資料では、「Ⅰ.資本主義のバージョンアップに向けて」という大きなテーマから、個別具体的な施策に至るまで、これから日本が実施すべき重点項目が記載されています。その中でも第一に挙げられているのが「1.人への投資と分配」です。人をコストではなく資産ととらえ、積極的に投資を行うことが重要だとされております。その際の施策の一つとして、人的資本開示の重要性が強調されております。

    5月14日付の日本経済新聞によると、今夏までに、「リーダーシップ」「後継者育成計画」「採用」「育成」「多様性」など人的資本に関する19項目の測定項目(KPI)が定められ、企業による公表が求められていくとのことです。

    2022年9月16日追記
    「人的資本可視化指針」がパブリックコメントを経て正式にリリースされました。(2022/8/30)
    6月に発表された(案)と大きく変わることはなく、企業が自主的に任意に対応するためのガイドラインとしての位置づけとなります。
    人的資本可視化指針
    付録①
    パブリックコメントの結果公示

    参考資料:
    「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画(案)~人・技術・スタートアップへの投資の実現~」(第8回新しい資本主義実現会議資料:2022年5月31日)

    上記資料より一部抜粋

    • 「費用としての人件費から、資産としての人的投資」への変革を進め、新しい資本主義が目指す成長と分配の好循環を生み出すためには、人的資本をはじめとする非財務情報を見える化し、株主との意思疎通を強化していくことが必要である
    • 今後、資本市場のみならず、労働市場に対しても、人的資本に関する企業の取組について見える化を促進することを検討する
    • 企業側が、モニタリングすべき関連指標の選定と目標設定、企業価値向上との関連付け等について具体的にどのように開示を進めていったらよいのか、参考となる人的資本可視化指針を本年夏に公表する。
    • 今後、資本市場のみならず、労働市場に対しても、人的資本に関する企業の取組について見える化を促進することを検討する。

    ②非財務情報可視化研究会

    新しい資本主義実現会議の分科会として、「費用としての人件費から、資産としての人的投資への変革に向けて」と題し、世界の動向に注目しながら「人的資本の可視化」「可視化に向けた対応」の具体化について検討されております。

    マクロな市場データやアンケート調査結果など、豊富なデータや図表があり、大変参考となります。また、47ページから74ページにわたって、個別の測定項目(KPI)について、ISO30414、WEF、SASB、GRI、CSRD(欧州)、SEC(米国)、有価証券報告書(日本)、コーポレート・ガバナンスコード(日本)での対応を、マトリックス形式で整理されております。
    政府がISO30414に非常に注目しており、そのカバー範囲をどのようにとらえているかを読み取ることができます。

    参考資料:
    非財務情報可視化研究会(第5回)配付資料 指針(たたき台)2022年5月19日

    ③骨太の方針 

    昨日、2022年6月7日に、いわゆる「骨太の方針」が閣議決定されました。
    正式名称は「経済財政運営と改革の基本方針 2022 新しい資本主義へ ~課題解決を成長のエンジンに変え、持続可能な経済を実現~」となります。

    今後の日本の大方針である「骨太の方針」、その中で根幹となるのが「新しい資本主義」であり、「新しい資本主義」の中心となるのが「人材に対する成長と分配」、つまり「人的資本」という構図になります。

    骨太の方針と同時に「実行計画工程表」も公開されております。こちらでは、各施策について、より具体的な項目とスケジュールを確認することができます。

                                         出典:新しい資本主義実行計画工程表

    参考資料:
    経済財政運営と改革の基本方針 2022 新しい資本主義へ
    ~課題解決を成長のエンジンに変え、持続可能な経済を実現~(2022年6月7日)

    新しい資本主義実行計画工程表(2022年6月7日)

    2:金融庁

    ①ディスクロージャーワーキング・グループ

    「経済社会情勢の変化を踏まえ、投資家の投資判断と建設的な対話に資する企業情報開示のあり方を検討」するための会議体であり、近年の大きなテーマは、非財務情報開示と企業の持続的成長と見受けられます。
    開示先は投資家を想定しているものですが、その中でも具体的には有価証券件報告書での記載について、ここ最近報道等で取り上げられております。
    報道等では、今夏に方針が示され、2023年から有価証券報告書での記載が義務付けられるのでは、と言われております。

    5月23日に開催された、金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ」(第9回)の資料では、有価証券報告書内での人的資本の開示項目について言及されており、最終的に以下の形での開示が義務付けられるようです。

    (ⅰ)「人材育成方針」 (多様性の確保を含む)や「社内環境整備方針」について、有価証券報告書のサステナビリティ情報の「記載欄」の「戦略」の枠の開示項目とする 
    (ⅱ)上記の「方針」と整合的で測定可能な指標(インプ ット、アウトカム等)の設定、その目標及び進捗状況について、同「記載欄」の「指標と目標」の枠の開示項目とする
    (ⅲ)女性管理職比率、男性の育児休業取得率、男女間賃金格差について、中長期的な 企業価値判断に必要な項目として、有価証券報告書の「従業員の状況」の中の開示項目とする

    ※下線は筆者追加。前提として、有価証券報告書内に、「サステナビリティ情報」という大項目が新設となり、(ⅰ)(ⅱ)はそこへの記載となります。

    また、ISO30414については以下のような記載があり、金融庁でも注目されていることが伺えます。

    • 一方で、国際的には、例えば、以下のような開示の議論が進んでいる。
    •  米国では、SEC が、2020 年 11 月、非財務情報に関する規則を改正し、年次報告書に おいて人的資本に関する開示の義務付けを行った。これにより、企業は、事業を理解する上で重要な範囲で、人的資本についての説明や、企業が事業を運営する上で重視する人的資本の取組みや目標などの開示が求められている。
    •  国際標準化機構(ISO)は、2019 年1月、ISO30414 を策定し、人的資本の状況を示す指標を公表している。
    • こうした中、国内外の企業では、人的資本や多様性に関する戦略や方針、人材の育成・維持するための主要なプログラム、関連する指標の実績や目標をインプットとアウトカムに分けて開示するといった取組みが進んでいる。

    参考資料:
    金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ」(第9回)2022年5月23日
    「-中長期的な企業価値向上につながる資本市場の構築に向けて-」

    3:経済産業省

    ①人材版伊藤レポート2.0 (人的資本経営の実現に向けた検討会 報告書)

    2020年9月に第1弾が公表され、その後の人的資本経営において大きな影響を与えた人材版伊藤レポートの第2弾が、2022年3月18日に公表されております。
    本報告書の狙いについて、経済産業省は以下の通り説明しております。

    本報告書では、「人的資本」の重要性を認識するとともに、人的資本経営という変革を、どう具体化し、実践に移していくかを主眼とし、それに有用となるアイディアを提示するものです。
    ただし、全ての項目にチェックリスト的に取り組むことを求めるものではありません。事業内容や置かれた環境によって、有効な打ち手は異なります。
    本報告書をアイディアの引き出しとし、経営陣が人的資本経営へと向かう変革を主導していただけることを期待します。

    前回の報告書をさらに深堀りし、より実践的な手引書となっており、今後の企業の人的資本経営において非常に重要な指針となるものであります。

    参考資料:
    「人材版伊藤レポート2.0」(人的資本経営の実現に向けた検討会 報告書)2022年3月18日

    ②未来人材会議 

    経済産業省では、以下の趣旨にて、「未来人材会議」を開催しております。

    • デジタル化の加速度的な進展と、「脱炭素」の世界的な潮流は、これまでの産業構造を抜本的に変革するだけではなく、労働需要のあり方にも根源的な変化をもたらすことが予想される。
    • 今後、知的創造作業に付加価値の重心が本格移行する中で、日本企業の競争力をこれまで支えてきたと信じられ、現場でも教え込まれてきた人的な能力・特性とは根本的に異なる要素が求められていくことも想定される。
    • 日本企業の産業競争力や従業員エンゲージメントの低迷が深刻化する中、グローバル競争を戦う日本企業は、この事実を直視し、必要とされる具体的な人材スキルや能力を把握し、シグナルとして発することができているか。そして、教育機関はそれを機敏に感知し、時代が求める人材育成を行えているのか。
    • かかる問題意識の下、2030 年、2050 年の未来を見据え、産学官が目指すべき人材育成の大きな絵姿を示すとともに、採用・雇用から教育に至る幅広い政策課題に関する検討を実施するため、「未来人材会議」を設置する。

    その未来人材会議の中間報告が「未来人材ビジョン」として、5月31日にまとめられました。
    2030年、2050年を見据えた日本の労働市場に対応していくための政府方針・施策がまとめられております。こちらの資料も、現在及び今後の労働市場に関する豊富なデータが参考となるとともに、今後の日本政府の大きな指針を確認することができる非常に参考となる資料となっております。

    参考資料:
    「未来人材ビジョン」(未来人材会議 中間とりまとめ 2022年5月31日)


    株式会社コトラでは、ISO30414を始めとした人的資本に対する取組みを専門的に行っております。コンサルティングをはじめ、人材紹介DX支援など、トータルで企業様の人的課題を解決し、持続的成長のご支援をしております。

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